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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第八章 歴史に埋もれる力
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掘り起こされた歴史

「それから、ラインフェルトの名前が出てきたことも気になるね。…ノア、何か知ってるの?」

「!」


ローウェンの声に、緋彩の肩ばビクリと揺れる。勿論ローウェンは話の続きをしたまでだが、一人思案していた緋彩にとっては唐突な声だったのだ。悪いことをしていたわけでもないのに、叱られた後みたいに心臓がドキドキと音を立てていた。ノアを見たローウェンには緋彩の動揺は気付かれていないだろうが、すっと目を細めたノアには多分バレている。気付かない振りをしてくれたのか、単に興味がないだけなのかは分からないが、ノアはすぐに緋彩から目を離し、ローウェンの問いにゆっくりと首を横に振った。


「詳しいことはよく知らない。両親は死ぬまでラインフェルト家のことを俺に話さなかったし、そもそも俺に呪いを渡すつもりはなかっただろうから、話すつもりもなかったんだろう」

「親戚とかに訊いたことはないの?」

「俺の知っている親戚はいない。生きているかも分からない。生きていたところでどこにいるかも知らんしな」


さも当然かのように、ノアは淡々と事実を述べた。きゅっと胸が締め付けられるのは緋彩だけで、当の本人は何の感情も示さない。少なくとも寂しいとか悲しいとかいう色を表しているようには見えなかった。または、必要ない、とでも言っているかのようだった。

しかし、そのこと自体は何とも思っていなくとも、自分の家系を知るということに関しては不便ではあったようだ。


「ただ、一応ラインフェルト家のことを出来る限りで調べたことはある。分かったのは、呪いが血で受け継がれること、不老不死が出現するのは血縁の中で一人だけであることということだけだ。家系の歴史は…、残されていなかったから分からない」

「残されていないって…」


不自然な間があって首を振るノア。

不老不死の呪いを持つ一族の歴史など、記されていないはずないのだ。何の変哲もない家系のことですら何かしら残されているのに、ラインフェルト家のような特殊な家系の歴史は、語り継ぐ意味がある。それがどこにも残されていないというのは、何か理由があって記されなかったのか、もしくは。




「焼かれていた」

「!」




緋彩とローウェンは、同時に息を呑む。何かの陰謀としか思えなくて嫌な予感がした二人だったが、ノアは勘違いするなと一人冷静だった。


「一族の歴史が記されている文献なんて、そう広く出回っているものでもない。ラインフェルト家のことが書かれた文献のある書庫がたまたま火事に遭って焼かれただけだ」

「そ、それは放火とかではなく?」

「子どもが火の魔法を練習していて、燃え移ったそうだ」

「その子どもは誰かのスパイとかではなく?」

「親が書庫の持ち主に土下座して謝っていたそうだ」

「そ、そうですか」

「お前らはそんなに何かの事件にしたいのか」


ノアは交互に疑いの目を向ける緋彩とローウェンを煩わしそうに睨んだ後、疲れたように息をついた。同時に、強張っていた表情が少し和らいだようにも感じる。


「アクア族でしかありえない不老不死の体質がラインフェルト家に受け継がれる理由…。それがヒイロが読んだアクア族の遺した遺書の通りなら頷ける。…別に知りたいとは思っていなかったが、分かったら分かったでスッキリするもんだな」

「…意外と気にしてたんじゃないの、ノアも」

「さあな」


自分の家系、それも自分が生まれていない時のことなど、知ってどうにかなるものではない。過去が変えられるわけでもないのだ。死んだ者は生き返らないし、壊れたものは元には戻らない。なくしたものに未練を残したって何の足しにもならないと思っていたノアだったが、実際に納得した歴史は、自分の過ちを精算するようにすんなりと受け入れてしまったのだった。

ただの一度も、過去を不思議に思わなかったわけでない。もしかしたらラインフェルト家は、アクア族に本当の意味での()()をかけられたのかもしれないと思わなかったわけではない。アクア族の怒りを買い、その報いとして不老不死を穿たれたのではないのかと。


だが違った。


むしろアクア族はラインフェルト家を大切に思ってくれていた。

ボロボロの身を削ってまで、それを伝えようとしてほどに。


感謝と謝罪を、いつかその文字が読める人間に託して。






「ノアさん」

「!」






今度はノアがはっとする番だった。緋彩の声に、ぼやけていた視界を鮮明にさせ、目の前で眉をハの字にする少女の顔に焦点を当てる。


「大丈夫ですか?具合悪い?」


ノアがぼーっとすることなどあまり目にしないからか、それだけで緋彩は心配そうに表情を歪めた。まだ完全にはなくなっていないという頭痛と眩暈に悩まされている緋彩の方が、余程具合が悪そうなのに。

顔を覗き込んで小首を傾げる緋彩に、ノアは無感動な目線をやった後、皺の寄った彼女の眉間にグリグリと人差し指をめり込ませた。


「いてててててて!?何すんですか!心配してんのに!」

「余計なお世話だ。人の心配する元気があるんならさっさと先進むぞ。足手纏いを役立させてやるから」

「人を使用用途の分からない便利グッズみたいに!」


この先にも読めない文字が彫ってある場所がわんさかあると言う。せっかく役に立つ仕事を手にしたのだからジャンジャン働けとノアは意地の悪い笑みを浮かべた。本当にさっきまで緋彩を抱えていた人物と同じ人間だろうか。


ローウェンが一人、素直じゃないねぇ、と呟きながら罵り合う二人の後ろを追いかけた。





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