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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十二章 呼び合う音
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奪われた仲間

「ああ、確かに私だが?」


白い少女は踏ん反り返ってそう答えた。

緋彩に絶えず助けを求めていたのはあんたなのかという問いに対してだ。

髪も肌も眉毛も睫毛も瞳の色すら白に近い灰色、儚さと脆さという言葉しか浮かばない少女からは、思ったよりも大分低い声が出て一同は目を丸めた。


「何を呆けておる。人の意識に語りかけることがでいる人間など、アクア族しかいないに決まっているだろう。特に驚くようなことでもない」

「いや、驚いているのはそこではなくてですね」


緋彩が目を覚ましてから暫くして、少女は起きた。毎朝決まった時間に寸分の誤差もなく目を覚ますかのように、パチリと目が開いてむくりと身体を起こしたのだ。

それには誰もがビクリとし、声を失った。固まっている一同に『なんじゃ貴様らは』と一国の姫君のような言葉を浴びせ、さらに驚かせた。

緋彩に至っては、あれだけ苦しそうに消え入りそうに『助けて』と訴えていた声とのギャップで再び頭痛がしてきそうになった。


「えーっと…、訊きたいことが山ほどあるんだけど。…とりあえず君の名前は?」

「スイ」


ローウェンの問いに少女は簡潔に答えた。漢字で書くと”粋”だとか”翠”だとかが似合いそうだ。見た目を裏切らない名前だった。

大分体力が回復して起きていたクラウスから順番に、ローウェン、緋彩、ノアまで名乗ると、スイは満足そうに頷き、一人一人の名前を噛み締めるように呟いた。

特に緋彩は、ノアまで呼んだ後、もう一度『ヒイロ』と声に出す。呟いただけか、それとも呼んだのか。

透き通る薄灰色の瞳が真っ直ぐ見ていて、緋彩は呼ばれたのだと判断する。


「は、はい…?」

「お前か。私の声を受け止めていたのは」

「は、はい…?」

「この中にアクア族は…、お前しかいないようだから間違いないようだな」

「は、はい…?」

「手近な仲間に声を掛けたんだが…、お前はこの数百年生きた中でも初めて見た顔だな?」

「は、はい…?」


スイが喋る度に緋彩の混乱が渦巻いていく。まずい、本当に頭痛が再発しそうである。

緋彩が眉間を押さえ始めると、代わってローウェンが続きを請け負う。


「数百年ってことは、やはり君はアクア族で不老不死…、なんだね」

「いかにも。四つの時から歳を取っておらぬし、何度死んでも死んでいない」

「このイスブルクの崖でずっと過ごしてきたの?」

「そうだ。ここが我らの故郷だからな」

「我らってことはスイの他にもアクア族が?」

「………」


淀みなく答えていたスイの返答が初めて止まる。答えるのに躊躇ったというわけではなさそうだ。何と言おうか迷っている様子でもない。僅かに顰めた形のいい眉は、何故顰められたのか。一度も笑っていない顔は、長い年月生きているのに、笑顔を知らないかのようだった。











「もうおらぬ」











渋った割にはあっさりと、それでも気の所為だと思うくらいに震えて、スイはそう答えた。


それはまるで、緋彩に話しかけていたあの時の声と同じようで。









「…おらぬ…、って…。死んじゃったってこと?スイ以外に不老不死のアクア族はいなかったのかい?」

「そう急くな、ローウェン。ちゃんと説明する。私がヒイロに助けを求めたのはこれが理由でもあるからな」


一瞬乱れた声は次の瞬間にはすぐに戻って、元の彼女の一本筋が通った声色になる。触れられないくらい何事もなかったかのようだった。

そしてスイは、暫し思い出すように目を瞑り、それからゆっくりと瞼を持ち上げる。


「…つい先日まで、我らは二十人程でこの先にある集落で暮らしていた。我らしか知らぬ、ほんの小さな集落だ」


それは、まるで昔話をするかのような口振りだったが、彼女の目に穏やかさなどない。寧ろ悲しみと怒りに満ち、それを必死に抑えているようだった。


「そこに一人の男が現れた。我らくらいの強度の結界を張らなければ、普通の人間には近づけもしないはずなのに、だ。男はアクア族ではなかったが、強力な結界を張って我々に近づいてきたのだ」

「その男ってもしかして」


間髪入れずに問うたローウェンの声が焦りに歪んだ。

スイは細く見据えた瞳を熱くさせて、低く呻くように言った。









「左半身に火傷を負った恐ろしく強い男だった」









いつもブックマークありがとうございます。

最近時間が足りず、更新が遅れておりますが無事書き進めてはおります。

もしまだお付き合いいただけるのであれば、気長に待って頂けるととても嬉しいです。


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