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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十二章 呼び合う音
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片割れ

その前に確かめたいことがあると言って、クラウスはその手立てをすぐに明かすことはしなかった。確かめたいことというのは、緋彩が目を覚ましてからでないとできないからと、とりあえずは皆それまで休むことにした。

ノアも目は閉じているものの、身体を横たえるでもなく、寝息を立てるでもなく、ただ壁に背を預けてじっと緋彩の横で座っている。緋彩の表情が歪む度、薄く目を開けて落ち着くまで見守る。それを何度も繰り返していた。




「ん…、」




熱い額を冷やすタオルを替えてやったタイミングで、ピクリと緋彩の瞼が動く。また魘されているのかとも思ったが、それはそのままゆっくりと持ち上がった。


「……ヒイロ、分かるか?」

「………」


静かな声で話しかけたのが聞こえなかったのか、彼女の目はノアをちゃんと捉えているのに返事はなかった。

熱で潤んだ瞳が揺らいで、どうにか焦点を合わせようと奮闘している。そのうちやっと意識が鮮明になってきたのか、目の前に見えている景色を口にしようと、小さな唇が声を紡ごうとする。


「ノ、…、…っつ…」

「喋るな。水、飲めるか?」


掠れた声は何を言ったのか判断に迷うくらいだ。まだ声帯を動かすことすら頭に響くようで、全てを言い終わる前にノアが制止して水を用意する。

だが声一つ出すのさえできないと言うのに、水を飲むことなど出来そうもない。それでも可能な限り水分補給はさせなければ体調は悪化するばかりだと、ノアは慎重に緋彩の身体を抱き起こす。


「少し、我慢しろ」

「…っ…、」


力の入っていない身体はぐったりとしていて、上半身を持ち上げるのにも一苦労だ。極力刺激が少ないようにと時間をかけて頭を持ち上げても、緋彩は眉を顰める。

何とか壁を背に座らせた時にはさらにぐったりとして、痛みで息が上がっていた。


「……大丈夫か」


自力では座っておくことはできないために、ノアは自分の肩に緋彩を寄りかからせ、乱れた髪をいつも彼女が使っているヘアゴムで緩くまとめてやる。

緋彩はどうにかノアの問いかけに応えようとしたのか、身動ぎくらいの動きで僅かに頷いた。大丈夫なわけはないと分かっていて訊いたのだが、ノアはその返答に不服そうにした後、水の入ったカップを緋彩の口まで運んだ。


「無理に飲まなくてもいい。せめて口の中に入れろ」

「…ん…、く…、」


少しずつカップを傾けて、僅かに開いた唇の隙間に水を流し込んでいく。そのほとんどは口端から零れ落ちていってしまって、飲み込めていないのが分かった。予想していたことではあるが、水が飲めないのは少々まずい。せめて一口だけでもとノアは少し逡巡して、自分で水を口に含む。






またこれか、と躊躇っただけだ。






ノアの唇が、緋彩のそれを冷やすように重なる。












「ん────…、」












こくり、と細い喉が動いたのを確認して、何度かそれを繰り返した。


その数五回くらいだろうか。カップの中身が半分くらいになるまでは飲めている。及第点だろうと何故かノアまで疲れた気がして、ふう、と息をついた。

それから緋彩の顔にかかる髪をそっと耳にかけてやり、いつもより下げた眉をして彼女の顔を覗き込んだ。








「…ニコイチなら、その苦痛も半分ずつじゃないのか」








優しさのような、悔しさのような、苛立たしさのような、複雑な感情が入り混じった声は、誰にも聞こえていない。

聞かせるつもりなど毛頭ないので、それでいい。





「…ヒイロ、聞くだけ聞け。お前のその頭痛の原因の確認と解消の為にアクア族の元に行く。ただ、恐らく楽な道ではないし、険しさはこれまでの比じゃない。もう少し様子を見るつもりではあるが、この分じゃお前の体調は恐らくこのままだし、その身体でアクア族の元まで辿り着くかどうかは怪しい所だ」





肩口で俯く緋彩に、ノアは台本を読むように説明する。ゆっくり話したとしても、どうせ理解できることなんて半分が限界だ。


本当に彼女に聞かせたいのは、


本当に彼女に言わなければならないのは、




たった一つ。








「俺が必ず手の届くところにいてやる。それならまだ戦えるか?」









答えなど聞くつもりもないくせに。





緋彩の手が、ぐっと親指を立てることが分かっていたくせに。











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