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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十一章 隠される存在
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逃亡者の末路

昔の話だ。

真実かどうかも怪しい。

けれどここの人々はそれが真実だと信じていて、作り話などとは微塵も思っていない。作り話だという確証もないのだから、誰も正誤を判断などできないだろう。

ここに住む者は呪われている。

実際に被害を被った者もいる。言い伝えが本当だろうが嘘だろうが、呪われていること自体は本当なのかもしれない。


ここの人々が面を被っている理由。

それはお互いの顔を見ないようにする為だ。また、顔を見られないようにする為だ。

呪われた人間同士がお互いに顔を認知すると、自我を失う。それがここの人達にかけられた呪いだそうだ。

かつて興味本位で面を外した者は、お互いに殺し合い、血を啜り、肉を喰らい、両者が顔だけになるまで戦った。顔だけになった二人は、笑いながら飛び散ったそうだ。


この呪いは、エリク国からやってきた人間が自分たちを葬る為にかけた呪い。

国から逃げたものを決して生き延びさせず、自分たちで自分たちの始末をつける為の。




「エリク国からやってきた人間は、禁忌を犯したという。何をやったかまでは知らぬが、その禁忌は死を選んででも広めてはならぬもの。エリク国からの逃亡者の血縁は全て、呪われているのだ」


ここに住む者の中には当然全く関係ない人間もいる。けれど、それは自分では分からない。先祖にエリク国からの逃亡者がいない保証など出来ないのだ。

特にこの集落で育った者はその可能性が高い。中には自分が逃亡者の子孫だと自覚しているものもいる。


「だったら何故君たちは一緒にいる?殺し合うことが恐ろしいならどこかしら散らばって、お互いに合わないようにするんじゃ駄目なの?」


緋彩も思った疑問を、ローウェンがぶつける。ただそれは面の集団全員に鼻で笑われたから、口にしなくて良かったと思う。ローウェンを犠牲にして申し訳ない。

老人だけは年の功なのか、笑わずに答えてくれた。


「呪われている可能性がある以上、確実な対策を用いて固まった方が懸命だ。別のところに行き、万が一にでも血縁同士が鉢合わせしたらどうする?ここにいるもの以外は逃亡者の血縁だという自覚がないからこそ様々なところで呑気に暮らしている。そんな奴らにどこで会うやも分からぬくらいなら、懸念している者同士、気を付けて生活していく方が余程安全だとは思わぬか」


甘い考えを一蹴する、経験と実益から語られる言葉には、何も反論できない。長い時間を掛けて彼らが導き出した答えだ。そう簡単には崩れない。

ここの人達が面を被り、お互いを警戒しながら生活しているのは分かった。緋彩達を奇異な目で見ていたのも警戒から来るものだろう。だが、それならそれで、入り口付近の人達は面を被っていなかったが、それはいいのだろうか。それに、異世界出身の緋彩はともかく、ノアやローウェンが逃亡者の血縁ではないという証拠は何処にもない。

まさかそのうち、二人のうちどちらかが自我を失って殺し合いを始めないだろうなと緋彩が胸騒ぎでそわそわしていると、服を掴んでいた所為でそれがノアにバレたのか、唐突に馬鹿か、と罵られた。


「ジジイの話によると自我を失うのは逃亡者の血縁同士がお互いの顔を見た時。どちらかが見ただけではどうなることではない。ここの奴らが面をつけてる限りひとまず大丈夫だってことだろ」

「で、でも、ノアさんとローウェンさん、二人とも血縁ということも…!」

「アホか。だったら俺らはとっくに殺し合ってるだろうが」

「あ、そうか」


何だかんだ、ローウェンを含めて一緒に行動するようになってから時間も経った。どちらか片方が血縁者である可能性はあるが、これだけ長い時間一緒にいるのだから、どちらも血縁者ということはあり得ない。

入り口付近の面を被っていない人間達は、逃亡者の血縁ではないと確認ができた者だそうだが、どうやって確認さしたというのか。偏見は良くないが、こんな集落に血縁を調べる術などありそうにはない。まさか、実際に顔を合わせてみたのか。そんな命懸けで確認を誰が。

そもそも、お互いの顔を見たら自我を失って殺し合うという呪いは本当なのか。不老不死という呪いを我が身で思い知っている以上、呪いや魔法というものの存在は認めざるを得ないが、そんな条件的な発動をする呪いなどあるとは俄かには信じがたい。


そんな緋彩の不信感が伝わってしまったのか、それとも今までの経験上、話の信憑性を疑われる予想でもしていたのか、老人はピリッとした視線で緋彩に目を向けた。

何故か緋彩にだけ少し厳しい対応をする気がするが、気のせいだろうか。何か気に触ることでもしたか。


「私はこの集落の長老。もう当事者は私しかおらぬが、確かに私はこの目で呪われたもの同士が殺し合ったのを見た。…あの悲惨な光景は、決して幻でも夢でもない。薄れぬ記憶として忘れられないのだからな」


そう言って老人は更に奥へ進んでいった。一体どこまで連れて行かれるのだろうか。

その間にも通り過ぎていく住人達の目は緋彩達に釘付けだった。警戒と不審と敵意を含んだ拒絶の目。浴びせられて気持ちの良いものでないのは緋彩だけではないはずだが、ノアもローウェンも気付かないとでもいうように反応はしなかった。

ノアに縋りつくようにびくびくしているのは緋彩だけだ。最初は歩きにくいから離れろと言っていたノアだが、それでも緋彩が離れないのでそのうち諦めたのか、黙って緋彩をぶら下げて歩いていた。本当に嫌なら力技でも引き剥がすことは出来たはずだが。




「ヒイロ」

「…はい?」


足を止めぬまま、老人の後頭部を睨むように前を見たまま、ノアは静かに緋彩の名を呼んだ。やはり離れろと言われるのだろうかと覚悟しながら、緋彩は斜め下から綺麗な輪郭を見上げた。いつも通り、つまらなそうな色のない表情だ。


だけど、





「ここにいる間、俺から離れるな」

「!」





いつもとは違う言葉。






ここの住人達が緋彩を気にしていることは、決して緋彩の勘違いではなかった。







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