表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

弐.目指すカタチ

 半刻ほどすると、言われた通り、柚月が茶を用意して現れた。

 今度は、自身の分も。

 同席しろ、ということなのだと理解している。


 柚月が座ると、雪原は満足そうな笑顔を見せた。


「今日は、祝いの酒を用意しなくてはね」


 何のことだか分からないが、雪原はうれしそうだ。

 柚月が不思議そうな顔をすると、雪原は、栗原に話したのと同様、これからは教育に力を入れ、国を変えていこうと考えている、と話した。


「いいですね」


 柚月の目が、感動でキラキラ輝く。

 やはり雪原は、自分には考えつきもしないことを考えている。

 そう思うと同時に、改めて尊敬の念を抱いた。

 が、


「それで、栗原殿に先生になっていただくことを、お引き受けいただいたのですよ」


 雪原が加えた言葉に、柚月の表情が一変。


「せんせえ?」

 

 怪訝そうな目で栗原を見た。


「何教えられるの?」

「お前よりは学はあるわ」


 栗原はにやりと言ってのける。

 柚月はムキになってむっとしたが、雪原が割って入った。


「まあまあ。宰相までされた方です。色々ご存じですよ」


 雪原はうれしそうに微笑んでいる。

 さきほどの嬉しさとは違う。栗原と柚月のやり取りがうれしいのだ。

 だが、柚月はその違いに気づきようもない。

 雪原に微笑んでそう言われると、それもそうかという気になった。


「それから、栗原殿」


 雪原は急に真剣な調子になり、栗原に向き直った。


「道中、どうでしたか?」

 

 栗原が都へ来る道は、先の戦で開世隊と萩の連合軍が進軍した道でもある。その現状が知りたい。それも、実際に見てきた情報を。

 栗原も真剣な面持ちになった。


「ひどいものですな」


 思い起こしているのだろう。表情が暗い。


「だが、あれは萩の進軍のせいではないでしょう。どこも農村は荒れております」


 ここ数年、各国で天候不良が続いている。だが、どの国も農村への救済を行わない。国を問わず、権力者の関心は、自身の利益のみである。


「ただ、(あし)のみ。蘆の、特に都に近い農村の、あの田畑の荒れ方は、おそらく、先の戦のものでしょう。手を打たなければ、作物を作ること自体できなくなるやもしれません」


 開世隊と萩の連合軍が陣を置き、随分と踏み荒らしたようだと言う。


「そうですか」


 そう漏らすと、雪原は腕を組みをした。


「実は、政府としては、民の救済政策をとる国主を、政府内で重用する制度を作ろうと考えているのです」


 どう思われますか? と問いたげな目で栗原を見る。

 栗原は頷いた。


「評価制度を変えよう、とお考えなのですな」

「ええ」

「どういう事?」


 柚月一人、理解できない。


「教育と似たようなものだ」

 

 栗原が説明する。


「これまで、地位を決めてきたのは主に家柄。それがない者は、上への媚びで成り上がるしかなかった。バカげた話だがな。だが、それがまかり通るだけに、皆、一様にそうした。それが通じない社会にしよう、とお考えなのだ」

「えっと、…つまり?」


 柚月はまだ、いまいちわからない。


「つまり、私利私欲に走る者を評価せず、貧困層の救済政策を行った者を評価するということだ。例えば、そうじゃな。」


 栗原は言葉を探して宙を見る。


「自身の出世のために接待や賄賂に金をかける者は出世させず、荒れた農地の改善もそうじゃが、食うに困っている者のために食べ物の配給をしたり、家さえない者のために保護施設をつくったり、職のない者のために雇用を増やす政策をしたり。そういうことした者を出世させる。そうすることで、国主たちは、接待や賄賂では出世できないと悟り、逆に、民の救済政策に力をいれるようになる。結果、自然と弱い立場の者たちが住みよい国になる、ということだ」


 教育と同じ。

 人の心を変える、ということ。

 それも、出世や保身に懸命な国主たちの心理を、うまく使って。


「なるほどぉ」

 柚月はやっと理解すると同時に、

「すげえ」

 と、目を輝かせた。


 考えつきもしなかった。

 想像すらできなかった。

 新しい考え方。

 新しい社会の姿。

 柚月は、未来が輝いて見えた。


「まだ、どういった形がよいか、考えあぐねているのですが」


 雪原は渋い顔をする。


「ただ、戦の復興もある。導入するには、今が好機だと考えています」


 栗原は真直ぐな目で雪原を見つめ、賛同した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ