3 ライバルたちの探り合い
「あなたが他の勝負を観戦するなんて、珍しいのではなくて?」
仮令は舞台に腰掛ける竜亥に声をかける。竜亥は視線を円花に向けたまま仮令を見ようとしない。
「入学した年から、適当に観戦していた」
「へえ、ま、いいですけれど」
目の前ではもうすぐ終わりそうな謎の勝負が続けられている。
円花がほまれににじり寄りながら「カバディ」と連呼する様は異様と言ってもよかった。
「お前の方こそ」
竜亥は仮令に話しかけられたからか、頬が緩んでしまう。
愉快な勝負であることは間違いではない。
「負けを許すなんて珍しいのではないか? しかも相手はなんてことのない一般人の丑三円花だ」
「彼女に絆されてしまったと言えばいいのでしょうけれど、わたくしは心の底から彼女との――円花との勝負を楽しんでしまいました。それは円花自身の強さね」
「彼女自身の強さ、ね」
「そういうあなただって、すでに絆されているのではなくて?」
「俺が?」
心外だとようやく竜亥が仮令を見る。仮令はにやりと口角を上げた。
考えていることが読めないとばかり思っていた相手の心の内が見えたようで、気分がいい。
体育館ではほまれが負けを宣言して卯佐美先生が円花の勝利を確定させていた。
複雑な顔を浮かべる円花に向ける目に、愛情が含まれる。
この男も普通の小学生だったか。
ふと円花に視線を戻すと、体がふらりと揺れている。倒れる、と重心を前に移動させようとした瞬間、隣から風が吹いた。
竜亥は円花が倒れる前に体を支えた。
一歩遅れて明も円花に寄り添う。
「あー……そう、ですのね。単純な男ですこと」
呆れて口が塞がらない状態のまま、仮令も円花に向かって歩き出した。
竜亥に支えられた円花の「ヘロヘロらぁ……」の声に、仮令も竜亥も明も笑った。
「呂律が回ってませんわよ、円花?」
「丑三さん、大丈夫?」
全身の力が抜けた円花は体重をすべて竜亥に預けた状態でピースサインを作って見せた。
カバディと言いすぎて口も疲れたし、気勢をあげていたので気も抜けてしまった。
「疲れているところ悪いが、決勝の日を決めないと帰られないぞ」
「……そうらった」
なぜ帰らずに観戦していたのかと思えば、そういう話だった。
今手を離されるとそのまま倒れてしまいそうだったので座ると伝えるが、竜亥はその場に下ろそうとせずに、舞台まで円花を抱え上げた。
「…………」
「あらまあ」
「ぼ、僕だってできるし」
呆然とする円花と呆れる仮令。対抗心を見せる明を無視して舞台の上に円花を下ろした。
ほまれは勝負に負けたショックというか、円花のカバディ攻撃にショックを受けて放心するのを、卯佐美先生が体育館の外まで誘導していた。
明が円花を優先していることに気づいていないので、ある意味でカバディ攻撃は功を奏していたと言えた。
舞台の上に座る円花は、舞台の下に立ったままの竜亥を見下ろした。
「今すぐにでも……って言いたいところだけど」
円花は、数日前の竜亥の言葉を忘れていなかった。それを受けて竜亥が頷く。
「戦うなら、万全の状態で」
疲労の強い円花の身を案じ、決勝の日は十日後。
九月二十五日木曜日の放課後に決まった。