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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第三章 暗躍する不老不死
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重症

不老不死は手に入れたい夢だ。その最たるものが今目の前にいる。緋彩を人質にして誘き出そうとしていたのだから、ある意味これは望んだ結果である。

だが何故こんなにも不測の事態だと思っているのか。

男達は皆、そんな顔をしていた。




「それで?お前らがガンドラ教の信者か?」

「…だったら何だ」




緋彩を襲った男は恐らくこの五人の中でリーダー格なのだろう。ノアが来た時にふっ飛ばされて床に散らばっていたナイフを拾い、ノアの射殺しそうな視線に対抗しようとする。

ノアの方はまだ剣も抜いていないというのに、すでに勝負が見えていると思うのは何故なのか。


「お前らの教祖、どこにいる?まさかガンドラ教ってこれだけじゃねぇよな?」

「何故そんなことお前に教えなきゃならん。お前に渡してやる情報などないし、さっさとここから出ていけ。俺達は忙しい」

「あん…?俺だって忙しいっつーの」

「はひっ!?」


トーンの落ちた声は、男達の肩をビクリと揺らすほどだ。そしてその視線は、す、と緋彩に落とされた。血溜まりに氷が張るほど氷点下の目をしている。


「こいつにいろいろと思い知らさなきゃならんことが山程あるからなァ!」

「ひぃぃぃ!」


身悶えするような目つきのノアに、男達も震え上がったが、叫びたいのは緋彩の方である。これからいろいろと思い知らされるんだぞ。何が待っていると思う。予想もつかないことが一番恐ろしいのだ。

ノアはリーダーの男の胸倉をむんずと掴み、低かった相手の目線を自分の高さまで引き上げる。どちらかというと小柄目な体格ではあるが、しっかりと男の身体をした人間を片手で持ち上げるなんて、この細身の肢体のどこにそんな筋肉がついているのか。


「俺はお前らのやっていることに興味がある」

「きょ、興味…?」

「不老不死について何年も調べてるなら、アクア族のことも知ってるよな?ガンドラ教祖の居場所を教えないっつーなら、お前らの知っていること全て、洗いざらい吐かせるまでだ」

「…っ」


覚悟はいいな?と黒い笑みを浮かべた横顔が、緋彩の位置からも確認できたが、多分あれを正面で受けたらこの男のようになるのだろう。恐怖と緊張で泡を吹きそうになっていた。

そしてノアは、この中で誰よりも悪役のような表情のまま、部屋に転がる男達へも視線を向けた。


「お前らも順番に話聞いてやるからちょっと待ってな」

「っ!!」

「逃げようとしたら俺の魔法が火を噴くからな」

「っ!!」

「え、ノアさん?あなた魔法は…、っ、…ナンデモアリマセン」


ぐいん、と緋彩に戻ってきた夜叉の顔が黙ってろと言っていた。

ノアが言うことがハッタリであることは、状況を冷静に観察すれば分かることだ。よく見てみてほしい。ノアがぶち破ったドア、くっきり拳の痕がついている。普通なら魔法で爆破でもした方が簡単なのに、物理攻撃を使っているのは訳があるからだ。緋彩だって分かることなのに、それに気付けないというのは、ガンドラ教ってもしや頭悪いんじゃなかろうか。不老不死の研究ばかりしているもんだから。





「さあ、始めようか。────…お前らの好きな拷問」





その恐ろしく整った顔で作る笑顔は、それほどに恐ろしい。




















それから、何がどうなったかは緋彩にはよく分からなかった。薄い意識の中で確認出来たのは、大の大人の泣き叫ぶ声がこだましていたことだけだ。

何度も同じところを傷つけられたためか、胸の傷はすぐには治らず、並行して痛みもなかなか治まらなかった。当然失った血液も元には戻らず、頭はぼーっとして身体は恐ろしく重い。勝手に瞼が下りてきて、このまま眠ってしまえばどんなに楽だろうと思ったが、そんなことしたら『俺が働いている中惰眠を貪るなんていいご身分だな』という鬼が現れることは火を見るよりも明らかだからだ。


ゴミのように積み重なった男達の山が、視界の端に入る。それももうぼやけていて、ゴミなのか人間なのか判断しかねた。ただ、そこからゆっくりと緋彩の方へ歩いてくるノアの姿だけはやけにハッキリと映し出される。

やばい、寝るな。寝たら死ぬ。視界を閉じるな。意識を叩き起こせ。でなければ、近づいてくる鬼の餌食となる。




「おい」

「…ふぁ、ふぁい!」




瞼の筋肉に無理を言わせた結果、多少視界は開けたけれど、それもほんの少し。覗き込むノアの顔がちょっと近いな、と分かったくらいだ。彼がどんな顔をしているのかもはや想像もしたくないが、笑っていないことだけは確かだろう。

今からはきっと緋彩の拷問の時間だ。せめてそれが終わるまでは意識を保っておかねば、次に起きた時に身体がどうなっているか分かったものじゃない。もしかしたら腕とか脚とか変な方向に曲がっているかもしれない。あの目の前の男たちのように。

なんて恐ろしい未来だと思いながら、背筋を冷やしていると、ふと身体が軽くなる。いや、軽くなると言うよりは解放されたような感覚だった。そういえば緋彩の手首と足首は拘束されたままで、それが解けたのだ。


自然に解けるほど緩い拘束ではなかったはずだけれど。




「………ノア、さん…?」

「喋るな。出血が酷い」




ノアは緋彩に巻いていた自分の上着の裾を破って、止血をするように緋彩の胸に押し当てた。ぐっと押さえつけられた傷は痛みを増すけれど、感覚は半分麻痺していてどのくらい痛いのかもう分からない。

麻痺しているのは痛覚だけじゃない。身体の機能の殆どが通常に働いていないと思った。手足は動かないし、息はしづらいし、視界は霞むし、ノアの表情が怒っているように見えなくなってきた。これは重症だ。

殆ど怒りしかぶつけられていなかった表情が、何か別の理由で険しく厳しい。テストの難問にぶち当たったような、不本意にも応えなければならない状況に置かされているといった、そんな顔。


音も聞こえづらい。

怒気しか含まれていなかったノアの声が、低く、宥めるように聞こえてくる。これは重症でしかない。


甘く、優しさすら感じるような。








「ヒイロ」








子守歌に聞こえるのだから、これはもう重症なのだ。











「眠っていい」











不死でも死んでしまう時はこんな風になるのだろうか。










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