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卒業式代表決定戦ー丑の段ー  作者: 天上いこい
7/18

2 三回戦

 放課後――小体育館。


 十二干支小学校には体育館が二つある。一回戦で使用した体育館は四年生以上が使う大きい体育館。こちらの小体育館は三年生以下の低学年が使用している。

 その中には三人の人間がいた。

 丑三円花。

 審判を務める巳浦義治先生。

 そして、対戦相手の平牛仮令たとえ

 仮令はお金持ち側の児童であり、十二干支小学校の児童会――生徒会のようなもの――の会長を務めている。

 児童会の書記にあの竜亥が着任しているので、いかに立場が円花と違っているのかがよく分かる。


「さて、勝負の方法を決めるのが先でしたわね」


 いかにもなお嬢様口調。

 仮令は六年生だけでなく、全校生徒に知れ渡るほど知名度の高い人物である。

 なぜなら児童会長だから。

 自然と目につく機会は多い。

 同じ六年生の円花からすれば、知名度以上の情報も当然入ってくる。情報ソースは本人なのだけれど。


「では、二人で早速決めてください」


 巳浦先生に促されて、円花は仮令と向かい合う。

 妙な緊張感があるのは仮令が外見からお嬢様の風体をとっているからだ。

 同じ制服を着ているはずなのに、仮令の方が糸から高級なものを使っているように見える。


「一回戦と二回戦、丑三さんはどんな勝負をしてきましたの?」


 自信に満ち溢れた姿は真由香のものとは異なる。

 真由香は外見に絶対の自信がある様子だったが、仮令は存在に自信を持っているようだ。

 生まれから何から、自信に満ち満ちている。


「一回戦は心理戦。二回戦は平和的に不戦勝といったところかな」

「なんの参考にもなりませんわね」


 辛辣な感想をいただいた。

 正直に答えただけなのに。

 心理戦ぐらいしか情報を得られなかったからそう漏らしただけというのは理解するけれど。

 聞きようによっては二回戦も心理戦で勝った風に聞こえなくもない。


「そういう平牛さんは?」

「わたしくは世界の国名を言う、でしたわ」


 こちらも大した情報ではなかった。

 一つしか言わなかったのであれば、単純に仮令は一回しか勝負をしていない。

 要するにシード権を持った人物の一人であることだけが判明した。

 トーナメント表は完全に抽選だった。そして最短三戦のシード権は二人だけ。であれば仮令は運が強いことになる。

 情報量と言うなら円花の方が多い。

 心理戦と地理。

 同じ理を持った学問(?)なので通ずるところがありそうだが、残念ながら勝負を決する場合においては役に立たない。


「正々堂々と勝負したいところですわね。やはり学び舎においての勝負事は頭脳で勝負というのが先生方にとってもありがたいのではないかしら?」


 仮令は円花に確認を取るのではなく、巳浦先生に直接尋ねた。


「君たちの自由で大丈夫だよ」


 しかし大人の余裕からか、笑顔でそう返される。仮令は円花に視線の先を変えた。


「いいかしら?」

「おっと驚いた」


 古風な反応をお見せしてしまった。

 まさか同意だけを求められるとはさすが生粋のお嬢様。自己中心的でいらっしゃる。


「学校の中での勝負なら学力勝負。いかにもで大変分かりやすいことは当然だけど、さすがにこの場には合わないと思うっていうか、勝負にならないっていうか」

「……どういうことかしら?」


 明らかな不満を表情に出して、仮令は鋭い目で円花を刺す。

 円花はちら、と巳浦先生を見る。

 巳浦先生は六年生担当の教師じゃないけれど、恐らく考えていることは同じはず。


「だって、普段から先生は私たちの学力を把握しているじゃない。今更そんな勝負をしても、先生はもちろん、私たちにだって勝敗は目に見えてる」


 満足そうに巳浦先生の口角が上がった。


「それに」


 円花は、すでに知り得ている情報を繰り出した。


「平牛さんは有名な進学塾に通っているし、それ以外にも英会話やそろばんだって習っている。何も習い事をしていない私には不利だね」


 そう、この卒業式の代表選考会において学力勝負が一番意味のない内容なのである。あえて先生は勝負の内容について当事者同士で決めて構わないと公言している。

 学力で優劣を決めるなら、普段からテストで行われているのだ。

 自分の独壇場にしようという姿勢は勝負の場において正しいけれど、円花の言うことも正論ではあった。

 勉強は苦手と大きな声で言っているのとまったく同じでもあるのだけれど。

 児童会の会長でもある仮令が、束ねる数多の児童の一人の声はないがしろにはしないという微かな自信もある。

 普段の行動から培われた能力での勝負となると、どうしても仮令が有利になる。

 円花としては仮令が勝利を掴むことに問題はないのだが、無意識に反抗したくなっている。

 偉そうにされているからだろうか。


「なら、簡潔に申し上げますわ。あなたには負けていただきます」

「はい」


 最初からそのつもりだと頷いて見せる。

 物分かりのいい子供だと思われているのか、深く考えられずに仮令はどこかへ視線を投げる。


「わたくしが卒業式で卒業生の代表を務めるのは、生まれた瞬間から決められていたことなのですわ」

「え、何、自分語り? 長くなる?」

「黙ってお聞きなさい。あなたが負けなくてはならない理由を話してあげるのだから、静かにして」


 ものすごい剣幕で怒られた。


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