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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第二章 旅の目的
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歴史に眠る憂愁

アクア家、もといアクア族。

彼らは強大な魔力を有していた。その血筋に生まれた者は世界に特別だと分類され、また、疎まれた。その力を恐れる者によって迫害も受けた。自分たちがどんな悪事をしたのか、どんな被害を出したのか、何も分からないままに。


いずれ彼らは世界から隠れるように生きていくようになる。自然なことだと言えば自然なことだ。生きにくい世に胸を張れるものなど多くはない。人の目から避けることが日常で、自分の出生を明かさないことが当たり前で、一つ、二つと命の灯が消えていくのにも声は上げられない。ただ黙って、じっと耐え抜くのだ。


仲の良い人が、親しい人が、いなくなっていくのを。


生物が環境に応じて生態系を変化さえるのは、恐らく人間だって同じであると思う。

そうして生きてきたアクア族は、四面楚歌の世を生きていくために、それでも捨てられぬ誇りを未来へ受け継ぐために、試行錯誤を繰り返した。だが人間の身体というものはそう簡単には出来ておらず、自分たちのコピーを作るなどは一ミリも成功しなかった。その為に数々の犠牲も払ったのにも関わらず、だ。命も削った。失ったものも多くあった。

そして、気付いたのだ。




自分たちは何よりも尊いものを持っているではないかと。




この力は偉大だ。


この力は特別だ。


この力で、生き永らえることが出来る。




彼らは絶大な魔力を有するのと同時に、世界トップクラスの魔法の使い手だった。彼らから開発された魔法は数知れず、古の有名な魔法師は実はアクア族であるという史実もある。

疎まれている力で、忌むべきだと思い込まされた力で、彼らは人知れずただ目的の為だけに生きた。





そうして彼らは、不老不死の力を手に入れたのだ。





それは魔法というよりはもはや呪い。


だが彼らにとっては、自分たちの存在を誇示する希望の光だった。


人間を作れぬなら自分たちが永遠に生きればいい。生きて、絶やすことなく在り続ければいい。






それでも彼らは、その全てを成功させることは出来なかった。






神は、彼らになんて数奇な運命を送ってしまったのだろう。
















「で、現在実存しているアクア族は確認されているだけで十数人。元が少ないとは言え、一時は一万近くいた彼らは絶滅状態だ。恐らく今残っているアクア家の人間は不老不死の魔法が成功した実例なんだろう」

「ひえ…」


今夜泊まる宿に向かいながら、ノアは本に書いてあった内容を軽く説明してくれた。軽くと言っても聞く限り薄い内容ではない。読んだだけで人に説明できるほどのものではないはずなのだが、彼は自伝を語るようにすらすらと説明したのだ。勿論本を手元に持っているわけではない。あれは制服を借りた彼の腕の中にきちんと納めてきた。目が覚めたら上司に問い詰められることになるかもしれないことに関しては、本当に申し訳なく思っている。

聞けばノアは本の内容を大体暗記しているという。あの集中力は伊達じゃなかったらしい。そんな特技があって魔法の本を読み漁っているのなら、実践だってもっと上手く出来そうなものなのに、と呟いたら指の毛を抜かれた。


緋彩には少々難しい話もあったが、ノアは割と噛み砕いて話してくれる。わざとかどうかは分からないし、途中で質問をされるのが煩わしかっただけかもしれないが。


「不老不死はアクア族にしか扱えない魔法による呪いのため、彼らの血が必要となる。本に書いてあった解呪方法は、その血を世界中に散らばった法玉に吸わせることで解呪魔法を発動させるというもの」

「法玉…?」

「魔法事象を圧縮させた玉のこと。発動させるには製作者が定めた()が必要となる」

「その鍵がアクア家の人間の血ということなんですね」

「そういうことだ」


法玉というものは何も特別なものではない。今でも現存する物ではあるが、日常的に使われるものではなくなった。時代の移り変わりの所為であり、廃れてしまった理由は特にない。使い方を知っている者は、もう魔法の便利さなど求めなくなった老人達くらいだろう。

アクア族はいつか自分たちが死にたくなったその時の為に、その法玉を世界各地に置いた。途方もない長い時間を過ごせば魔法の使い方など忘れてしまうのではないかと危惧したからだ。実際、その法玉を使って不老不死を解き、命を絶った者もいる。長い人生に疲れ、もう充分に誇りを示すことが出来たと悟ったのだ。


「ということは、不老不死を解くのに必要なのはアクア族の血だけではなく、その法玉っていうのもということですね」

「アクア族を見つけられさえすれば、法玉の場所も知っているだろう。まずは彼らを見つける」

「了解!」


ビシリと敬礼をした緋彩に、ノアの冷たい目線が突き刺さる。さっきはあんなに心を許した(と緋彩は思っている)笑顔を見せてくれたのに、もう元に戻ってしまって残念だ。





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