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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十二章 呼び合う音
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自分の正体

その真実は緋彩が訊きたいくらいだ。

普通の女子高生だった自分が何故、異世界人である自分が何故、こんなことに巻き込まれ、こんな身体にされ、こんな事態に陥っているのか。

生まれも育ちも日本、ただの日本人であるはずなのに、アクア族って何だ。




自分は誰だ。








「…それは…その、」


違うよ、と素知らぬ顔をしてはっきり答えればよかったのだ。でももう遅い。今更否定したとしても、一瞬の躊躇が言葉に戸惑いを生む。

黙ってろと言ったのはノアなのだから、クラウスを睨んでないでフォローの一つくらいしてくれればいいのに、彼が口を開く様子はなかった。ローウェンも何と言っていいやらと緋彩とノアとクラウスを交互に見ているだけだ。

助け船など来ぬと悟った緋彩は、困ったように逡巡すると、変な嘘などいずれ自分の首を絞めると意を決した。


「…、私は、アクア族…ではないよ」

「そうなの?じゃあ僕が感じていた違和感は何?…ヒイロはアクア族で不老不死なんだと思ってた」


まるで罪人を裁いているかのような目だ。一点の曇りもない瞳は、それほどまでに真っ直ぐで恐ろしい。


「正確に言うと、アクア族かどうかは私にも分からない。ただ…、」

「ただ?」

「諸事情あって、不死ではある」


膝裏に触れたノアの手が僅かに体温を下げた気がした。

クラウスがアクア族について何を知っているのか、何を思っているのか、本人しか知る由はない。けれど、何かの感情を抑えたような目つきは、少なくとも好意を示しているようには見えなかった。

何を考えているのか分からないまま、クラウスは数秒押し黙り、最後には表情を緩めて『ふぅん』と頷いた。そして雪を踏みしめて足を進め出すと、ぽつりと話し出す。


「…僕は正直、アクア族にいい思いを抱いていない」

「どうして?」

「あいつら、僕より強い魔力を持っているのに、国が大変だというのに、ちっとも協力してくれない。自分たちだけを守り、自分たちだけが生活出来ればいいと思ってる。…少しでも力を貸してくれたら、僕は今頃こんな…」


クラウスの言葉は最後まで聞き取れなかった。声にならなかったのか、風が結界に当たる音でかき消されたのか。聞き返すことも出来ずに、その話を深追いしようとする者は誰もいなかった。














***














「大丈夫?ヒイロちゃん」

「…はい」


ローウェンが後ろから声を掛けてくれるが、そう頷くのが精一杯だった。

足を進めるほど緋彩の頭の中の音は絶えず鳴り続けるようになり、痛みと眩暈で気が狂いそうだった。最初はノアに密着しすぎないようにと力を入れていた身体も、それどころではなくなり、殆ど体重をノアの背中に預けている状態だ。辛うじて彼の首に腕を回しているが、それもやっと繋がっていると言ったところだ。


「ヒイロ、手だけ力入れとけ。落ちるぞ」

「はい…」

「しっかりしろ。お前がエリク国見つけないとここで皆遭難するぞ」

「…鬼…」


心配してんだか鬼畜なんだか。

だが確かにそれは紛れもない事実で、緋彩はここで意識を飛ばすわけにはいかなかった。少しでも消費体力を最小限にするために、ノアの肩に頬をくっつけたままで少しだけ目を開ける。

ぼんやりとした視界の中に、心配そうなローウェンの顔と、同じく気遣ったようなクラウスの顔。よかった、緋彩がアクア族である可能性を聞いても、彼は緋彩を嫌いにはなっていないらしい。少なくとも体温が下がり切っている緋彩に自分の上着使って、と差し出してくれるくらいには。




「…みぎ…、右です、ノアさん…。多分もう、すぐ、そこ…、」




吹雪く景色で、数歩先は何も見えない状態だが、真っ白な視界の向こうに呼ぶものがある。


ずっとずっと、叫んでる。


助けてと。




「…………」




くたりと力を失くす緋彩に、ノアの無感情の視線が流れる。険しく眉を顰めてはいるが、恐らくそれは不機嫌というわけではない。

小さな頭に、撫でるように手を置いた彼が不機嫌なはずがない。








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