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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十章 見つけた心
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帰路の過程

何とか城を出て林の中まで入れば、追手は奥へ進む度少なくなった。その分生い茂る木々はボリュームを増しているけれど、隠れるにはちょうどいい。

折ってくる足音が聞こえなくなった所で、四人はやっと足を止めて大木の傍らに腰を下ろした。


「ノア、酷い怪我だ。大丈夫か?」

「問題ない。かすり傷だ」


途中で意識を失ってしまった緋彩を地面へ下ろすと、ノアは上着とシャツを脱ぐ。自身と緋彩の血がべっとりとついた上着は、どこもここも破れてしまって使い物にならないだろう。シャツの下から現れる肢体は見惚れるほどのバランスの良い細さと筋肉で形どられているのに、傷や痣だらけになっていた。

アリアは手当てする、と言って城の中から奪ってきた救急道具を取り出した。それを大人しく受けている辺り、やはりノアの怪我も軽いものではないのだろう。顔には全く出していないが、見る限りでも内臓まで届きそうな深い傷もたくさんある。


「ヒイロの方は大丈夫なのか?」


手早くノアの手当てを進めながら、アリアは横たわったまま動かない緋彩をチラチラと見る。ノアよりも酷い怪我なのに、これで死なないから大丈夫と言う本人とノア達の言うことが信じられないのだ。

実際、緋彩の傷はもう殆ど塞がっている。意識がないのは傷が塞がっても継続する痛みと貧血の所為だ。血を吸っている服のせいでその異常な再生力は見た目では分からないのだが、手当てはしなくていいと言われればさすがに可笑しいと感じるだろう。

アリアの問にノアは暫く黙っていたが、やがて諦めたようにため息をついて口を開いた。


「…こいつは、どんな怪我を負おうが病気をしようが文字通り死なない。不死の身体だ」

「え…?」


アリアにとって、それは聞き馴染みのない単語だった。意味は分かるが世界にはそんな人間がいるとかいないとか、殆ど作り話ような感覚で認識してた言葉だ。少なくともアリアのこれまでの人生では全く接点がなかった。


「この国の国王が本当に求めていたものは知っているか?」

「本当に求めていたもの?」

「永遠に動く奴隷。…不死の奴隷だ」

「!」


表向きの奴隷の仕事は国を動かすだけの財源供給。それは勿論その通りであるし、奴隷となっていた人々もそう思っていた。しかしその中で永遠に働く奴隷を作り出そうとしているなどとは誰も思わなかっただろう。国王自身もその身を永遠にされようとしていたことなど、誰も知らなかっただろう。


「…よくもまぁ、国民は何をしているか分からない国王に心酔していたものだな。あの分じゃ国民全員を実験台にするまで収まらなかったぞ」

「そ、そんなに狂っていたのか?国王は…」

「国王が狂っていたというより…」


アラムによって狂わされていたというのが正しいだろう。だが、アリアはあくまでルーク国の一国民だ。アラムと関わらせない方がいい。

ノアは少し逡巡して、何でもないと口を閉ざした。

当然アリアの疑問は不完全燃焼でノアに詰問しようとしたが、それをローウェンのわざとらしい声が阻む。


「ああっ!そういえばアリア、ご両親には会えた?」

「えっ?あ、うん、まぁ…」

「そう、良かった。無事だったんだね」


夥しい数の奴隷の中で、アリアの両親を探すことは困難を極めていた。とにかく全員を解放すればアリアの両親も助かる。生存確認だけでも出来ればラッキーとも言える状況の中、アリアはしっかりその目で両親の姿を確認していた。


「騒然としてた中でほんの一瞬、目が合っただけだったけど、ちゃんと自分の足で立って動いてた。大分痩せていたけどな」

「慌てることないよ。宿に帰ればこれからはずっと一緒なんだ。アリアは料理が上手だから、たくさん食べてもらったらいい」

「………うん………、うん………」


噛み締めるように頷くアリアの声はほんの少し湿っていく。ノアに巻いた包帯に一滴、温かいものが零れ落ちる。




「ありがとう…。私一人じゃこんな結果にはなってなかった。あんたたちがいてくれて本当に良かった…、ありがとう…っ」




震える彼女の頭に、不意に優しい重みが乗った。

少し視線を上げると、手当てが終わったノアの腕が伸びてきていた。








「ヒイロが今ここにいるのも、俺の傷が手当てされているのも、お前のお陰だ」


「!」








決して、アリアも欠かしていい存在ではなかった。




普段口数が少ないからだろうか。


分かりにくいノアの言葉は、何故か重く、胸の奥底までずんと沈んだ。







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