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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十章 見つけた心
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解放

「早く!早くこっちだ!」

「押さないで!女性子どもから先に!」


穴の外では、アリアとローウェンの手によって奴隷達が逃されていた。歩けない者、心神喪失している者、気を失っている者、たくさんの動けない状態の人がいたが、アリアとローウェンを含む、まだ正常な判断が出来る者たちで助け合って出入口に向かった。

当然、兵士達はそれを拒むわけだが、兵士の数に対して奴隷の数は三倍だ。全てを押さえておくことは出来ないし、もっと悪いことには、奴隷側にはノア=ラインフェルトという化物がいた。


「ローウェンてめぇ!少しはこっちも手伝え!」

「あ、ごめーん!そっちはノア一人で足りるかなと思ってー!」

「ふざけんな!俺に何人相手させる気だ!」

「こっちだって人手足りないんだよー!もうちょっと踏ん張って!」

「ったく…っ!」


ローウェンは背中に老人を背負い、前に子どもを抱いて追手の兵士から逃げている。そのうち数人をノアが後ろから薙ぎ払っていった。最後まで追いかけてきた一人は、アリアが横から木の棒で殴る。見事な連携プレーが出来上がっていた。


「こ、こいつら何なんだ!たった三人で…!」

「いいから早くこいつらを殺せ!奴隷達がどんどん逃げていくぞ!」

「で、でもこいつが強…、ぐわぁ!!」


逃げて行く奴隷達を追う時間も、気にする時間もない。

そんなことをしようものなら一瞬でノアの剣の餌食だ。

一人、二人というレベルではない。ものの数秒で何十人もの兵士達が倒れ伏していく。

ローウェンに手伝えと言った割に、一人で全部片付けてしまいそうである。



「!」



奴隷達の逃亡を阻止しようと出入口に向かう兵士、襲ってくる兵士、逃げられるくらいならここで殺そうと奴隷に手を出す兵士。ノアは片っ端から兵士の格好をした者を戦闘不能にしていったのだが、その途中で視界の端にどこかへ掛けていく兵士を見つける。


奥の、


周りからは死角となる洞窟のような穴。






「ローウェン!ちょっとこっちは頼んだぞ!」

「えっ!?はっ!?えええええっ!?」






言うが早いか、ノアはまだ老人と子どもを運び出している最中のローウェンにその場を任せ、返事も聞かず走り出していった。

間髪入れず近付いてきたアリアに老人と子どもを預け、ローウェンは剣を抜いて口端を吊り上げる。


「ったく、無茶言うね…っ!」










***









「ヒイロ!いるのか!」


逃げて行く奴隷達の中には何処にも紛れていなかったその姿を、ノアはこんなところで探した。

途中で感じたあの痛みが確かなのなら、経過した時間からしてまだ緋彩は動ける状態ではないはず。逃げられる環境でも逃げられないか、若しくは逃げられる環境ではないか。

どちらにしろ、喜ばしい状況ではない。


「ヒイ───…、!」

「ぐあ!」

「あ、やべ」


ノアが追いかけて来たことに気が付いて待ち伏せていたのか、追っていた兵士が横から剣を手に飛び出してきた。咄嗟に避け、軽く小突いて眠らせはしたものの、緋彩の居場所を訊くつもりが誤った。

仕方ないと奥に進むが人の気配はない。だが、代わりに分かったこともある。

視界が悪い中でも確かに感じた足下の異変。視覚というよりは、足裏に感じたぬちゃりとした感触と、鼻を掠めた鉄のような臭い。




「…………」




夥しい量の血溜まりが、そこには出来ていた。









***









女の子にとって、汗臭いのと血生臭いのと、どちらが死活問題だろう。

今ならどちらも網羅しているのでどちらにしろ死活問題だ。


「…う…、」

「あ、起きた」


貼り付いた瞼を半ば無理矢理引き剥がせば、霞んだ視界に誰かの顔が映る。血を流し過ぎたからか、ドライアイが極まっている。何度瞬きを繰り返しても中々焦点が定まらないと思ったら、その顔はくっつくほど近くから緋彩の顔を覗き込んでいたからだ。


ただ見えるのは、どこかで見覚えのある、金の視線。





「─────…っ!!!」





それまでぼやけていた視界が突然鮮明になったかのようだった。視界も、意識も、記憶も、生命も、一気に引き戻される。



「あ…、あんたは…っ!」

「あ。僕のこと覚えていてくれてたかい?…アマノヒイロ」



何故。



ニヤつく恐ろしいまでの歪んだ笑み。

身体半分が人体模型かのように皮膚が剥ぎ取られた寒気のする出で立ち。

相反する左半分の美しい容姿は、見惚れる程の金の瞳を宿している。






「アラム…!!」






何故この男がここに。









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