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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十二章 呼び合う音
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生きる為のバランス

「え?いいよ?」


緋彩達に同行する条件をクラウスに提示すると、返ってきた返事はそんなシンプルなものだった。

逃げてきた場所に戻るのは抵抗あるだろうな、だからといってここでお別れだなんていったら可哀相かな、なんて悶々と考えていた時間は無駄だったようだ。

緋彩の苦悩など我知らずと、クラウスは口をあんぐりする緋彩に不思議そうな顔をした。


「ご飯のお礼はしたいから、エリク国まで僕がヒイロ達を守ってあげる」

「ででででも、クラウスはエリク国が嫌で逃げてきたんでしょ?戻って大丈夫なの?」

「大丈夫だよそのくらい。見つからないようにすればいいだけだし」


逆を言えば国の誰かに見つかってしまうと連れ戻される可能性があるので、そこはどうにか緋彩達に匿ってほしいとのことだった。そんな面倒な荷物、そこまでして同行させる必要があるのかとノアは不満気だったが、自分に魔法が使えないこともあるのか、人間が耐えきらない環境に結界は必要だと緋彩とローウェンで説き伏せた。


「じゃ、じゃあ…宜しくね、クラウス」

「うん。あ、ヒイロのついでに二人も結界に入れてあげるからね!」

「………」

「ノアさん、目が鬼目が鬼」


クラウスはあくまでヒイロが頼むから応えているまでだという意志を曲げない。男二人に向ける無邪気な笑顔はくすんで寧ろ真っ黒だった。













***













天候がさらに荒れ始めたのはそれからすぐのことだった。

ほんの二、三キロくらいしか進んでないのに、華麗に舞っていた雪は肌を突き刺すように吹き付け、しっかり地面を確認しながら踏みしめなければ積もった雪で足を取られてしまう。小柄な緋彩やクラウスは強風で飛ばされてしまいそうだった。

クラウスの魔力量が莫大だとは言え、底はある。消費量は少ないに越したことはないと、荒れる天候に生身の身体で耐え得るところまでは頑張ってきたが、そろそろ限界だった。何より、クラウス自身がもう駄目だと音を上げた。

エリク国まではまだ距離があり、本来ならばまだこんなに天候が荒れている予定ではなかった。クラウスの話では、エリク国でクラウスの穴を埋めようと何かやっているかもしれない、とのことだった。




「魔法の中には自然エネルギーを使った魔法もある。結界を保持するために、エリク国民は国外の自然エネルギーを吸い取っているのかもしれない」

「ど、どゆことですカ」


分厚い結界の中で顎に手をあて考えるクラウスは、もはや緋彩より余程大人な表情をしていた。子どもらしさと同時に大人びた思考を持ち合わせ、緋彩にはクラウスが十歳にも二十歳にも見えてきた。


「例えば、だ」


チンプンカンプンと頭を捻っている緋彩に、呆れた顔のノアが仕方なく補足してくる。


「晴れをプラス、雨をマイナス、どちらでもない天候をゼロとする。世界には魔力が満ちていて、荒れていた天候を調整している魔力が奪われるとどうなると思う?」

「……マイナスに、なる?」

「そう。基本的に世界は魔力によって均衡を保たれている。天候だってその一つだ。魔力が偏ってしまえば、均衡は崩されるのは当然。何処かが晴天になれば何処かが雨になり、何処かが吹雪になれば何処かが灼熱となる」

「では、今ここはマイナスの状態…エリク国によって均衡が崩されているということですか?」


ノアは緋彩の質問に頷き、クラウスに目をやる。


「……そういうことだろ…、餓鬼」

「そういうことだよ、ノア」


見下ろしたノアの視線の先には、にこやかなクラウスの顔がある。犬猿の仲、一触即発、水と油。どうあっても相容れない関係だが、思考回路は似ていそうだ。

緋彩なら縮み上がって恐れているであろうノアの視線も意に介さず、クラウスは呆れた様子で溜息を一つ零した。


「全く、自己中もいい加減にしてほしいよね、あの大人たち。自分たちにない力を補うために周りから奪うなんて、本当勝手」


確かにこれが本当なら、自分勝手も甚だしい。奪った先がどうなろうと関係ないとでもいうのだろうか。




ただ、生きるのに必死な人たちが、そこまで考えられるかは分からない。




クラウスの呟きに緋彩は肯定も否定も出来ず、さっさと先に進もうと歩き出すノアの背中を追った。














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