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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十一章 隠される存在
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挙動不審

「いや、本当に感謝申し上げる、ヒイロ」

「あ、イエ…」

「もう身体は良いのか?」

「あ、マァ…」

「無理されるなよ。エリク国へ向かうのだろう?気を付けられよ」

「あ、ハイ」

「どうかしたか?ぼーっとしているように見えるが、やはりまだ身体が…」

「あー大丈夫です大丈夫です大丈夫です」


もう少し休んで行った方がいいと言い出しそうな長老に全力で首を振り、緋彩は苦笑いを浮かべた。

気のない返事しか出来ていないのは体調の所為ではない。いや、体調といえば体調なのだが、長老や周りの人たちが心配してくれているようなものではない。


簡単に言えば寝不足。それだけだ。


貧血だったのに身体を充分に休ませていないというのは、これからエリク国に向かうにあたって確かに不安要素である。だが、緋彩にとって一番問題なのは寝不足になった理由である。




「おい」

「ヒィッ!?」




後にぬっと現れた陰に緋彩は飛び上がって驚く。反射的に口元を押さえてズザザザザッと距離を取ってしまった。


「……な、な、何か……?」

「………」


仁王立ちで佇むノアの瞳が、睨むように見下ろしてくる。冷たく、圧が強い。だが、いつもの不機嫌なそれとはまた違っていて、何が違っているのかと問われれれば何かは分からないのだが、とりあえず今回は鬼がいない。






「……そんなに嫌なら、もうしねぇよ。安心しろ」


「…な、ん……?」







目を白黒させている緋彩に一言そう言って、ノアは踵を返した。あんたにも世話になったと礼を言う長老たちも無視して、一番大きい荷物を肩にかけてすたすたと歩いて行く。

ローウェンが固まっている緋彩に『何の話?』 と訊くが、何も答えられなかった。












***












き、気まずい。


冷たい風がピュウピュウと吹いているのに、空気が固まっているようだ。

ノアが無口なのはいつものことで、道中が静まり返ることなんてざらにある。何も珍しいことはないのに、自然音だけが響くこの時間がこんなに窮屈だと感じたのは初めてだ。


「ヒイロちゃん、手と足一緒に動いてる」

「ソンナコトナイデス。私の手と足はバラバラです」

「恐ろしい語弊が」


年季の入ったロボットのような動きをする緋彩に対して、ノアの方はどこ吹く風。普段と変わりないクール具合を発揮している。まさか昨日の夜のことは緋彩の夢だったのかと思うくらいに。

いや、夢だったのだろうか。血を流し過ぎて変な夢を見ていたのだろうか。最近おかしな夢ばかり見ているから、きっとその勢いであんなあり得ない夢を見てしまったのだ。




ノアが、キス、してくるなんて。




「っっっ!!」


思い出すだけで血液が沸騰する。ボン、と顔を真っ赤にした緋彩に驚いてローウェンがビクリと肩を揺らした。


「ヒ、ヒイロちゃん?本当にどうし────…、あ…」


様子のおかしい緋彩がさすがに心配になって、ローウェンが足を止めて覗き込もうとしたが、それよりも早く節のある手がぬっと伸びてくる。


「っ!?」

「……何だ、平熱じゃねぇか」


緋彩の首元に添えられた手は、体温を確認するとすぐに離れていく。顔を赤くしていた緋彩に、昨日まで続いていた熱がぶり返したのを懸念したのだろう。杞憂に終わったのだと悟ると、ノアはつまらなそうにまた歩を進め出した。

突然の出来事に目を剥いたまま固まる緋彩を見て、ローウェンが小さく『何かあったな』と呟くのだった。







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