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卒業式代表決定戦ー丑の段ー  作者: 天上いこい
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4 戦いが終わり

 あれで終わってよかったのかと不安を残したまますべての勝負が終わった。

 結果は出ていない。

 決勝の勝負は「話し合い」であったものの、円花と竜亥の話し合いではなく、審判を務めた先生たちがどちらかを選ぶ形になった。

 先に職員室に戻った先生たち。

 このまま帰ってもいいとの許しをもらっているので、あとは本当に下校するだけ。

 舞台に用意されていたパイプ椅子を元の場所に戻して舞台から降りる。

 体育館中央までゆっくりと歩けば、かくんと膝が折れた。


「うっ」


 小さなうめき声とともに崩れ落ちそうな体が、また竜亥によって支えられる。


「円花っ!」


 片腕を引っ張るようにして支えられている円花の体に、仮令が勢いよく抱きついた。


「申し訳ありませんでしたわ! 円花の事情も知らず、わたくしは、わたくしは……!」


 すでに泣き顔の仮令は何度も謝罪の言葉を口にする。

 円花の両親に向けた本音を聞いて、三回戦で仮令の父親が観戦に来たことを悔いたらしい。それは戦略ではなく父親のある意味では個人的な理由によるものだったのだから、気にするまでもないことなのに。


「仮令ちゃん、いいんだよ。私が意固地になっただけなんだし。こうして友達になってるんだからいいじゃない」

「ま、円花……あなたって人は」


 両親に言いたいことを言い終えた後だからか、かなりの大きな心を持った状態になっている円花に仮令は目尻に溜まった涙を指をふき取った。

 手作りのマフィンとクッキーをおかわりするほどいただいてしまったのに、許していないわけがない。

 体育館の入り口の前で円花を待っている両親の姿が目に付き、抱きついたままの仮令を離れさせ、竜亥の腕からも解放される。


「大丈夫か?」


 竜亥の声に、そういえば円花が想定していた勝負はあのようなものではなかったことを思い出した。

 竜亥とはまだ、勝負をしていない。

 頭の上のリボンに手をやって、位置が変わっていないことを確認する。


「牛込くんには、助けられてばかりだよね」

「たまたまだ」

「それが、私にはすごく嬉しかったんだよ」


 いつもありがとう、とお礼を言いながら、竜亥の首に腕を回す。

 ぎゅ、と力を入れて、仮令がしてくれていたように。


「好きです。そんなあなたが」


 竜亥にだけ聞こえるように言って離れる。

 これで、円花の勝負も終わった。

 目を丸くする仮令ににこりを笑顔を見せて、両親の元へ駆け寄った。


「あれに俺はどう勝てと言うんだ……?」

「あなたの負けですわ、牛込くん」




☆★☆★☆


 年が明けて三月半ば。

 十二干支小学校の卒業式。

 卒業生の代表を務めたのは、牛込竜亥――だけではなく、丑三円花も一緒だった。

 話し合いの結果、在校生の代表――児童会の後輩たちでも揉め事があったようで、卒業生代表も二人になれば問題がなくなると職員室で話がまとまったらしい。

 円花の両親が夏休みに離婚の話を進めてはいたものの、決勝の場での円花の叫びによって離婚は取り消され、円花は「丑三円花」のままで過ごせることになった。

 もしも離婚が成立していれば「伊波円花」となっていたから、円花は勝負に参加することに後ろめたさを感じていた。

 卒業式には円花の両親二人も参列していた。かつてのような軋轢はなく、円花の雄姿を誇らしげにカメラに収めていた。

 竜亥はと言うと、卒業式のリハーサルと本番以外には顔を合わせてくれなかった。無理に会いに行こうとしなかったけれど、顔を合わせれば体を硬直させて目を合わせてくれない。

 告白され慣れていると思っていただけに、予想外の反応を見た円花は素直に「悪いことをしたな」と反省していた。


「えっと、気にしなくていいからね? 聞き流されると思ってたから驚いた」

「さすがにその……返答に悩んでいる」

「だから、返答は待っていないんだけど」

「そういうわけにもいかないだろう。君は他の人たちと違うんだ」

「ん?」

「あ、いや……」


 どうやっても目を合わせてくれない竜亥。

 円花はまあいいかと諦めて仮令や友達のいる群がりに混ざろうと踵を返す。

 振り返ったところで、左手を掴まれた。


「中学も、同じだから、きっと中学卒業までには答えを言えると思う」

「…………」


 円花は勝負に優勝した一人ということで進学はそのまま十二干支中学校に通うことに決定されている。竜亥もほぼ同じ理由での進学だとは思う。

 だけど、同じ学校に通うことが分かって内心ではかなり浮かれていた。


「だから、その、待っていてくれると、助かる……」


 弱気な竜亥は初めて見る。普段大人びた雰囲気の竜亥が余裕のない様子を見せているだけでも興味深いというのに、期待できる返答に胸が高鳴らずにはいられない。

 これ以上の追求はやめて、円花は今得た嬉しさを伝えるべく、友達のいる場所へと駆け足を速めるのだった。


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