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ep29:年末のナターシャたち

 秋・冬を越えて、誕生日を終えた十一歳になりたての年末。

 亜人国家ハイブリシアの建国記念祭に招かれた私とリズールは、久しぶりに転移の指輪を使用し、テスタ村地方にある秘密工房へと転移した。

 このままハビリス村に再転移しても良いが、久しぶりに来たのだからと地上に上がると、黒髪の軍服少女――クーゲルがリビングのソファーに暇そうに寝転んでいて、私とリズール見るなり慌てて体を起こした。


「お、おう、久しぶり……だな」

「うん二年ぶりー。元気?」


 柔らかく手を振り返す。

 その反応にクーゲルは絶句し、ぽつぽつと漏らした。


「なんで会いに来なかったか……とか、気にならないのか?」

「色々あったんでしょ? 辛いことがあったなら聞くよ」

「あぁ、そうか。そりゃそうだよな」


 何かを振り払うように顔に手を当て、ふるふると振るクーゲル。

 私は彼女に近づき、心配そうに顔色を伺った。


「ねぇクーゲル、何かあった?」

「なっ……やめろって」


 クーゲルは困ったように仰け反り、顔を背けると、すくっと立ち上がってリズールに何かを渡した。


「再起動は終わった。もう良いよな?」

『お疲れさまでしたクーゲル。後は貴方の物語を歩んで下さい。“名誉退役(ホーナー・リタイア)”』

「はぁー……“無制限化(リミット・ブレイク)”」


 どうやらリズールから仕事を依頼されていたようだ。

 クーゲルは何かのタガを外したようで、肩の荷を下ろすように撫肩になった。

 私は二人の元に行って、リズールの手の中にある物を見る。

 それは巻き貝型の小さな機械だった。


「なにそれ?」

『私専用の魔力波を利用した発声装置です。クーゲルに受け取りに行って貰いました』

「どこに?」

『私の生誕に関わるので秘密です……よっと』


 リズールは喉に機械を当て、ズズズと取り込むと、軽いマイクテストを開始した。


「Start Up,Code 0110 100 110 01 1011 1000...Driver loading....Complete. ExZitSistem,check........OK. SISTEM ONLINE. Welcome! Unit-Zwei,I6-Ace,Quantum-Allis.」


 なんか凄い早口で喋ってる。

 でも日本語じゃないから何言ってるかわからん。

 リズールは調整を終えたようで、元気よく話しだした。


「よし、これで調整が終わりました! 我が魔王(マイロード)、私の生声はいかがですか?」

「おー透き通った声だー! リズール完全体って感じがする!」

「お褒めに預かり光栄です」


 丁寧にお辞儀をするリズール。

 今までとは段違いに声がなめらかだと、何となく感じた。


「よし、早速ハビリス村に行こうか」

「分かりました」

「クーゲルはどうする?」

「私は……」


 尋ねられた彼女は、今日だけは流されようかと口を開きかけた。

 しかし、ギュッと閉じて、感情を悟らせないよう玄関まで移動し、背中で語った。


「――いや、これから追いかけたい夢があるんだ。だから、まずはそれを目指したい」

「そっか、分かった。行ってらしゃい」

「付き合い悪くてごめんな。じゃ、またどこかで」


 クーゲルはドアを開け、光差し込む外の世界に去っていく。

 彼女の体や体捌きからは何となく、昔のような硬さが無くなっていた。


「ちょっとさみしいなぁ」

「別れと出会いは表裏一体。また会えますよ我が魔王(マイロード)

「だと良いね」


 ナターシャとリズールは地下に降り、ハビリス村に転移した。



 建国記念祭はそれはそれは楽しい物で、人間と亜人が仲良く酒を飲む姿は、時代の変わり目を教えてくれる。

 生憎と子供なのと、辛い物がてんでダメなので、オークやハビリス族が鳴らす祭り囃子の音頭を聞きながら、綿あめやりんご飴などの甘いものをいくつか食べるだけに留まったが。


 説明が難しいけども、この建国記念祭には、神社の縁日のような催し物や出店が多数並んでいる。

 しかもハビリス村の砦には巨大な赤い鳥居が造られていて、村の中央には、人や亜人の神々を祭り上げた神社が出来上がっていた。

 これは神社の巫女――ハーフエルフさんから聞いたのだが、人間族・亜人族にはそれぞれの理想像があり、感性が違うのは当たり前なのだから、それを全て神格化して皆で祀ることで、考えは違えど同じ国民だという一体感を生み出しているそうだ。いわゆる八百万の神ってヤツ。


 まぁ、この和風文化は私からすれば懐かしいの一言なので、もっとやって欲しい。

 ただこれだけは聞いた。


「でもさ、鳥居や神社の設計とかは誰に聞いたの?」

「東方から旅人がもたらした土産話で、鍛冶師エミヤのインスピレーションが爆発しました」

「なるほど」


 やっぱドワーフの血ってチートだ。

 神話で魔剣や聖剣や呪具を量産する種族は格が違う。


「おお、魔王様。お久しぶりですな。ローワンです」

「お久しぶりです。元気そうで何より」


 最後に、私を招待した神主姿の老人オーク――宰相ローワンがやって来て、神社の社務所に案内され、軽い接待を受けた。

 会話の内容で重要な事柄は特に無く、しいて言うなら『これからも我が国の良き友であって下され』と言われた。

 私としても、庇護下に入った亜人で、特に常識知らずな者の教育を率先して引き受けて貰っているので、『今後とも末永くよろしく頼みます』と答えた。


 その後は、家族や友人用の土産物を見繕って貰い、日が変わる前に自宅に帰った。

 次の日からは家族と年明けまで過ごしたが、クレフォリアやエリオリーナからはずっと『私も行きたかった!』とゴネられ続けた。


 実際はあちらの治安状況を私たちに見せるための招待で、祭りだからと遊びに行った訳ではないのだけど……

 結局はお詫びとして、ニャトさんとハーフエルフが運営する『ケットシーの甘味処』で一週間ほど大福やお団子をご馳走することになったが、ま、これで機嫌を直してくれるなら良いか。


 私は二人とみたらし団子を食べながら、今年の四月から開校する予定の学校――『王立迷宮学院』に思いを馳せた。


 今年も平和なまま冬が終わり、新しい春が来る。

 来年はどんな子が入学してくるか楽しみだ。

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