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ep3:積もる話はあるけれど、まずは自宅でお茶会

 最後はエリオリーナも近づいてきて、ナターシャの袖をちょんと摘んだ。

 そうして、


「んへへ……」


 にへ、と恥ずかしそうに笑う。

 積極的じゃない所が彼女の個性かもしれない。

 私は優しく笑いかけることで、彼女への返答とした。

 ここで喋りかけたり、変に撫でようとすると逃げちゃうので、距離感を掴むのが大変である。

 するとクレフォリアが、ナターシャの頬を両手で優しく挟んで自身に向けた。


「ナターシャ様ー?」

「どうひたの?」

「実は私たち、ナターシャ様のお自宅に向かいたいんです」

「んぇ?」


 ずいぶんと唐突な提案だ。


「うんゅいいんょ」


 まぁ拒否する理由はないけど。

 ナターシャはクレフォリアの手を頬から外しつつ、まずはと質問した。


「けど、なんでここに?」

「それはですね――」


 クレフォリアはドヤッとしながら答える。


「お自宅でお話します!」

「そっかー」


 それならしょうがない。

 ナターシャはクレフォリアに甘いのだ。

 なぜなら可愛いから。


「じゃあ行こっか」

「はいっ!」


 二人はぎゅっと手をつないだ。

 ナターシャはいつものように指を絡め取られる。


「あぅ……」


 しかし、エリオリーナはすっと手を引いてしまう。

 彼女は少々暗い境遇にあったので、人と関わるのがとても苦手。

 仲のいいナターシャ・クレフォリアは、示し合わせたようにお互いを見て。


「「――エリオリーナちゃん?」」

「ふえ……?」


 エリオリーナにこう言うのだ。

 繋いだ手をするりと離して、差し伸べながら。


「みんなで一緒に行きましょう?」

「ほら、おいで。怖くないよ?」

「う、うん……!」


 エリオリーナを間に入れて、またぎゅっと手を繋ぐ。

 これが三人で遊ぶ時の決まりごとだ。


「ではナターシャ様! エリーナちゃん! 行きましょう!」

「そうだねー」

「うんっ」


 少女たちは仲良くユリスタシア家に向かい始めたが――


「「「あっ」」」


 ――ふと思い出したように。 

 手をつないだまま振り向いて。


「それでは案内役さま、私たちはこれで失礼致します。お手数をお掛けしました」

「あぅ、ありがとうございました……」

「ええと、二人がお世話になりました。男爵家令嬢として感謝します。最後の仕上げ、頑張って下さい」


 静かに見守っていた現場監督さんに深く頭を下げた。


「あ、ああ、どうも」


 彼は戸惑った声音で軽い会釈をした。

 それを見て満足したのか。

 少女たちはお別れの印として、繋いだままの手を挙げて振った後。

 楽しそうにユリスタシア家に向かう。


『ねぇねぇ二人とも。どう? ウチの景色』

『き、綺麗だよっ?』

『とっても素敵ですわっ!』


 広大な黄金色の畑に挟まれた赤レンガ通りを。

 まずは綺麗になった農村――ユリスタシア村を目指して。

 白いドレスを着た金髪のお姫様、赤いゴシックワンピースで赤髪の小公女、銀髪の黒い魔女っ娘。

 三者三様の少女が歩いていく。


 その後ろ姿があまりにも神々しかったのか。


「え、尊――」


 現場監督の男性は、この光景を一言で表す天啓を得ると同時に。

 謎の光属性攻撃を全身に浴びて消滅(比喩)した。



 そして何事もなく自宅に着き、玄関前まで到着した。


「今日は珍しくフォリアちゃん達に会わなかった……」

「そうなのですか?」

「?」


 首を傾げる金と赤の少女。

 いや、ユリスタシア村をちゃんと通って帰ったのだが。

 フォリア監督や深雪さんを含む、村の演劇・演奏チームに出会わなかった。

 小麦の収穫時期が近いからかな?


「普段はどれくらいの頻度で出会うのですか?」

「んー……外に出たら150%くらいの確率で会う、かな」

「かなり高い確率なんですねぇ」

「どういうこと……?」


 察するクレフォリア、戸惑うエリオリーナ。

 ナターシャは簡単に説明した。


「えっと、フォリアちゃんと深雪さんっていう、村の女の子たちに出会う確率が150%なの」

「そうなんだ……」


 エリオリーナは目を丸くした。

 領主の娘が日常的に領民の子供と遊ぶなんて、公爵家の彼女からすれば考えられない生活だったからだ。

 気になったのか、詳しく聞いてくる。


「会って、何をするの? どういう確率?」

「んっとね、一度出会って即興演劇させられる確率が100%なのと、別れたあとにまた出会って、台本有りで再演させられる確率が50%の意味」

「……待ち伏せられてるの?」

「――ッ!?」


 強い衝撃を受けた。

 そう言われればそうかも。

 あれ、つまり、普段がおかしいのかな?

 当たり前すぎて疑問に思ってなかった……

 ナターシャはエリオリーナに指摘されてようやく気付いた。

 わなわなと震えだす。


「私は彼女たちに狙われていた……?」

「それよりナターシャ様、お家に入りませんか? ドアをノックしましょう?」

「あ、ああ、うん、そうだね」


 クレフォリアちゃんに流されるがまま、ナターシャは玄関のドアをノック。


「はーい! お帰りなさーい!」


 すると、待ってましたとばかりにドアが開いて。

 母のガーベリアが元気よく歓迎してくれた。

 三人まとめて抱え込むと、精一杯ぎゅっとする。


「お帰りなさいナターシャちゃん」

「あはは、ただいまー」


 あまりの温かさに、ナターシャは全ての思考を捨てた。

 母は偉大だ。


「我が家にいらっしゃい。クレフォリアちゃん、エリオリーナちゃん」

「はいっ! こんにちはガーベリア様っ!」

「こ、こんにちは……!?」


 ママンは二人の来訪を当然のように受け入れていた。

 そこでふと気付く。


「あ、お母さんがそわそわしてた理由って」

「ええそうよ。だから玄関で待ってたの。……無事に来れたみたいで、本当に良かったわ」


 母は二人の頭を撫でて、ようやく安心したようだ。

 三人から離れると『さ、みんな中に入って? リビングで楽しいお茶会をしましょう?』と自宅に招き入れる。


「うぅ……」

「あら、エリオリーナちゃん……」


 だが、エリオリーナは戸惑っているのか、二の足を踏んでしまった。

 しかしそこは三児の母、ガーベリア。

 相手を優しく撫でて心を解し、安心したところを抱きかかえて連れ込むことで解決した。


 そしてリビングで。

 ママンが用意してくれたお茶を飲み。

 甘く、ほろほろとした食感のクッキーを食べて。

 雑談しながら時間を潰すこと、だいたい数時間。


「――でさ、ここでヒール役の深雪ちゃんは決めゼリフを言うんだ。『ナターシャちゃん、私になら本気でやっても良いよ?』って。いや力を開放したら危ないって何回も言ってるのにさ」

「あはははっ」


 緊張していたエリオリーナも打ち解けたられたようで。

 普段はあまり聞かせてくれない、楽しそうな笑い声を出してくれた。


「あはは――えっほえほッ! ゲホッ、あっははは――」

「エリオリーナちゃん大丈夫!?」


 ファリア監督たちとの演劇裏話がむせるほど受けたのは予想外だけど。

 もうお母さんがてんてこ舞いじゃん。


「えええ、エリーナちゃん! これで喉を冷やしてください!」


 クレフォリアちゃんとか、慌てすぎてエリオリーナちゃんの頭にスラミー乗せてるし。

 いや待ってスラミー、私を見ないで。

 無言で困惑を訴えかけないで。

 私もどう言えば良いのか分からんのよ。


『ただいまー! 天使ちゃんたちが今日のお夕飯を狩ってきたよー!』

『ただいまであります』

「げっ」


 そこでタイミングよく帰ってくるのが、例のピンク髪の熾天使と西洋甲冑を着た精霊。

 この後、だいたい面倒ごとが起こる。


「あっはははは――」

『ふむ? 何やらリビングが騒がしいでありますな』

『じゃあ天使ちゃんが索敵してきまーす。ざんきっち! 天使ちゃんの索敵ロール!』

『了解であります(コロコロ)……ふむ、出目は百番。致命的失敗、所謂(いわゆる)ファンブルでありますな』

『何とー!? では天使ちゃんに超悪いことが起きます!』

『ほう。如何様(いかよう)な事が?』

『まぁ見てて! ではではさっそく確認をー……』


 そう言ってリビングに顔を見せた天使ちゃんは、赤髪の少女エリオリーナを真っ先に視認して叫んだ。


「あ! 新ヒロインだ!!!!!! なっちゃんてめぇ浮気かこの野郎!!!!!!!!」

「全然ちがうわ! てめぇこらいい加減にしろこのダメ天使! ――ハッ!?」


 ナターシャもいつもの癖で反応してしまった。

 しまった、と思ったがもう遅い。

 天使ちゃんはちゃんとしたファンブルを起こすべく、とにかく場をかき乱す。


「浮気かって聞いてるのよ! もっと最初の妻を! この天使ちゃんを大事にしなさい!」

「ちょ、待って! 静かにしてて! これ遊びじゃないんだよ!?」

「天使ちゃんが浮気かって聞いてるんでしょ!?」

「いやほんとちょっと待って! 今忙しいから静――」

「だから天使ちゃんが最初のヒロインだって言ってんだろ~~~~!?」

「――え、ちょ、うわ!? もがッ……!」


 駆け寄ってきた天使ちゃんに抱きしめられて胸に埋められるナターシャ。

 エリオリーナちゃんはもう何聞いても面白いゾーンに入っているようで、二人を指差しながら大爆笑し始めた。

 ガーベリアとクレフォリアは、大笑いするエリオリーナを落ち着かせるべく奮闘する。

 エリオリーナの頭上には何が起こっているか分からない様子のスラミー。


「おお……流石の手腕であります……」


 最後に入ってきた斬鬼丸は、リビングでの大惨事を見ながら。


「ふむ。では、ナターシャ殿が浮気している場面を目撃した熾天使殿。怒って乱入したことで、場の収集が付けられなくなり、ここから夕方まで時間をロスする、ということでありますな」


 冷静に文章化して、日記帳に書き込んだ。

 斬鬼丸は天使ちゃんとリアルトークRPGをして遊んでいるのだ。

 なまじ魔物が居たり、魔法が使えたりする異世界なだけに、何やってても成立するらしい。

 暇だからって変な遊びを思いつきやがって天使ちゃんめ……


「天使ちゃ、離し」

「二人の初めての出会いを思い出してなっちゃん! あれは数年前の夏休み、花火大会の日で――――」

「~~~~――……!」


 ナターシャはそんな思い出なんてない、と叫びたかったが。

 天使ちゃんがガチモードで時間をロスさせに来たので、本当に夕方まで何もすることが出来なかった。

天使ちゃんさぁ……

次話は5月23日、午前0時~1時です。

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[良い点] 3人の少女も可愛い!神々しく尊いです〜 そして反応も面白かったw 続きも期待します!
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