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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第三章 暗躍する不老不死
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手にした憧れは

お願いだから早く解放してほしい。一刻も早く解放してほしい。だって怖いのだ。不死であろうと怖いのだ。連れ去らわれるなんて自分の身に起きることはないと思っていた。いざ体験してみると、想像以上の怖さだ。

何が起こるか分からない。何をされるか分からない。何を言われるか分からない。十五年生きてきて、緋彩は今ほど怖いと思ったことはないかもしれない。


お願いだから、連れ去らわれたとノアが気付く前に彼の前に戻りたい。


だから気を付けろと言っただろうがとノア夜叉の顔がありありと思い浮び、ガタガタと震える。


「見ろ、こいつ震えてるぞ」

「何にも怖がらなくていいよ、嬢ちゃん。おじさんたちにちょっと協力してもらうだけだ。おじさんたち皆優しいからね」

「そうでしょうとも!」

「?」


この事実に気付いたノアに比べたら、皆天使に見えるに違いない。こいつらは知らないんだ。あの心臓を貫かれたときよりも苦しくなる、瞳孔が開ききった目に射止められる恐怖を。死なないと分かっているのに殺されると思ってしまう呪いをも凌駕する殺気を。


「あ、あんたたちなんかねぇ!ノアさんに比べたら屁でもないんだから!」


百億歩譲っても、この事態がノアにバレた時に勝る恐ろしさはない。


「そりゃノア=ラインフェルトに挑もうなんて誰も考えちゃいないよ。出来ればあっちの方も調べて見たかったけど、とりあえず今は君が手に入ったから贅沢は言わないよ。それと、女の子が屁とか言うの良くないよ」


緋彩を囲んでいる男たちは約五人。どれも黒いレインコートのような福に身を包み、フードを深く被っていて顔は余り見えない。見えるのは口もとまでで、だがそれだけで表情は読めた。五人皆が薄く笑っている。買ってきた玩具を開ける前の子どものような笑みだ。これから、どんな楽しみが待っているのか、どうやって遊んでやろうか、どこがどんな仕様なのか。いろんなところを弄って、試して、たまに強引なこともして、たまに壊してしまったりして、修理して、遊び倒す。そんな大事にしてきたものだから愛着も湧くのだ。

さて、この玩具は自分達をどう楽しませてくれるのだろう。

そんな空気が漂っていた。


「わ…、私をどうする気ですか?食べますか?今ならドリア付きですけど」


昼に食べたから。

拷問だとか、人体実験だとか、緋彩には非現実的すぎて想像もできない。昔何かのアニメで、能力を持っている人間を喰って自分の能力を上げるというものを見たが、もしかしてこの人はそれを考えているのかもしれない。緋彩は今からこんがり焼かれて焼肉にして喰われるのかもしれない。残念ながらあまり美味しそうなハラミとかは豊富に取れないだろうけれど、大丈夫だろうか。

いつの間にか緋彩は、五人で焼肉をするには緋彩一人じゃ量が足りないのではないかといらぬ気遣いを考えていた。考えを読まれたのか、男の一人がお気遣いどーも、と地面に転がっている緋彩に目線を合わせてきた。

肉の量への気遣いに礼をされたのか、ドリア付きにしたことに礼をされたのかは分からない。


「不死の人間の血肉を喰うと同じ不死になれる…という噂は確かにある。だが、俺達は共喰いをする趣味は持ち合わせていないんだ」


男はフードを下ろして顔を見せてくる。

細目で狐のような顔。勿論緋彩は見ず知らずの男だ。名乗られたとしても彼らが誰なのかは分からないだろう。

ただ言えるのは、こいつらは確実に緋彩の不死を狙っているということ。


「…では、どうするというんですか?私もよくは知らないけど、不死は理屈じゃないんですよ?」


呪いと言われる、理屈どころか物理攻撃だって太刀打ちできないもの。そもそも不死を奪うなんてこと可能かどうかも分からないのに、一体何をしようとしているのか。

脅したわけではないが、男は全く動揺など見せることなく、目を細く、笑みを深くした。


「勿論、分かっているさ。だが俺達研究者は、それでも答えを追い求める。その努力の結果が()()なんだよ」

「!」


そう言って男が手元に取り出したのは、見覚えのある紙包みだった。

同じ包み方、同じくらい紙の色、同じ材質。たったそれだけで緋彩が知っているものだとは決めつけられない。けれどこの状況、この流れでそうじゃないと説明する方が難しい気がするのだ。

ノアが持っていた()()()ではないと言う方が。


「……それ、何ですか」

「あれ、知らない?この手の界隈では有名な薬なんだけどなぁ。万能薬だよ、ただの」

「それは、あなたたちが作っているんですか?」

「これは俺達の最高傑作。たくさんの時間と労力を使った甲斐があった」


時間と労力。

使ったものはそれだけか。


「そしてこれから君の血肉を使えば、この薬は完成する!本物の不死になれる薬だとね…!」

「……っ、」


馬鹿げてる。そう言ってやりたかったのに、目の前の狂喜の表情に緋彩は言葉を失った。

不死に憧れることも、それを作り出そうとすることも、全部全部馬鹿げてる。

そう、叫んでやりたかった。


それなのに。




「…っ、この…、…カバァァァーー!!」

「!?」




口から出てきたのはそんな小学生みたいな悪口だった。


「カバですかこのカバ!!」

「ち、違いますけど…?」

「知ってますけどこのカバ!カバさん達が不老不死になりたい理由が私には分かりません!こんな…、こんな辛くて悲しいもの、欲しいと言うんですか!」


痛くて苦しいのに、逃れられない。

時に置いていかれる寂しさに、ついて行けない。

人との別れは永遠で、あの世でさえ再会を許されない。

世界が滅んでも、自分だけが宙に放り出される。


そんな残酷なことを、数多の命を使って。


「不老不死を皆が憧れてると思ったら大間違いですから!例え私の血肉を使ってその薬が完成したとしても、需要なんてないですからね!」

「何、を…」


不老不死は憧れだ。届かない存在だ。手にしてみたいという気持ちが分からないわけではない。

だが、本当に憧れが自分の物になった時、人はそれを喜べるだろうか。そこまで熱し続けていたものを、絶えることなく保つことが出来るだろうか。




「それでも良ければ血肉でも骨でも使って、自己満足の商品作ればいいんじゃないですかー?!」




人は愚かだから、やってみるまでそれに気付かない。










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