2 卒業式の代表決定戦
「それを突き止めたくて、俺は参加した」
勝利した先に待つものが知りたいのだ、と竜亥は言う。
目的が六年生の代表ではなく、その先。
全員の代表になるべく参加していた仮令とは、考え方がまるで違う。見通す先が違う。
そんなの全然、小学生らしくない。
そんなこと誰も考えないし、もしかしたらその先なんてないかもしれない。
普通なら、竜亥は変なことばかり考えていると意識の外に追いやっていたかもしれない。
いくら好きな人であっても、幻滅して冷めていたかもしれない。
なのに、円花の乙女心は強く刺激されていた。
目的があって参加している姿勢に、胸の高鳴りが止まらない。
何より少年っぽさが多分に含まれたその横顔に。
「……時間だ」
体育館の入り口に目をやった竜亥の後を追って、円花も目を動かす。
扉を開けて兎丸先生が入ってくる。その後ろには戌井浩文先生もやって来た。戌井先生は仮令のクラス担任である。
少し離れて仮令の姿もある。やはり観戦に来たようだ。
「準備は万全……ということか」
兎丸先生は竜亥に向けて分かりやすい溜息を見せる。呆れているのか、称賛しているのかは分かりにくい。
「はい。いつでも始められます」
「えっ⁉」
いつ準備が整っていたのかと疑いの目を竜亥に向けた円花は、自信ありげな視線を円花に返す。
何かを企んでいることだけは分かる。
勝負に勝つつもりであることだけははっきりとしているが、それだけだ。
「勝負の内容は話し合い。舞台上で行います。お互いに思っていることを話していき、勝敗を決めます」
そんな勝手に、と喉から声が出そうになったが、これまでも似たような勝手さを円花もしてきているので今更文句を言えない。
「そうか。では、好きなタイミングで始めなさい」
兎丸先生は深く頷いて、後ろに立つ戌井先生と立ち位置を交換した。審判は戌井先生が務めるのだろう。兎丸先生はさらに下がっていき、二階に上がっていった。舞台から二階は見えないが、仮令もすでにそこで観戦していることだろう。
「さて」
竜亥がパイプ椅子に座り直した。空気ががらりと変わる。
雰囲気の掌握に長けているのか、すべての指導権を握られている感覚に襲われている。
「勝負を始める前に、最初から気になっていたんだが……」
「なに?」
「その頭……前までしていなかったよな?」
微妙な顔で頭上を指差される。円花の頭頂部に鎮座するリボンが気になっているようだ。それもそうだろう。今日の昼休みまではなかったのだから。
しかし、竜亥と対峙するのに――告白するのに着飾らないわけにはいかなかった。と言えるはずもなく、円花は頭の赤いリボンに手を添えて嘘ではないが別の理由を口にした。
「せっかくの決勝だし、仮令ちゃんに借りた。気合いを入れられるように……」
「……そういうものか」
男の子だからなのか、着飾る理由が理解できない竜亥はそれ以上の追求を止めた。せめて感想くらいほしかったのだが、無理は言えまい。
似合っていないと言われなかっただけいいか、と納得させて、手を下ろした。
こうして静かに勝負は始まった。
話し合いが勝負の内容になったとなれば、先攻後攻を決めた方がいいはず。細かいルールもきっと考えているのだろうから聞いてみるかと口を開きかけた瞬間、竜亥が立ち上がる。
不意打ちすぎる動きに面食らっていると、竜亥は円花の後ろに立って肩に手を置いた。
話し合いではなかったのか。
なぜ後ろに立っているのか。
どうして肩に手を置いているのか。
その手に優しさがあるように感じるのはどうしてなのか。
理解不能だらけの行動に体が固まる。
「君が話し合うのは俺じゃない」
そう耳元で囁かれた後、体育館の二階を指差した。
二階にいるのは兎丸先生と、仮令。他にいるとすれば仮令が誘ったかもしれない明だけ――そう思っていた。
そう想像した。