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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十章 見つけた心
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悠長なこと言ってられないほど

アリアが通ってきた隠し通路は、有事の際の逃走経路であり、外に繋がっている。緋彩のお陰で無事鍵を手に入れたアリアは、通路を使ってそのまま鉱山まで向かおうとしていたが、外の尋常じゃない騒ぎにノア達が来たことを察した。

遅かれ早かれ、彼らは来ると思っていたのだ。


「良かった。私の勘が当たって」

「勘?」


人一人がやっと通れるくらいの狭い通路を、ノア、アリア、ローウェンの順番で掛けていく。ノアは無言で進むだけだが、代わりにローウェンがアリアの呟きに応えてくれる。


「あんたたちは絶対私達を追ってくると思ってた」

「うん?何で?」

「だって、ローウェンはともかく、ノアはヒイロがいなくなったら放って置かないだろ?」

「あー…」


何の他意もないアリアの感想に、ローウェンは肯定も否定もしなかったが、納得という反応をしてしまう。瞬間にノアの瞳孔が開いた目を向けられた。否定なら自分でしたらいいのに。


「…ま、まあ、ノアとヒイロちゃんは特別な関係だしね。ヒイロちゃんに何かあるとノアも困るんだよ、いろいろとね」

「困る?」

「余計なこと言うな、ローウェン」


これ以上話すと不老不死のことまで明かすことになる。その手前で、ノアはやっと口を開いた。同時に、後ろのアリアに容赦ない冷たい視線をぶつける。


「お前には関係ない。詮索するな」

「関係ないことないだろ。ヒイロが捕まったのは私の責任でもあるし、ヒイロに何かあるってことがお前にとっても関係あることなら、私も無関係でいられない」

「面倒くせぇな。何でお前もヒイロもそんなに人の事に首を突っ込みたがる?放っておけよ」


関わろうとするから、無関係で済まされたものに関係が出来てしまう。良いことも、悪いことも。

今回だって全てアリアが悪いとは言わないし、寧ろ首を突っ込んだ緋彩に非はあるが、関わらなければこんなことにはならなかった。

痛い思いも、苦しい思いも、しなくて済んだのだ。





「それはお前だって同じだろ」


「!」





僅かに見開いたノアの目には、今更何を言い出すのかとでも言いたげな、きょとんとしたアリアの顔が映り込んだ。


「ノアだって今ここにいるってことは、自分から首を突っ込んだってことだ。不本意かもしれないけれど、確かにお前は自分の意思でここにいる。ヒイロを助けに来ている。…無視することだって出来ただろ?」

「………」


自分の所為で陥った状況に、偉そうなこと言えないけれど、とアリアは眉を下げる。けれど、ノアからの反論はない。


「この前だって、ヒイロと口論になったのは、お前がヒイロを心配していたからだ。本当に面倒なら黙っておけばいい。勝手に動く無邪気なヒイロを、そのまま野放しにして、何があっても自分の責任だと言い張ればいい」

「……お前に、何が分かる」

「知らねぇよ。お前とヒイロがどんな関係かは分からないけど、少なくともお前は()()しなかった」


アリアは黙るノアの腕を掴み、無理矢理振り向かせる。思わず足を止めたノアは、敵意とも取れる目で見下ろした。小柄なアリアには、ノアの身長は顎を上げなければならないほど差がある。


けれど、眼差しの強さは対等だった。






「大切に思っているものに、無関係なんて言ってられないからな」






アリアが緋彩に感じたこと。


人に真っ直ぐで、自分には回り道で、感情的で単純で頭は悪いけれど、決して心は弱くない。

ともすれば、どんなに強固に鍛え上げられた武人よりも強靭で、何物にも代えがたい唯一の心を持った存在。


きっとそれは、どんな冷酷な人間でも目を逸らせない。


文句を言いながらでも失えないと思わせてしまう。



彼が動く理由は、そう感じているからだとアリアは思っている。








***









何度心臓に穴が穿たれたか分からない。

分からないくらい刺されているはずなのに、少女は血塗れのまま、息をしている。



「…は……、…な…、んだよ、こいつ。どういうことだよ…?」



目の前で起こっている信じられない惨状。自分達が起こしたということも忘れて、大の男達が震えていた。


「お、おい…、こいつまさか、国王様が探してるっていう…」

「は…?そんなはずねぇだろ。俺はそんな奴がこの世に存在してるなんて、本当のところ信じちゃいねぇからな…!」

「で、でも…こいつ確かに…」


ようやく気を失ったものの、胸に出来た穴は血が付いているだけで塞がってしまっているし、脈も触れる。

どう考えても、正常の人間の状態ではなかった。


「と、とにかく国王様まで報告だ!これ以上はこっちの判断で動くと、俺らがどんな処分を下されるか分からねぇ!」

「ふ、ふざけんな。そんな人間がいてたまる…、…っ!?」

「な、何だ!?」


信じられぬ光景。まだ理解が追いついていないのに、状況は待ってはくれなかった。


突如として穴の外は騒ぎが起こり始める。

男女の奴隷が騒ぐ声。恐怖や驚きや、困惑にも聞こえた。その中には確かにいつもは蔑むだけの兵士達の声も混ざっている。


「な、何だ!何が起こった!」

「た、大変です!」


混乱の中から報告に来たのか、若い兵士が一人、穴の外から顔を出す。こちらも、信じられないという表情を滲ませていた。






「侵入者が、奴隷達を逃しています…!!」







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