ep25:竜の国とは修羅の国
二番隊隊長グレドルアと共に黒い王城に向かっていた訳だが、『迷子になる』という意味が分かった。
例えば、土産物店に引かれて足を止めたとする。
「あ、このアクセサリー可愛い」
「それは七征竜が一人、土砕竜クエイクを模して作ったものや」
「へぇー土砕竜……」
「あ、そうそう土砕竜と言えば――あれ見てみ」
「はい?」
段々と素の口調を出し始めたグレドルアが目的地――王城の方を向くと、一人の竜人が現れる。
前腕と脚部が茶色の竜鱗と甲殻に覆われていて、額から一本の茶竜角を生やした竜骸鎧姿の男性竜人だ。
男性は路上でこう叫んだ。
『――やぁやぁ我こそは! 土砕竜クエイクの五男、七征竜騎兵団のレンドルアなり! 新たな魔王よ、手合わせ願う!』
「えっ、何?」
「考えんでええから勝負を受けろ新入り魔王。隙を見せたお前が悪い」
「えー」
観光気味に大通りを歩いていると、七征竜騎兵団所属の竜族が勝負を仕掛けてくるのだ。
私も口上を述べて、勝負を受ける。
「……その気概、しかと受け取った! 我こそが新魔王、称号は『創世白銀の魔王』、名はフェレルナーデなり! 全身全霊にて相手をしよう! さぁ来い!」
「それこそ我が望み! いざ尋常に――勝負!」
もちろん一撃で大地に沈めた。
ダッキングからのLv9000ボディーブローカウンターは伊達ではない。
倒れた竜人は周囲の方々が回収していった。
近づいてきたグレドルアは私にこう尋ねる。
「今のが全力か?」
「逆にどう見えました?」
「ほーん……なるほどな、分かった」
「……」
何やら楽しそうに微笑む彼。
気になって尋ね返した。
「もしかして私の実力調べてます?」
「まさか。喧嘩売る相手と時期くらい、俺はちゃんと分かっとる」
「そうですか」
そしてこの流れが、大通りの終点にたどり着くまで一万回ほど続いた。
あまりにも多すぎてここに来た目的が迷子になるかと思った。
◇
最後に勝負を仕掛けてきた七征竜騎兵――獄炎竜ヘルブレイズの長男で、三番隊隊長エンドルアの横っ面をぶん殴って地面に沈めてから、ようやく王城の扉が開いた。
グレドルアは尻尾を地面にタシタシと打ち付けながら笑い始めた。
「ガハハハハッ、あのエンドルアが、一撃で……ヒヒヒッ」
「ねぇ、やっぱり私の実力調べてましたよね?」
私の不服そうな声に、腹を抱えて愉快そうに笑っていたグレドルアはこう答えた。
「いんや、竜族の政治は殴り合いの世界やからいつものことや……フフッ」
「嘘ですよね。めっちゃ気持ちよさそうに笑ってます」
「ハハハッ、バレたか。グッハハハッ――」
彼は笑いを止めるように咳払いすると、半笑いながらも真面目に返答した。
「そうや。お前さんの実力を信じられないって一部の派閥が暴走しただけや」
「なぜですか?」
「そらお前、次元干渉とか、因果律収束とか、お前さんの偉業は目に見えへんもんばっかやろがい。だから実際に攻撃されに来たんや」
「あーなるほど」
まぁ確かに。
私もどう伝えれば良いか困っていた訳だし、同じような人が居てもおかしくないか。
勝負を仕掛けてきた竜族は、私のチートっぷりを示す噛ませ役を担ってくれたってわけだ。
だったらありがとう噛ませ竜族さん。
君たちのことは今日くらいは忘れない。多分。
「おっと、やっとお出ましか」
「ん?」
するとようやく王城からの出迎え――青い竜尾を持つ、一人の竜骸騎兵が出てきた。
その後ろには同じ装備の竜騎兵団が横列で出てきて、最初の一人の指示により道の両端に分かれる。
全員、斬鬼丸ばりにフルアーマーなので顔が伺えない。
少しして最初の一人――青い竜尾の竜骸騎兵が発言した。
「――グレドルア、首尾はどうだ」
声音から察するに男性らしい。
問いかけられたグレドルアは呆れたような口調で答えた。
「見てわからんか? 上々やろ。新入り魔王はちゃんと無傷で届けた」
「その割には、兵団内での負傷者が」
「それは知らん。称号の意味を信じられなかった三番隊が悪い」
「確かにそうだが」
歯切れが悪い青の竜骸騎兵。何か言いたげだ。
しかしグレドルアは会話を打ち切るように後ろを向いた。
「ま、これで団内の不満も無くなるやろ」
「待て。まだ話は――」
「ええか青竜。俺は『王の命』で、政治と職務の両方を果たした。これが俺の流儀や」
「……、ッ」
何も言えなくなる青竜さん。
まぁ、そりゃ、王命で任されたんだから、しょうがないよな。
あー、竜族の政治事情もかなり面倒くさそうだなー……と思っていると、グレドルアは私の肩にぽんと手を置いて、にこやかにこう言った。
「なあ新入り魔王。お前さんが大人になったらどっかで喧嘩しような?」
「えー……」
「んじゃ、また」
私の嫌そうな顔と声を無視して、二番隊隊長グレドルアは楽しそうに来た道を戻っていった。
呆れたように前を向くと、目の前に青竜さんが来ていて、彼はゆっくりと兜を外した。
青い髪と、青い二対の竜角を生やした好青年だった。
「お初にお目にかかります。私は七征竜騎兵団、一番隊隊長アロンドルア。今から君を守る者だよ」
「……青竜さんってモテませんか?」
「うん、強いからね。でも人の世ではどうか分からないな。ははは……」
彼は言葉を濁したが、私は『この人は女たらしだ』と身勝手な偏見によって決めつけた。
だって今告白されたもん。
ただ、安易に男性と絡むとSNSが炎上するので注意を促した。
「私を守ろうなんて百年早いかな」
「そうだね。君が大人になってからまた言いに行くよ」
軽く受け流された。
だめだモテ男としての格が違う。
私は一番隊隊長アロンドルアと共に、正面口から黒い王城に入った。




