ep28:ナターシャたちの夏休み
んで、こっからはそれから一年経つ間の出来事だ。
邪神と覇王と厄災の犬っころが消滅したことで、異世界的にはわりとマジでトゥルーエンド。
説明が多くなって読みづらいので、ざっくりと書き記す。
邪神や覇王を恐れて人間界と縁を切っていたエルフやドワーフなど、ファンタジー亜種族からの使者や旅人が我が領地を訪れるようになったり。
厄災の獣によって『歴史』――進化先を奪われていた一部の魔物から、獣人族が発生するようになったりと、世界が本格的にファンタジー化してきた。
人語を解する大狼――セオ率いるウィンドウルフの大群が、獣人種に進化したという報告は記憶に新しい。
魔王である私はというと、『私が君たちを庇護する。その代わりとして我が配下に加わり、人間界の発展に貢献して欲しい』という契約を結んだ。特にドワーフとかいう技術チート種族は絶対に逃さん。
エルフは……うん、人間界に興味がある極一部を除いて、接触することは敵わなかった。
俗世を離れて引きこもりすぎた影響で、エルフの政治自体が排他的になってるようだ。
まぁ、これから少しずつ外界に興味を持てるようになってほしいね。
では、日記はこの辺で。
本編に移ります。
◇
今日はカラッとした風が流れる、夏真っ盛りの蒼天の日。
昨年まで通っていたモデルケース用の学び舎は、来年の春から始まる本格的な開校に向け、御三家の総力を上げて大規模増築中だ。
変わり者のエルフやドワーフの職人達が加わったことで毎日が技術革新らしいが、子供にそんなことは関係ない。
「ナターシャ様、このソフトクリーム美味しいですねー」
「ねー」
「あ、ナターシャちゃん。アイス溶けてるよ」
「ほんと?」
「うん、あ、手に」
「うわわ」
私たちは赤レンガ通りにある氷菓子店にて、アイスを食べながら夏休みを謳歌していた。
ここはユリスタシア領民憩いの場で、今日は外が特に暑いこともあり、冷房魔法の効いた店内は満席。
当然、待ちきれないと持ち帰りを選ぶ客も大勢居て、七歳の頃に創った冷蔵魔法が大活躍だ。
あの魔法、作業員さんの熱中症対策にも使えるのだから汎用性が凄い。
もう少し搾っておくべきだったかもしれない。
「んー……ナターシャ様、エリーナ様?」
「どしたの?」
「なぁに?」
するとクレフォリアちゃんが、ソフトクリームのコーンをかじりながら質問する。
「この後何しますか?」
「んー、エリーナちゃんどうぞ」
「私? 私は……深雪さんと迷宮に潜りたいな。あの子、私よりも魔法が上手いの」
「へぇー」
「そうなんですか」
小さく驚く私とクレフォリア。
彼女――エリオリーナは、モデルケースだった学校生活が成功して父親から認められたことと、友人となった領民たちとの触れ合いが契機になって、強く我を出すようになってきた。
最近では私たち二人の元を離れて、一人で領内を散歩したりしている。
いい回復傾向だ。
「ナターシャ様はどうしますか?」
「私はあれ、魔石だけが採れるボーナスダンジョン用のオーブをそろそろ創らないとダメな感じかな」
「え? 時期的にはまだ余裕があると思いますけれど……」
「あれだよ、異世界側との交渉用に一つ」
「ああ、なるほどー」
クレフォリアは理解を示した。
異世界側とは、『次元門』で繋がっている現代日本のこと。
二年ほど前からエンシア王家が交渉の席に付いてくれていて、相手国への賄賂――もとい友好の印として、不可侵条約を結ぶべく、私謹製のダンジョンオーブが贈呈される予定なのだ。
次元門の接続場所はユリスタシア領東方の街道沿いで、密入国者が現れないよう、フリーランスの傭兵となった樹縋のツリーと氷刀のアイスが、拠点で覆って見張っている。
万に一度の事態になったときは、魔王の私が対処することになるだろう。
「しかしナターシャ様、相手国が『魔力資源』を欲しがっているとなぜ分かったのですか?」
「だって相手って島国で、異世界でも類を見ないほど発展してるんでしょ? 資源なんていくらあっても足りないっしょ」
「資源のない国は読まれやすくて大変ですねー」
クレフォリアは、はむっとソフトクリームを齧る。
ホント他人事みたいに言うよねこの大国のお姫様。
実情はアンタが抱えてる宮廷議会からの依頼やぞ。
「ま、それでどうするかはエンシア議会に任せるけどね」
「うーん、独立の兆しでしょうか? あちら側で新たなエンシア王国を作るかもしれませんねー」
かと思ったら意外と読んでるんだよなぁ……
この子怖い……なんで慕ってくれてるんだろう……
「まぁ、拡大を続ける分には王家に影響はありませんね。停滞期に入りかけた時に動くだけで済みそうです」
「そ、そっか。クレフォリアちゃんは政治に詳しいね」
「ナターシャ様のために頑張ってますから!」
ふんっ、と威張る金髪ウェーブの美少女。
私もよしよしと撫でる。
「あ、そう言えばさエリーナちゃん」
「なぁに?」
私は思い出したように視線を切り替えて、エリーナちゃんの話題に戻す。
三人で仲良くしていくには、こういう細かな気配りが大事なのだ。




