ep22:閉じた世界のその続き
その後の話だけども。
私は救急医さんからの猛烈な質問攻めを受けたが、神様が事細かく丁寧に返答していった。
やはり全能神は伊達じゃない。
ま、何にせよ、永久回復アイテムと化した『治癒の包帯』は上手く使って欲しいところだ。
何百万人の命が助かるか分からんほどにヤバい代物だけどね。
魔法って凄い、改めてそう思う。
◇
そして午前9時。朝。
ナターシャは神様と共に、目を覚ました赤城恵に事情を説明した。
「――ま、詳細は省くけど、事故って死にかけてた君を私が死者蘇生させた訳よ、めぐみん?」
「誰がめぐみんだ。というか、君は誰? そこの美人さんとどういう関係です?」
「私? 私は魔王候補フェレルナーデ。私の隣にいるのは異世界の最高神様だよ」
「名はまだ無い。だが正真正銘の神だ」
「はぇー」
背から神々しい光を放つ現代服を着た神様。
今回はパワーアップした影響でちゃんと現界している。
しかし前世、信じているのかそうじゃないのか怪しい目つきでこう答えた。
「とても綺麗な後光ですね。良ければここでお茶でもしませんか?」
「汝、神を思うならばお茶に誘う前に崇めよ」
「ひぃ」
ムッとした神様に睨まれてビビる前世。
うーん別存在だけどもやはり私。アホの子だ。
さーて帰るか。
「じゃ、説明責任は果たしたから帰るね」
「あ、はい。さようなら。魔王候補さんと……神様」
「畏れは信仰と同義。その旨をよしとせよ」
「は、はい……」
未だにベッドの上でポカンとしている赤城恵は、帰り支度を整えるナターシャと神様を静かに見送る。
そこでナターシャは、思い出したようにこう告げた。
「あ、そうそう。助けたお代として扶養家族枠に入れて貰うからそのつもりで」
「なぜですか?」
「この世界の戸籍を得るために、君を助けるのが一番都合が良かったから。以上」
「ああ、はぁ、なるほど……分かりました」
ぺこぺこするリーマンで従順な社畜……もとい前世。
もう少し我を出しても良いと思うけどなぁ。
ま、事故直後な訳だし、話はこれくらいで良いか。
「じゃそういうことで。日程が決まったら連絡入れるからよろしくー」
「またな、赤城恵」
「は、はい。よく分かりませんがありがとうございました」
ナターシャと神様は白い異次元のゲートを潜ってその場から消えた。
病室に残された赤城恵は、窓の外を見て。
「……こういう時、アニメの登場人物って何かを感じるように窓の外見てるけど、実際は何も感じないよな」
特に何も感じなかったので、暇つぶしにTVを付けた。
テレビではニュース番組がやっていた。
『えー、緊急速報です。世界各地に正体不明のモンスターが出現し、民間人が殺害されるという事件が勃発しています。市民の方々は早急に指定避難所への移動を――――』
「嘘でしょ……?」
赤城恵は先程の二人が本物だったと理解し、リモコンを手から滑り落とした。
◇
神様と共に白い空間に戻った私は、レノスから奪った『世界神』の称号を譲渡した。
ポケットに入っていた『コスモ・オリジン』とかいう、ビッグバン前の宇宙を催した黒いビー玉を取り出して、渡すだけだけど。
「お主は良いのか? こんなに大層な称号を私に譲って」
「逆に聞くけど私に務まると思う?」
「……全く思わんな。ありがたく受け取ろう」
そういうことだ。
持つべき称号は人それぞれに見合った物がある。
私は世界を混沌に染める『魔王』の道に進むのが合っていて、信徒たちの平穏を望む神様には『世界神』が合っていた、ただそれだけ。
短いようで長い旅路を終えないと、たどり着かない思考の境地だけどね。
「さて、私はそろそろ黄泉帰ろうか。後のことは任せたよ神様」
「まったく、しょうがないヤツだな」
神様は召喚した天球儀の中央にビー玉をはめ込み、くるくると操作し始めた。
「世界の調整は私にまかせろ。お主は向こうでの平和を楽しむがよい」
「うん、じゃあねー」
私は壁と再び謎認証を行い、白い部屋から出た。
外は黒い廊下で、奥の方に光指す出口がある。
あの光を目指してまっすぐ進むだけだ。
「これで、今度こそ――」
コツコツ、と足を進める度に、ボロボロだった服が修復されていく。
きっと魔導服が自己修復を初めたのだろう。
「――私はナターシャ・ユリスタシアだよね」
ただ、色味は黒ではなく白のままだった。
貴族の令嬢として生きることを決めた私の意思を汲み取ったようだ。
「……でもやっぱり、私は主人公に向いてないなぁ。今回もあえてレノスとのプロレスに乗って、最終盤まで進める方が良かったかもしれない。神様が言ってたように、私は凡人なんだろうなぁ……」
反省会も交えつつ、出口まであと僅か。
ナターシャの魔導服は魔女っ子ワンピースから、天の川のように真珠が付いた白いドレスへと変貌していた。
これはもう、どこからどう見ても貴族の子女だ。
まぁ、赤城恵が現代で生き返った訳だし。
「そろそろ、思春期だし」
女として生きるのも悪くないかも、と内心で変化が起きていたのだ。
何というか、『時期が来た』ってことなんだろう。
もう子供としてではなく、一人の令嬢として振る舞うことが要求されるってことだ。
「でも、貴族社会で上手く生きていけるかな。六歳の舞踏会の時はめっちゃ冷遇されたし少し不安」
昔のことを思い出して、ほんの少しの恐怖を抱きながらも。
私は光の先に足を踏み入れた。




