第三章 1 準決勝
四回戦――というか準決勝。
四人にまで減った挑戦者たちは体育館に集められた。
九月十五日。月曜日。その放課後。
牛込竜亥対牛若成之
丑三円花対牛後ほまれ
男女分かれての勝負が始まろうとしていた。
「準決勝は同時に執り行い、勝った人同士で決勝の予定を合わせます。では、お互いに勝負の内容を決めて勝負を始めてください」
けだるそうにしているのは今回審判を務める羊毛巧先生。隣にはにこにこと笑顔を浮かべる卯佐美絢美先生。美しいの字が二つも入っているが、体育が得意な先生で外見はボーイッシュ。美しいよりもカッコいいが似合う先生だ。
羊毛先生が竜亥と成之の勝負を監督し、卯佐美先生が円花とほまれの勝負を見守ってくれるようだ。
さて、竜亥が見ている前で負けを宣告できなくなってしまった円花はどうしたものかと相手を観察する。
卯佐美先生同様、体育が好きそうなショートカットですでに体操服姿のほまれは恐らく、運動系の勝負を望むはずだ。キャッチボールで得た筋肉痛が癒えたとは言え、まだ本格的に体を動かすのは避けたい。
どちらが先に仕掛けるか。
首を回したり手首を回したりと準備運動をしているほまれを前に、円花はただ観察を続ける。
牛後ほまれは小学三年生の時に同じクラスになった。彼女の得意としていたのは算数や理科、そして体育。確か空手か何かを習っていたはずだ。
危ないことをさせるのは先生によって止められてはいるが、彼女が得意とするのは武術。怪我をさせずに勝つ方法だって知っているはず。
ならば仮令戦の時のように自分には不利であることを提示して、円花の得意分野を仕掛けるという戦法を使うのがいいか。
いやしかし、円花は自分が何を得意としているのか分からない。
習い事をしているわけでもないし、得意教科があるわけでもない。
ただ、友達と話したり遊んだりすることが好きなだけの一般的な小学生なのだ。
自慢にならない頭を動かして策を講じていると、「先生」と今にも消えそうな声が体育館の静寂を破った。
直後にどさりと倒れる音。
反射的に目を音の方向へ向けると、成之が倒れ伏していた。
離れた位置には成之の勝負相手である竜亥が冷静な目を成之に向けたまま立っている。
「終わりました」
淡々とした声に、円花もほまれも本能的に数歩下がった。
何が起きたのかがまったく分からなかった。
見ていなかったからではない。
音が一切しないまま、成之が体育館の床に倒れた。何が起きたのか、と知るに足る証拠がない。
一体、竜亥は何をしたのか。
読めないからこそ、怖い。
「あいつ、ナニモンだ……?」
ほまれが呟く。答えられる人は誰もいなかった。
「……牛込竜亥くんの、勝ち」
困惑はしているがこれが自分の仕事だとばかりに羊毛先生は竜亥の勝利を認めた。
意識を失ってはいないが自力で立ち上がれなくなった成之は保健室まで担架で運ばれていく。
怪我をしたとかではなく、気力を奪われているようだ。