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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十一章 隠される存在
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証明

それから緋彩は血の提供を続けたのだが、休憩を挟みながらだったためか、本来一日で終わらせる予定だったのが三日間もかかった。

結果的に緋彩は反対するノアを説き伏せ、住人全員分の血を提供した。その代わりノアが休めと言ったら素直に休んだし、今日はここまでだと言ったらちゃんと従った。おすわりでも伏せでもおかわりでも何でも言う通りにした。何故犬扱いされたかは分からないが、ノアは仕返しだと勝ち誇った笑みを浮かべていた。





「具合はどう?ヒイロちゃん」

「んんー…、目の前がチカチカします…」


身体は横たわっているのにフラフラする感覚が止まらない。天井の木目がぐにゃりと歪み、眩暈に更なる気持ち悪さをトッピングしてくるから目を開けていられない。

荷物を挟めて緋彩の足を高く上げてやりながら、ローウェンはそりゃそうだと眉を下げて苦笑した。


「よく頑張ったね。不死の身体じゃなければ失血死してるころだよ」

「不死で良かったと今なら思います。皆の役に立てました…」

「そういうことじゃなくてね?」


ローウェンは緋彩は今そのくらいの身体の状態だということを言いたかったのだが、虚ろな目に疑問を抱いているところを見ると、恐らくこの先も緋彩にはローウェンの気持ちは伝わらないだろう。




「……あれ…、ノアさんは?」


緋彩は重い瞼を少しだけ持ち上げて辺りに視線を這わすと、先程まであった姿が見えないのに気がついた。どうりで気持ち悪さで呻く緋彩に『だから言っただろ』という圧がなくなったわけだ。


「ああ、ノアは長老のところ。ヒイロちゃんの血を飲んだ人たちが本当に解呪されているか確かめるから、念の為付き合ってほしいって言われて」

「確かめるって…、面を外すってことですか?」

「だろうね。もし何かあった時にノアに止めてほしいって頼まれてたんだけど」


ノアはそれに文句も言わず付き合っているらしいが、ローウェンはまさかあのノアがねぇ、と珍しそうに呟いていた。勿論緋彩もそれには驚く。嫌々付き合ったとしても、絶対『何で俺が』と文句言いながら行くのだと思った。


「ま、ヒイロちゃんに感化されたんじゃない?」

「私?」


きょとんとする緋彩にローウェンはにっこりと微笑む。そしてノアがいるであろう長老の家の方を見つめた。


「ノアはさ、きっとこの一件を無駄にはしたくないんだよ。ヒイロちゃんが必死で繋いだ人の心を、何とか最後まで繋ぎきりたいと思ってる」

「……?どういうことですか?」

「ははっ、ちょっと難しかったね」


ローウェンは軽く笑って、んーと、と考える。


「もしこれで解呪がうまくいかなくて、殺し合いが始まったらどう?誰も止められず、誰かが死んだりしたら」

「それは嫌です!」

「でしょ。だからノアはちゃんと見届けに行った。間違っても解呪したはずの呪いの所為で人が死なないように」




これで傷つくのは、誰よりも緋彩だと思っているから。




もしこれで解呪が出来ていなければ、不本意の力を信じて、人々に無駄な希望を与えたなんて目も当てられない。そんな力を信じて、外してはいけなかった面を外し、殺し合ったなんて酷すぎる。緋彩がいなければ、現れなければ、何もしなければ、彼らにとっては何事もない日常が続くだけだったのに。


そう思うと急に怖くなる。


本当に呪いは自分の血で解けるのだろうか。最初の男二人が大人しくなったのは何かの偶然で、もしくは人によっては緋彩の血が作用しない人もいるのではないか。解呪されたと信じて、解放された面の向こう側を見た人々には、本当に自由が待っているのだろうか。




本当に自分は、役に立ったのだろうか。









「ヒイロちゃん」

「!」









小さくも大きくもない声が、緋彩の意識をはっとさせる。見開いた視界には、穏やかなローウェンの顔がある。

優しいローウェンの手が、大丈夫、とすっと頭を撫でた。




「解呪は成功してる。まだ全員確かめたわけじゃないけれど、もう半分以上確認済みらしいから大丈夫だよ」




ローウェンは宥めるように、ヒイロちゃんは皆を救ったんだ、と言った。




「全部終わったら、きっとノアがそれを証明しに戻ってくる。ヒイロちゃんが大仕事を成し遂げたんだって、しっかりあの無駄に綺麗な目に焼き付けてくるよ」

「……ローウェンさん…」

「万が一があっても大丈夫。きっとノアが全て整えてくれる。だから安心して、ヒイロちゃんは今は休もう」


ローウェンは乱れていた夜具を緋彩の首元まで引き上げて、子守歌のように静かに言った。






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