ep6:ナターシャ領主代行(八歳)、領地経営会議を開く
次の日の朝。
ナターシャはエンシア首都に向かう父から、領主代行に授けられる勲章を貰った。
ユリスタシア家の紋章を今日初めて知ったのだが、白百合と、その背後に一人の騎士が立っている物らしい。
パパンとママンの象徴だそうだ。
どっちがどっちかは言わずとも分かるね?
勲章は左胸に付けた。
その後は書斎にて、ママン・リズールを交えて領地経営会議を開いた。
クレフォリアちゃんとエリオリーナちゃんは天使ちゃん・斬鬼丸コンビに身柄を預けた。
二人が会議に入れない理由は『政治干渉になるから』だ。
実にシビアである。
「じゃあさっそくだけどリズール。ユリスタシア領について教えて?」
『分かりました』
リズールによる懇切丁寧な説明が為された。
ユリスタシア領の現状を聞くに、農耕領として安定していて、お財布事情も安定的。
干魃や水害などの天災で困っている事もないようだ。
つまり改善の余地がほぼ無い。
やれることと言えば領地の特産品探しくらい。
だから話の主軸はどうしても、クレフォリアちゃんから委託される新規領地に移っていく。
「……クレフォリアちゃんが貰った領地は、ユリスタシア領の北方――森の先にある湿地帯と、そこから東に掛けての山岳・河川地帯。つまりはユリスタシア家の水瓶。オマケで南部に農耕地が増えた感じだったっけ」
『そうですね』
リズールは静かに頷いた。
『一見すると微妙な領地を押し付けられたように見えますが、ユリスタシア男爵領はそもそも王家の直轄領内にあります。宮廷議会が農業用の水利権を握り、あえて囲い込む事で、ユリスタシア家の身勝手な独立を防ぎ、他貴族との領土争いを防ぐ意図があったようです』
「ほんとそれ」
エンシアの宮廷議会達の優秀さヤバい。
私が今日までのんびり生きられたのは、エンシア王国が後ろ盾になってくれてたからとは思わなんだ。
次はママンが内情を漏らす。
「でも、今回の領土割譲で『これ以上の保護と管理は無用と判断した。独立を許可する』って言われちゃったのよ。だから冒険者ギルドを立てるのがユリスタシア男爵家の当面の目標なんだけど……」
『王国憲法に定められている【冒険者ギルド設立の義務】ですね』
「ええそうなの。でも……」
『魔物の分布調査、安全区域の制定がまだ出来ていない、と』
「そうなのよね」
あらあらまぁといった表情のママン。
ナターシャは疑問符を浮かべた。
「それ、私とリズールの索敵魔法で一発で出来ちゃうんじゃない?」
「あらそうなの?」
ママンは娘とリズールを見た。
娘が頷いて、リズールが『数分で終わります』と答えたことで安堵する。
「良かったわ、なら二人に任せちゃおうかしら?」
「任された!」
『お任せ下さい」
「うふふ、頑張ってね?」
『はい。……では話を戻しまして、新規領地の開発方針ですね』
「そうよね。クレフォリアちゃんからの経営委託という形式、つまりは王家直轄地のままにしたという事は、議会から『領地は渡す、後ろ盾も続ける。だから、何とかしてそこを人の住める場所にしなさい』と指示されたのと同じだものね……」
「そうなの?」
また、はてなが浮かぶ領主代行(八歳)。
リズールが解説を挟んだ。
どうやらフミノキースの一件で、私が魔王候補だと判明したのが契機らしい。
本当に魔王候補ならこれくらいは出来るだろう、という思惑との事。
「あはは」
期待されてるというか。
試されてるというか、ねぇ?
「ナターシャちゃんが天才なのはお母さんも知ってるけど――ナターシャちゃん、出来そう?」
「うん。余裕で出来るよ!」
「流石はナターシャちゃんね!」
「えへへー」
ママンにめっちゃ褒められた。
自己肯定感が上がりまくる。
「じゃあ、ナターシャちゃんはそこをどんな場所にするつもりなのかしら? イメージとか出来てる?」
「イメージ……」
ついでにどう発展させるか考えることになった。
湿地帯と山岳・河川地帯。
ふむ、何となくだけど言ってみるか。
私のイメージ。
「えっとね……やっぱり水場の多い場所だから、水を生かした都を創りたいよね」
「うんうん」
「近くは山岳・河川地帯だから結構な高低差があるし、目印になるような都市にしたい。それに宮廷貴族さん達が求めてるのは、魔王候補らしい領地だと思ってる。だから――」
「だから……?」
ナターシャは少し溜めた後、ぽつりと漏らした。
「――空中都市、かな。魔法の力で浮いてる」
「く、空中都市!?」
ママンがビックリして口元を抑えた。
「水の都と空中都市を、どういう風に合体させるの!?」
「え?」
次の瞬間にはグイっと距離を詰めて聞いてくる。
そんなに驚く事かなぁ?
「えーっと、湿地の中央に浮いてる空中都市から、大量の水が滝のように流れ出てるイメージ」
「やだ……ナターシャちゃんのセンス凄いわ……」
「そ、そう? えへへ」
めっちゃ照れた。
私は親に褒められるのにも弱い。
『では我が盟主、都市計画はどうなされますか?』
「都市計画かぁ」
ナターシャは再び熟考した後、こう答えた。
「やっぱり学園都市だよね」
『……と、言うと?』
「うん、貴族・農民・奴隷とか富豪・平民・貧民のさ、それぞれの文化・気品は尊重しつつも、分け隔てなく学業に専念できる学校都市にしたい」
『それはつまり、現状の学校制度に不満があるという事でしょうか?』
「まぁね。私の知ってる限りでは、異世界の学校って二通りだよね? 軍学校か、貴族学校か」
『確かにそうですね……』
リズールの知識を総動員しても、この世界に他系統の学校は見つからなかった。
職人になりたい者は弟子入りして技術を学ぶので、学業としてはまだ存在しない。
ある意味では盲点とも言える発想だった。
『しかし我が盟主。何故、現状の学校が嫌いなのですか?』
「他人に人生を縛られたくないから」
『なるほど』
唸るリズール。
ナターシャは話を続ける。
「私は軍人になんてなりたくないし、貴族社会に縛られたまま生きるのも嫌なんだ。だから自分で道を創る。その過程で、誰もが平等に学べて、それぞれの可能性を先細らせないような、万能の……とまではいかなくてもさ。国家・種族・身分の壁を超えて知識と技術を得られるような、そんな学校を、学園都市を創りたいんだ……」
『そうなのですか……』
「そう、世界はもっと平等であるべきなんだよ……」
『ふむ……』
言い切って、満足するナターシャ。
深い事を言ったような雰囲気を出している。
リズールは話をかみ砕いて、簡潔な言葉にした。
『――つまり。我が盟主は一部階級による知識の独占を打破し、社会の共有資産へと変化させたいと?』
「え? そ、そこまで高尚な考えじゃないって。ただ……あれだよ。魔法や魔術、魔導技術を気軽に学べるような、次のステップに進むための足がかりになるくらいの学校で十分だよ? 私はフリーの魔法使いになりたいだけだし」
『分かりました。ならば私の知識でも十分事足りそうですね』
「あははは……」
一体何処まで見通してるんだこの魔導書。
するとママンがようやく口を開いた。
「……ナターシャちゃんは凄いわね、とっても未来のことを考えてるわ」
「でしょー?」
「うん、お母さんビックリしちゃった。えらいえらい」
「わーい」
なでなでされる。嬉しい。
「じゃ、お昼ご飯にしましょうか。熾天使さん達がそろそろ帰ってくる頃だから」
『分かりました』
「はーい」
ぼんやりとした都市計画が練られたところで、一旦昼食と休憩に入った。
食事後にもっと詳しく決めていく予定だ。
また投稿時間ミスってるやんけ!!
次話は5月27日、午後11時~0時になります。
午前0時~1時投稿は微妙に睡眠不足になってキツかったので辞めます(´・ω・`)