表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

ep7:ナターシャ領主代行、友人二人から赤レンガ通りの開発案を貰う

 帰ってきた天使ちゃん達を交えて、リビングで昼食を取っていた時のこと。

 クレフォリア・エリオリーナの両名から『邸宅前の大通り――名付けて『赤レンガ通り』の開発について、いくつか提案をしたい』との申し出があった。

 もちろん喜んで話を聞いた。


 ……え? 政治干渉?

 何言ってんのさ、食事の席での会話だよ。

 そう、食事の席でたまたま話題になっただけ。

 ただの歓談だから問題はない。いいね?


 で、二人の話を簡単にまとめると。

 どうやら『可愛い服・アクセサリーを買えるお店、スイーツカフェ、魔法用品店、身分に囚われない子供向けの学び舎が欲しい』とのことだ。


 特に、学び舎について強い思い入れがあるようで。

 クレフォリアはエンシア王国民の職業選択肢の少なさ、魔法適正所持率の低さを嘆き。

 エリオリーナも国内の学習状況を教えてくれた。


 マグナギアは前元帥の影響か、魔道士学園の勉強の質・学内の治安がお世辞にも良くないようだ。

 なので家督を継がせたい魔道士家は、家庭教育で子供を育てるのが常識なのだという。

 このままでは国内の魔導技術は衰退するばかりだし、なによりまた国家が分裂しかねない。


 でも、もし。

 ここにモデルケースになるような学び舎があれば。

 お父さんが改善案を示せて、国民感情の分断も治せるかもと思っているらしい。


「なるほどー」


 私も学び舎――学校に関しては、段階を踏んで大きくしていきたいと思っていた。

 とてもにこやかに同意を示す。


「実は私もそう思ってたんだよね。二人と気が合うなんて奇遇だなぁ」

「そうだったのですねっ! ナターシャ様と価値観を共有できて嬉しいですっ!」

「うん、私も」


 とっても同調し合う三人の少女。

 そこに斬鬼丸が首を挟む。


「ナターシャ殿? もしや、昨日の夜に談合――」

「あははそんなまさか。クレフォリアちゃんとエリーナちゃんとは()()()()同じ部屋で寝泊まりしてるだけで、領地の行く末なんて話し合った事なんて無いよ?」

「そうですよ? 私たちは関与出来ないのですから。……行く末の話なんてしてませんよね? ()()の熾天使アーミラル様?」

「ふむ……?」


 斬鬼丸の視線が天使ちゃんに向けられた。

 天使ちゃんはリズールから提供されたアイスクリームを食べながら、こう答える。


「熾天使という地位に誓って、彼女たちの潔白を証明します」

「何と。既に買収――」


 彼が困惑している隙を狙って、ナターシャは一つの提案を持ちかけた。


「そう言えばさ斬鬼丸、新規領地に空中都市を建てるに当たって、どうしても湿地帯の主を倒さないといけないんだよね。私は色々と忙しいから代わりにやってくれる?」

「――そういう事ならばお任せあれ。拙者が片付けるであります」

「助かるなぁ」


 強い魔物と戦えると聞いて思考を切り替える斬鬼丸。

 一切合切の疑問を捨て去ったようだ。えらい。

 いやぁしかし、それぞれの方向性が一致するなんて。

 素晴らしい雑談タイムだなぁ。


「あ、そうだ。クレフォリアちゃん、ファッション屋さんに関しては適任者を知ってるよ」

「本当ですか?」

「うん」


 久々にあの猫商人を呼ぶ日が来たようだ。

 インベントリからプラチナリングを取り出して、指に装着。

 カスッ、と指を鳴らしながら名前を呼ぶ。


「ニャトさんカモン!」

「はいはいナターシャ男爵令嬢さん、ニャトをお呼びですかニャー?」


 すると指輪が光り、ナターシャの背後にボフン、と煙が出て。

 リビングに猫妖精(ケットシー)の商人、白毛のニャトさんが召喚された。

 事情を知らないクレフォリア・エリオリーナの二名は驚いて目を丸くする。


「……にゃ、ニ゛ャッ!?」


 ニャトも二人を見て、目が点になった。

 正確には瞳孔がめっちゃ開いて、耳が後ろを向いた。

 しかしニャトはこう見えてプロの商売人。

 すぐさま正気を取り戻すと、


「ちょ、ちょっとナターシャさん」

「はい?」

「コッチに来て欲しいニャ」

「はい」


 ご贔屓ひいき先で、とても扱いやすいナターシャを部屋の隅に呼んだ。


「どうしたの?」

「ちょっと小声で話し合おうニャ」

「……う、うん」


 声を小さくすると、ニャトさんはようやく話し始める。


「ナターシャさん、あの二人とはどういうご関係ニャ?」

「友人だよ?」

「ニャっ……え、ええと、エンシアの第二皇女と、ガーネット公爵令嬢と?」

「うん。何かマズいことでもあった?」

「マズくは無いニャいけど、本当に? 本物ニャ?」

「うんそうだよ?」

「ニャあ……」


 天を仰ぐニャトさん。

 そんな疑問に思う?


「あの、もしかしてケットシーさん……?」

「ニャハハー」


 するとエリオリーナちゃんがニャトに話しかけてきた。

 振り向いたニャトは同意するように笑顔で手を振って、今度はナターシャの肩を抱き。

 この場に呼び出された理由を聞く。


「ナターシャさん」

「なんです?」

「ニャトを呼んだ理由はなんですかニャ?」

「ユリスタシア領内に出来る邸宅の事は知ってる?」

「風のうわさで聞いたニャ」

「その邸宅前に大通りが出来て、開発することになったんだけど」

「ニャむ?」

「ファッション屋さんの店長にニャトさんが適任かなって」

「ニャニャッ!?」


 思わず叫んでしまうニャト。

 しかし営業スマイルを浮かべて後ろに何でもないと伝えた。

 再びこちらの会話に戻ってくると、本心を漏らす。


「と、とんでもないオファーが来たニャ。胸のドキドキが止まらないニャ」

「難しいかな?」

「いやいや、ニャトとしては願ってもない話ニャ。何故なら『服飾小物、宝石の質でニャトの右にでる者は居ない』と自負出来るからニャ」

「じゃあ、オファーを引き受けてくれる前提で話を進める感じでいい? 詳細はみんなで決めよう」


 ニャトさんは『構わないニャ』と返答してくれた。

 ただし事前の注釈として『どうしても一つだけ条件があるニャ』と付け加えてくる。


「なんですか?」

「知ってると思うニャけど、ハイブリシア産の交易品も販売させて欲しいニャ」

「あぁ、なるほど」


 ハイブリシアとは、マグナギア魔導国北部のテスタ地方に、オーク族・ハーフエルフ族・ハビリス族(マイナーな小人亜人種の名称)によって建国された亜人のための国だ。

 旧スタッツ国だったときにオークの里で内紛が起こり、旧宰相ローワン・王子陣営をナターシャ陣営が彼らを助けたことで絆を深めた。

 ニャトはハイブリシアの交易商人として、ナターシャ陣営から推薦された経緯を持つのだ。


「どうかニャ? ナターシャさんにとっても悪くない話だと思うニャ」

「ふーむ」


 まぁ、たしかに。

 オークが作るお米や味噌、醤油なんかを輸入出来れば、私の食生活が賑やかになる。

 それにユリスタシア領特有の名産品にもなる。

 悪くない話だ。


「じゃあ――」

『失礼します』

「ニャ?」


 ナターシャが二つ返事で飲みかけると、後ろからリズールが顔を出した。

 彼女は小声で呟く。


『お二方、皆様がお待ちですよ? 詳しいお話はそちらで』

「はニャッ!? これは大変失礼しましたニャー!」


 ニャトは慌てて振り向き、まずは非礼を侘びた。

 ここからの赤レンガ通りの開発計画――ではなく。

 お昼どきの歓談は、商人のニャトも招いて行われるようだ。

Q.政治干渉はダメなんじゃないの?

A.昼食時にたまたま話題になっただけです。

 いやぁ、お姫様と公爵令嬢との歓談はためになるなぁ(棒読み)


次話は5月29日、午後11時~0時頃です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ