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ep28:ナターシャたちの夏休み

 んで、こっからはそれから一年経つ間の出来事だ。

 邪神と覇王と厄災の犬っころが消滅したことで、異世界的にはわりとマジでトゥルーエンド。

 説明が多くなって読みづらいので、ざっくりと書き記す。


 邪神や覇王を恐れて人間界と縁を切っていたエルフやドワーフなど、ファンタジー亜種族からの使者や旅人が我が領地を訪れるようになったり。

 厄災の獣によって『歴史』――進化先を奪われていた一部の魔物から、獣人族が発生するようになったりと、世界が本格的にファンタジー化してきた。

 人語を解する大狼――セオ率いるウィンドウルフの大群が、獣人種(ワービースト)に進化したという報告は記憶に新しい。


 魔王である私はというと、『私が君たちを庇護する。その代わりとして我が配下に加わり、人間界の発展に貢献して欲しい』という契約を結んだ。特にドワーフとかいう技術チート種族は絶対に逃さん。


 エルフは……うん、人間界に興味がある極一部を除いて、接触することは敵わなかった。

 俗世を離れて引きこもりすぎた影響で、エルフの政治自体が排他的になってるようだ。

 まぁ、これから少しずつ外界に興味を持てるようになってほしいね。


 では、日記はこの辺で。

 本編に移ります。



 今日はカラッとした風が流れる、夏真っ盛りの蒼天の日。

 昨年まで通っていたモデルケース用の学び舎は、来年の春から始まる本格的な開校に向け、御三家の総力を上げて大規模増築中だ。

 変わり者のエルフやドワーフの職人達が加わったことで毎日が技術革新らしいが、子供にそんなことは関係ない。


「ナターシャ様、このソフトクリーム美味しいですねー」

「ねー」

「あ、ナターシャちゃん。アイス溶けてるよ」

「ほんと?」

「うん、あ、手に」

「うわわ」


 私たちは赤レンガ通りにある氷菓子店にて、アイスを食べながら夏休みを謳歌していた。

 ここはユリスタシア領民憩いの場で、今日は外が特に暑いこともあり、冷房魔法の効いた店内は満席。

 当然、待ちきれないと持ち帰りを選ぶ客も大勢居て、七歳の頃に創った冷蔵魔法が大活躍だ。

 あの魔法、作業員さんの熱中症対策にも使えるのだから汎用性が凄い。

 もう少し搾っておくべきだったかもしれない。


「んー……ナターシャ様、エリーナ様?」

「どしたの?」

「なぁに?」


 するとクレフォリアちゃんが、ソフトクリームのコーンをかじりながら質問する。


「この後何しますか?」

「んー、エリーナちゃんどうぞ」

「私? 私は……深雪さんと迷宮に潜りたいな。あの子、私よりも魔法が上手いの」

「へぇー」

「そうなんですか」


 小さく驚く私とクレフォリア。

 彼女――エリオリーナは、モデルケースだった学校生活が成功して父親から認められたことと、友人となった領民たちとの触れ合いが契機になって、強く我を出すようになってきた。

 最近では私たち二人の元を離れて、一人で領内を散歩したりしている。

 いい回復傾向だ。


「ナターシャ様はどうしますか?」

「私はあれ、魔石だけが採れるボーナスダンジョン用のオーブをそろそろ創らないとダメな感じかな」

「え? 時期的にはまだ余裕があると思いますけれど……」

「あれだよ、異世界側との交渉用に一つ」

「ああ、なるほどー」


 クレフォリアは理解を示した。

 異世界側とは、『次元門(ゲート)』で繋がっている現代日本のこと。

 二年ほど前からエンシア王家が交渉の席に付いてくれていて、相手国への賄賂――もとい友好の印として、不可侵条約を結ぶべく、私謹製のダンジョンオーブが贈呈される予定なのだ。

 次元門(ゲート)の接続場所はユリスタシア領東方の街道沿いで、密入国者が現れないよう、フリーランスの傭兵となった樹縋のツリーと氷刀のアイスが、拠点で覆って見張っている。

 万に一度の事態になったときは、魔王の私が対処することになるだろう。


「しかしナターシャ様、相手国が『魔力資源』を欲しがっているとなぜ分かったのですか?」

「だって相手って島国で、異世界でも類を見ないほど発展してるんでしょ? 資源なんていくらあっても足りないっしょ」

「資源のない国は読まれやすくて大変ですねー」


 クレフォリアは、はむっとソフトクリームを齧る。

 ホント他人事みたいに言うよねこの大国のお姫様。

 実情はアンタが抱えてる宮廷議会からの依頼やぞ。


「ま、それでどうするかはエンシア議会に任せるけどね」

「うーん、独立の兆しでしょうか? あちら側で新たなエンシア王国を作るかもしれませんねー」


 かと思ったら意外と読んでるんだよなぁ……

 この子怖い……なんで慕ってくれてるんだろう……


「まぁ、拡大を続ける分には王家に影響はありませんね。停滞期に入りかけた時に動くだけで済みそうです」

「そ、そっか。クレフォリアちゃんは政治に詳しいね」

「ナターシャ様のために頑張ってますから!」


 ふんっ、と威張る金髪ウェーブの美少女。

 私もよしよしと撫でる。


「あ、そう言えばさエリーナちゃん」

「なぁに?」


 私は思い出したように視線を切り替えて、エリーナちゃんの話題に戻す。

 三人で仲良くしていくには、こういう細かな気配りが大事なのだ。

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