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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十二章 呼び合う音
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見透かす青

分かっていたことだが、エリク国に近づく度、天候は荒れていった。一言で吹雪いていると言うにはあまりにも言葉足らずなくらい、クラウスの張る結界の外は雪で視界が塞がっている。エリク国が周辺の魔力を吸収している影響もあるのか、クラウスが国を出た時より倍程に荒れているらしい。

これでは道も向かう方向も分からないところだったのだが、幸か不幸か、今は緋彩のアクア族探知機が機能している。


「うーん…、あっち…?です」

「お前…、本当だろうな?」

「本当…だと思います」

「いまいち頼りねぇな」


緋彩は頭で鳴る音が強くなる方を指すが、それが本当にエリク国に向かっているのか自信がない。進む度音は大きくなるし、痛みだって感じてきたから近づいているのは確かであるはずなのだが。

ノアは緋彩の指す方にずっと不審げな表情を浮かべながら足を進めている。他に手掛かりがないのだからそうするしかないのだが、信じられていないのは緋彩にとっては不服である。


「頼りなくてすみませんねぇ。信じられないんならノアさんの直感でも頼りに進んだ方がいいんじゃないですかー」

「何怒ってんだよ。別に信じてないと言ってるわけじゃねぇだろ」

「言ってるようなものでしょ。私だってこの音を信じていいか分かん────…っつ…」


圧迫されるような音が大きく脳内で響く。


ただの音だ。


それなのに、泣き声に聞こえる。

苦痛の声に聞こえる。

誰かの声に聞こえる。



言葉に聞こえる。



たすけて、



そう言っている。





音は声となり、言葉となり、訴えとなり、


何かを伝えようとしていた。





受け止めてあげたい、応えてあげたい、そう思うのに、脳に直接響く強烈な音は緋彩には大きすぎて、重すぎて、抱えきれなくて。

瞬間的に意識が薄らぎ、平衡感覚が狂い、視界が揺らぐ。だが、フラリと力が抜けた身体は地面に倒れることはなかった。



長い腕が、しっかりと支えている。






「────…こうなるから頼りねぇっつってんだよ」


「…すみませ…」






本当に信じていなければ、彼は足を進めることなどしない。

眉間に皺を寄せてずっと信じていなかったのは、緋彩の様子だ。


どうせ迷惑そうな顔をしていると思ったのだが、意外にも彼は頭を押さえる緋彩に神妙な目を向けてきた。


「頭が痛いのか」

「……あ…、いえ…、はい…」

「どっちだよ」


予想だにしなかったノアの問に、緋彩は一瞬痛みを忘れて目を丸めた。

どっちともつかない緋彩の返事にノアは一つ息をついて、しなだれかかっていた緋彩の身体をぐいっと自分の背中に乗せた。


「っ、ノアさ…、」

「また転ばれても面倒だ。大人しく背負われてろ」

「…………、……はい…」


いつかはこうなると分かっていたけれど、それは今ではないと緋彩は思っていた。痛みに耐えられなくなったとき、ノアを頼ざるを得なくなった時、恐らく自分はもう殆ど意識がない状態だと思っていたのだ。それなのに、今はまだ意識も感情も感覚もはっきりしている。目の前にノアの首筋が見えるし、何度抱えられても密着しすぎる体勢にまだ慣れないし、両の手をどこに置いたらいいか分からない。肩に置いてみたり頭に置いてみたり広げて見たりしたが、最終的には鬱陶しいから首に回せというノアの少々キレた目線で落ち着いた。より密着度が増して後悔した。


荷物はローウェンが持ってくれ、クラウスは天候に合わせてより強い結界に切り替えた。常人なら数時間でダウンしてしまうような強力な結界らしいが、彼はケロッとしている。それどころかノアの背中にいる緋彩のことを気に掛ける余裕まであるようだ。


「具合悪いの?ヒイロ」

「大丈夫。病気じゃないから」

「頭痛いんでしょ?何で病気じゃないって分かるの?」

「ええっと…、それは…」


クラウスには緋彩達がエリク国に行く目的も話していないし、ましてや緋彩にアクア族探知機が備わっていることも詳しくは話していない。さすがにクラウスも、途中から進む方向を示しだした緋彩に不審さを拭えなかったようなのだが、どんどん顔色がなくなっていく緋彩に気を遣っていたらしい。

余計なことは言うなというノアの指示で黙っていたが、問われたら誤魔化す術を緋彩は持っていない。純粋なクラウスの瞳に、誤魔化すように目を泳がせた。


「ああー…病気、と言えば病気、かな?ほら、この前の凍傷の影響でまだ少し熱があって」

「熱は次の日には下がってたじゃん。足も…、あれだけの凍傷、一日で綺麗に治るってどういうこと?」

「しまった、やぶへび…」


変な誤魔化し方をするものだから、余計突っ込まれたくない話になってしまった。反省はしているから、ノアは膝に回した手で柔らかい所を抓るのをやめてほしい。

窮地に追い込まれると、純粋な疑問を抱いているだけだと思っていた青い瞳は、途端に不審に溢れたものに見えてきた。探るような目線が痛く、上手い交わし方が思いつかなかった。

口籠る緋彩に、クラウスは健気に答えを待っている。だがそれも時間の問題で、えーっと、と繰り返しているうちにクラウスの方が先に口を開いた。








「ヒイロは────…、アクア族なの?」








エリク国にいた彼が、その存在を知らない訳がない。












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