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ep2:ナターシャの外配信と、数カ月ぶりの再会。

 ナターシャは街道をてこてこ歩いていた。


「ユリスタシア領は今日も平和だねぇ」


 独り言も言いながら。だって配信中だし。

 すると畑を見に来たのだろう、領民の人に挨拶されたりする。

 私も挨拶を返して『いつも頑張ってますね』とまずは一言。

 すると喜んでくれるので、相手の名前を聞いて、軽い世間話に花を咲かせる。


「――いやぁまさか、ナターシャご令嬢がエンシア王国のクレフォリア姫様だけじゃなく、スタッツ……いやマグナギアだ。そこのお姫様とも仲良くなるなんて思いもしやせんでしたよ」

「あははは」


 それは私も思ってる。

 大変なこと、いっぱいあった。

 でも全部切り抜けられた。

 努力したお陰だろう。

 あぁそうだ。これも聞いておこうか。


「あ、エドさん」

「へぇ、なんでしょう?」

「形式上はクレフォリア姫が領地を(たまわ)る形になってますけど、実際はユリスタシアの領地が増えることについて、どう思ってますか?」

「ハハ、そりゃあ嬉しいの一言でさぁ!」


 満面の笑みでそう語る領民エドさん。

 なるほどなるほど?


「どうしてですか?」

「そりゃあ、ここのリターリス男爵様は(さと)くて強くて、俺たち農民のことを一番に考えてくれてる領主様だからさ! そんな領主様の領地がさらに増えて、更には大金持ちの王家のお姫様や魔法国の公爵令嬢と一緒に住む邸宅を建てるってんだから、『ああ、この領地に居りゃ一生食い扶持に困るこたぁねぇな』って、うちの家内やじいちゃんばあちゃん、更には隣村の連中まで全員で大騒ぎだよ。俺たちは幸せ者だってな!」

「あはは、神様のおかげですねー」

「ああ、令嬢さんの言う通りだ。間違いねぇ」

「ですねー」


 あははと笑い合って雑談を終え、エドさんに別れを告げる。

 

「では、これで」

「行ってらっしゃい! ……うーん、そろそろか? 色は良いが、でもまだ粒が柔らか――」


 そしてまた、一人で街道を歩く。

 ちょっとだけさみしい。

 なのでちょっと愚痴を漏らす。


「ユリスタシア村って距離で見たら近いんだけど、私からすると微妙に遠いんだよねー」


 自宅からユリスタシア村は本当に近いが、八歳の女児からすれば思っているより距離があるのだ。

 大きくなったらもっと近く感じるだろうか。

 それとも慣れなのかな。


「ま、分岐路に着いたしいいや」


 気持ちを入れ替えて、ナターシャは一時停止。

 次に進むべき道を選ぶ。

 知っている人は知っているだろうが、ユリスタシア村は街道から外れた位置にある。

 具体的に言うと、ここで右に曲がり、固く踏みしめられた土の道を進めば到着だ。

 街道を進んだ場合はエンシア王国の首都に着く。


「そういえば、領民さんが『ウチの村? ここ真っすぐ行って横に行けば着くよ!』って商人さんに言ってるのはたまに見る光景なんだよね」


 そういう新米の旅商人さんは、酒の席で『商人なのに領主様の名前が付いた村への道を知らないってのはどうなんだい』とか、色々とイジられるらしい。

 これは一種の洗礼のような物で、上手い返しが出来る人ほど大成出来るって噂だ。


「だけど」


 最近は土の道ではなくなっていて。


「改装されて道が豪華になっちゃったんだよね……商人さん、困るんじゃないかな?」


 ナターシャは右を向いた。

 ユリスタシア村に繋がっていた土の道は、新品の赤レンガで作られた、四車線分くらいある大通りに変化していた。


 道の全長は数百メートルほどで、間にはウチの村が挟まっているが。

 最奥には先程、領民エドさんとの会話でチョロっと出た『邸宅』が建設されている。

 着工開始日は二月の上旬で、一月下旬の時点で何もかもが決まっていたらしい。


 理由だけど、表向きは『ガーネット家を御家断絶から救ったクレフォリア姫を、ユリスタシア男爵家が援助していたから』で。

 本当は『奴隷にされかけていた可愛い孫娘を助けて、私達の元までちゃんと送り届けてくれたから』だ。


 ようはエンシア国王様からの直々のお礼だ。

 間接的なのは、素のままで発表すると王家と騎士団の威信に関わるから。

 政治色の強い理由である。


 工事の進捗状況だが、最近になってパパンから『完成間近だよ』と言われた。

 完成が近い邸宅の外周は、白い壁で囲われていて、黄金色の鉄柵――正面門以外からは安易に覗けないようになっている。

 王家や貴族の別荘は、プライバシーな空間にしつつも。

 自身の威厳や権威を保つため、ちゃんと中を覗けるように設計することが重要なのだ。

 人は第一印象で相手を判断するからね。

 ……あれ? そう言えば。


「あ、みんなには中の庭園、まだ見せたこと無かったっけ?」


 ふと思い返してみれば、配信上では遠巻きに見せていただけ。

 中で配信した記憶がない。


「へいにゃんこ、コメント欄」


 白猫マイクが現れる。

 目を白く光らせて、空中にコメント欄を投影する。

 コメント欄を確認すると[見てない][見てないね]とのこと。


「へいにゃんこ、閉じて」


 コメント欄ごと白猫マイクが消える。


「ふーむ」


 行く宛もないし、軽く見学しに行こうかな。

 完成間近だしタイミング的にも丁度いい。


「うん、よし。邸宅を見に行こう」


[やったぜ]

[foo!]


 撮れ高も少ないからね。

 ナターシャは邸宅内を見せることに決めた。


「あー、あー、う゛んっ……何だこの新しい道は!? せっかくだから、私はこの赤の道を選ぶぜ!」


[わざとらしいww]

[草wwww]


 迫真の演技も交えつつ、分岐路を右に曲がって、赤レンガの大通りを歩む。



 大通り――ここからは赤レンガ通りと名付けるが、周囲は収穫前の麦畑以外まだ何もない。

 リンゴの街路樹はあるが植樹したばかりなので、まだひょろっと細い。

 領民さんたちのお家――ユリスタシア村は通り過ぎたので、はるか後方にある。

 全部建て替えられて綺麗になった。

 ナターシャはというと。


「あーでも、こういう風に大通りの中央で寝転がるのって最高かも……」


[草ww]

[いいなー]


 赤レンガ通りの最終地点、邸宅から少し離れた場所で寝っ転がっていた。

 ここはまだ誰も通らない道。

 安全で新鮮な道を全力で楽しんでいるのだ。


「これは私だけの特権だ……」


[絵になる]

[すき]

[やりたい]


「あ、みんなは真似しちゃだめだよ? 危ないからね」


[うん]

[はーい]


 こういう休憩タイムで、人との交流がない時は、外配信でもコメントを見ている。

 それが相手に楽しんでもらうって事だからね。


「よし。サムネイルも出来たことだし、そろそろ進もうかな。よいしょ――」

『おーい! お嬢さん!』

「ん?」


 体を起こすと、邸宅の正面門の横にある通用門を開けて、見知らぬ人が出てくるのが見えた。

 少し汚れた平民風というか、肉体労働者的な服装を見るに現場監督さんのようだ。


『そんなとこで何やってんだい!?』

「道路になってましたー!」

『道路に!?』


 ふと思いついたことを言うと、彼は驚いた。

 あははは、面白い。


[いや草ww]

[草ww]

[事実なんよなww]


「んじゃ、お話してくる。また後でね?」


[はーい]

[りょ]


 ナターシャは大笑いしているコメント欄を閉じると、元気よく立ち上がる。

 そのまま駆け足で現場監督さんに近づいた。


「なにか御用ですか?」

「いやいや御用もなにも、なんで道路に?」

「『道』を感じたかったからです」

「え、道を感じる……?」


 思わずたじろぐ監督さん。

 まぁそうだろう。

 道路になっていた、道を感じていたなんて普段は思わないし言わない。

 配信中ゆえのリップサービスだ。

 すると、正面玄関での騒ぎを聞きつけたのか。


「案内役さまー、何かあったんですのー?」

「!?」


 軽いウェーブが入った金色の長髪に、透き通るような青い瞳の小さなお姫様と、


「何かあったの……?」

「えっ!?」


 緋色の髪と炎のような赤い瞳をした、華奢な小公女(しょうこうじょ)が。

 門の向こう側に現れて。

 ナターシャは思わず目を丸くしながら。


「く、クレフォリアちゃん!? エリオリーナちゃん!?」

「うふふっ」

「えへへ」


 数カ月ぶりに再会した友人たちの名前を叫んだ。

 相手は楽しそうにクスクスと笑うと、元気よく答える。


「「サプラーイズ!」」

「ええっ!? サプラ、わっ――」


 するとクレフォリアが通用門から出てきて、ナターシャを優しく抱きしめた。


「やっと会えましたわ~~!」

「どういうことなのさー!? でも久しぶりー!」


 いまいち状況を理解出来てないナターシャ。

 眉を少し困らせながらも、とても嬉しそうな表情で相手を抱きしめ返した。

ヒロイン登場。

とたんに華やかに。

第三話は5月22日、午前0時~1時です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の更新もお疲れ様です! 最近は読まなくてすみません。。。 華やかにヒロイン登場、本当に中々可愛いですね〜 引き続きも楽しみにしています!
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