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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十一章 隠される存在
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明かされた顔

何だか、久しぶりに楽しい夢を見た気がする。内容は覚えていない。

最近は寒気がするような夢や、理由の分からぬ焦燥感に駆られる夢、所謂悪夢だと言われるものばかり見ていたから。寝ても覚めてもすっきりしない日々が続いていたので、今回ばかりは爽やかな朝が迎えられるだろうと思っていた。





「た、助けてくれ!!」





清々しい朝を期待した緋彩を起こしたのは、慌ただしい物音と共に聞こえたひっくり返った声。

青ざめた顔で緋彩達が寝ている家にそう飛び込んできたのは、集落の住人の一人、長老の側に控えていた男性だ。

不躾だとか、昨日まであんなに攻撃的な態度を取っていた連中がよくもこんな時だけ頼ってくるなだとか、言いたいことはたくさんあったが、彼の顔色を見るとそんなことも言っていられない様子だった。文字通り転がり込んでくるように訴えてきたのだ。


「…何事?」

「…………うっせぇな…」

「ひっ!?」


緋彩が起きたくらいなので、当然にローウェン、ノアも目を覚ますのだが、飛び込んできた男性は、寝起きの魔王にさらに顔色を蒼白にさせた。こんな人間に助けを乞おうなんてどうかしている。

とりあえずこのままじゃ話が進まないと思った緋彩は、ノアを押しのけて、男性にノアが見えないように間に入った。それで魔王の醸し出す恐怖から逃れられるとは思わないが、男性はどうにか事情を話せる精神状態には持ち直したようだ。


「それで、どうしました?」

「あ…、え…、す、すまない。昨日あんなことがあってから言うのも申し訳ないが、手を貸してほしい!」

「えっ…と、…どういうことでしょう?」


半ば土下座のように地面に額を付ける男性は、相当切羽詰まっているように見えた。羞恥もプライドも気に出来ない理由がそこにはあるのだろう。滴る程の汗を流し、膝に付けた手を震えさせる理由が。







「じ、実は…っ、面を外してしまった奴がいて…!」







実にシンプルで端的な訴えは、ここでは命に係わる複雑な事情。





「面を外し…。…、それって、」


えっと声を上げた緋彩の横で、ローウェンも表情を険しくさせる。その後ろでノアは背中を向けてはいるが、恐らく意識はこちらに向けている。


「も、勿論わざとではないんだが、喧嘩で激しくもみ合っているうちに…。両者ともの面が外れてしまって、今、激しい殺し合いが…!」

「そんな…っ」


呪いは本当だった。

顔を合わせた二人は途端に目の色を変え、獣の縄張り争いのように牙を剥いた。元々喧嘩ばかりしている仲の悪い二人だったそうだが、殺し合うほどのものではない。寧ろ腐れ縁というやつで、互いに互いの存在を欠かせないものとしても認知していたくらいの関係だった。今回だってちょっとしたきっかけで言い合いになり、小突き合いになり、揉み合いになり、少し激しい、それでも二人の中ではいつものことくらいの喧嘩だったのだ。殺し合うなんて、そんな結末どちらも望んでいなかっただろう。

二人は体格のいい男性で、戦いの腕もある。ここにいる人間で動きを止められる者はいない。




「あんたらしかいないんだ!」




たった一太刀で小屋丸ごと一つを破壊させた、後ろの白銀の寝起き魔王しか。




「頼む!あいつらを止めてくれ!」

「………」




視線がノアの背中に集まった。

聞こえてはいるはずなのに、ピクリともしない彼は、寝起きの不機嫌な表情そのままで、ゆっくりと振り返った。

眉間に刻まれた深い皺。据わった目、固く引き結んだ口。寝起きに面倒そうな依頼に、頗る機嫌は悪そうだ。





「何で俺が」





そう言うと思った、と緋彩は頭を抱え、ローウェンは苦笑し、そんなノアの性格をよく知らぬ男性はショックで呆ける。


「そ、そんなこと言わずに、頼む…!」

「もう一度言うぞ。何で俺がそんなことし」

「じゃあ私先行ってますからねノアさん!後で来てくださいよ!?」

「は!?」


こうなったら強行突破だ。

どうあっても放っておけない緋彩は、男性の手を無理矢理引っ張って外に飛び出した。思いもよらぬ緋彩の行動に男性は目を丸くしながら引き摺られていった。目を剥いたノアと遠くなっていく緋彩の背中を交互に見つめながら、ローウェンが『あーあ…』とため息をついていた。









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