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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第十章 見つけた心
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日常の反撃

口から魂でも出てきそうな顔色で帰ってきたローウェンは、部屋のドアを開けた途端ピタリと固まった。

緋彩とノアが向かい合っている。距離は近い。不安そうな緋彩の顔、いつもの不機嫌さを落としたノアの表情。どんな会話をしていたかは分からなくても、決して笑い話ではなく、ローウェンがその邪魔をしてしまったことだけは明らかだ。


「……あ……、あー…、えー……、ごめん、僕買い忘れたものあったわぁ」

「おかえりなさいローウェンさん!買い忘れは明日買いに行きましょう!」

「あ、はい!」


気まずい雰囲気に踵を返したローウェンだったが、すかさず緋彩が呼び止めた。大海の木片とでも思ったのだろう。ローウェンに注がれる緋彩の眼差しが血走っている。

緋彩の勢いに思わず返事をしてしまったローウェンは、もう逃げることは敵わず、諦めてこの場の状況を把握しようとする。


「えー…と、それで?二人は何してたの?」

「せっ…、世間話!」

「へぇ…。ノアが世間話。珍しいこともあるもんだね」


ローウェンの反応は明らかに緋彩の答えを信じてはいないが、特別追及はしなかった。彼女の表情から察するに、どうせノアに関することなのだろうと分かっているからだ。進展しない二人の関係に、ローウェンはほとほと呆れてしまっている。


「というか、ヒイロちゃん起きたんだね。身体は平気?」

「あっ、だ、大丈夫です!ご迷惑お掛けしました!」

「僕は何もしてないよ。ここまでずぅーっと抱えてきたのはノアだからね」

「え?」


ローウェンは荷物を下ろしながら、ニヤついた顔を少しだけノアに向ける。案の定、ノアからは余計な事言うなという視線が返ってきた。


「ノアさんが…?」

「ヒイロちゃんは他の男には抱えさせないって、半ば意地であの長い距離をずっと抱えてたよ。時々、残った僅かな水を飲ませて、甲斐甲斐しく看病しながらね」

「…っノ、ノアさんが!?」

「んなこと言ってねぇし甲斐甲斐しく世話なんてしてねぇわ!誤解を招くようなこと言うなローウェン!」

「えー?間違ってはないと思うけどー?心配そうにヒイロちゃんのこと見てたじゃーん」

「ノアさんが!?」


緋彩の表情が驚きから感動に変わっていく度、ノアの苛立ちが増していく。キラキラした目で顔を近づけてくる緋彩を遠ざけながら、怒りの矛先はローウェンに向かう。ローウェンは意に介していないようだったが。寧ろ煽っていると言ってもいい。


「もう認めちゃいなよノアー」

「何がだ!」

「え?言っていいの?ヒイロちゃんの前で?いいなら言」

「いやちょっと待て!何を言う気だ!」

「だから言っていいの?」


ニヤニヤとしながら含み笑いをするローウェンは生き生きしている。普段ノアより優位に立つことなどないので楽しいのだろう。

緋彩とノアに同行したこの数か月間、ローウェンはノアの弱点を手に入れることが出来た。緋彩に関することならノアは完全に調子を崩す。ノアが緋彩に対する気持ちも、緋彩がノアに対する気持ちも、本人たちよりも詳しく認識しているのはローウェンだった。


そしてローウェンは、睨むノアに嘘だよと宥め、話を逸らすように買ってきたものを整理し始める。食糧は底を突いていたいたし、買ったものは大量だ。食べ物、水、薬草、その他諸々。両手いっぱいに抱えてきた袋を改めて見れば、彼が部屋に入ってきた時の疲れ具合が納得できた。


「すみません、ローウェンさん。買い物任せちゃって。ローウェンさんも疲れてるのに」

「いいのいいの。僕も休んで回復したし、ヒイロちゃんが行くにはちょっと危険な場所もあったしね」

「危険な場所」


何故買い物にそんな場所があるんだ。

一体どんなところに行ったのか疑問しかないが、緋彩はそれよりも先にローウェンの服、右腕の所に僅かな切り込みが出来ていることに気が付いた。


「あれ?ローウェンさん、腕のとこどうしたんですか?」

「ああこれ?ちょっと面倒事に巻き込まれちゃってね。…そのことでノア、話があるんだけど」

「話?」


かすり傷だから大丈夫だよと緋彩を安心させてから、ローウェンは少し真面目な声をしてノアに視線を向けた。








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