探し続けたものはあっけなく
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!ノアさん!?ノアさんですかあなた!!?」
「叫ぶな。傷が塞がらねぇぞ」
「叫ばなくても衝撃で傷開きますよ!また内臓はみ出ますよ!」
「?」
何をそんなに驚いているのかとノアは首を傾げる。彼にとっては特別おかしいことを言っているわけではなかったようだ。勿論おかしな発言をしたわけではない。あんたがノアでなければ。
「……ノアさんも一人前に心配とかできる人間に成長したんですね……!」
「はっ倒すぞ」
だってノアは一番『心配』という言葉から縁遠い人間だと思っていたのだ。ましてや、緋彩の心配など天地がひっくり返ってもあり得ない状況であったはずなのに。
目の前の男は本当にノア=ラインフェルトなのか疑わしくなってきた。
「ノ…ノアさんがノアさんじゃない…気持ち悪い…」
「何言ってんだ。いいから喋るなっつってんだろ。早く傷を塞いでやってもらわなければならねぇことがあるんだから」
「やってもらわなければならないこと?」
「ん」
「ん?」
緋彩が首を傾げると、ノアは天幕の外を顎で指した。外にはローウェン、それから龍がいる。
成程、と緋彩は納得するが、同様に疑問も抱く。
「私は…、一体何をやってしまったのでしょうか」
ノアに言わせれば、何もかも面倒な事態を引き寄せたのは緋彩だということなのだろうが、それと同時に普通では考えられないことをやってのけたのも緋彩である。
自ら龍の爪の餌食になりに行き、そしてさらには。
「…お前は、龍と意思を交わしていた」
信じられないけれど、確かにその目で見た現実だと、ノアの声は真剣だった。そもそも冗談を言うような人間ではないが、冗談の方がまだ真実味がある現実だった。
「…龍と、意思を…」
「そうだ。俄には信じられないが、あの時確かに龍はヒイロの声を聴いて怒りを鎮めた。…お前には、龍の声が聞こえていたのか?」
「聞こえるはずっ…、……、…聞こえてた、かも……」
緋彩は一瞬、伝説の生き物と言葉を交わすなんて、そんな馬鹿な話があってたまるもんかと思ったが、はたと気が付いて脳とか鼓膜とかに直接響いて来たような誰かの声を思い出した。
『ロイ、私はお前を許さない』
そう言ったあの言葉。
ロイと呼んでいるからにはロイに向けたものなのだろうが、それが何を意味するかは想像もつかない。ロイが一体何をして、龍が、マナが、一体何に怒っていたのか。
「お前はただただトラブルを持ってくるだけじゃないらしい。理由は分からないが、龍と意思を交わせるなら、ロイとの関係をちゃんと確認しておくべきだ。あの龍がロイのことを知っているのなら、ロイは…、」
そう。
こんなに思いもよらぬ状況で出会えるとは思ってもいなかった。だからこそ、そうだとは誰も思わなかった。
緋彩はともかく、ノアはもう何年も探しつづけていたのだ。ずっとずっと、本当にあるのかどうかも分からない存在をずっと。
こんな形で目にするとは夢にも思わなかったから。
ロイがアクア族だなんて。