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Phase end 『error.対象の抵抗力が強すぎたため、実験を断念します』

 いつもの金髪巨乳の女神様は、ナターシャの説明を受けて事情を理解した。

 どうやらナターシャが落ちぶれたレノスにとどめを刺した上、殺さずに生かす道を見出した、と。

 神様は『何にせよ』と前置きをしつつこう語った。


「ナターシャ、私が来るまでよく耐え切った。代わりに一つだけ願いを叶えてやろう」

「叶えて欲しいことなんてないよ。ただ幸せに過ごせればそれだけで良いもん」

「ではその願いを叶えてやろう」


 神様がナターシャの頭に触れる。

 すると、掛けられていた死の呪いが消えて、周囲に地上の様子が映し出される。

 闇夜と赤い月のテクスチャがボロボロと壊れ、隙間から差し込んだ太陽の日差しを浴びて、不死の軍勢が跡形もなく消滅していく場面だった。


「……あっけない終わり方だね」

「所詮は千年前のおとぎ話だ。『不死の軍勢』が存在する意味、その確証など無い。だから黒幕が死ねば全てが解決する。……ああ、これだけは伝えておこう。物語通りに進めればお前はヤツに乗っ取られるところだったが、幸いなことに、お主はアンネリーゼとの戦いで【片鱗】を目覚めさせたので助かった。流石だな」

「ふふん。ま、それが主人公ってもんよ」


 ドヤ顔で語ると、神様は呆れた。


「お主。今、現実で死にかけているという自覚が無いのか?」

「え? マジで?」


 周囲も白いだけの空間に戻る。

 ナターシャは僅かに驚いた。


「えっと、レノスを確実に無力化にするためにやったんだけど、今の俺ってそんなにヤバいの?」

「ああ、早く戻ってやれ。でないとお主の家族や友人とアーミラルが心労で死ぬ」


 マジかよ。皆ごめんね。

 ……でもでも。


「でも最後に一つだけ、ここでやっておきたいことがあるんだよねー……?」


 チラ、と神様を見上げると、相手も分かっていたようだ。

 キラキラと虹色に光る珠を渡してくれて、こう語る。


「次からは自力でやるように。一から魂を創るのは骨が折れるのだぞ」

「つまり許可が出た……ってコト!?」

「封印を破ったからな。お主は例外となった」

「よっしゃー!」


 ナターシャは受け取った虹珠を大切そうに持って、次の目的地へと向かう。

 おもむろに白壁に手を当てて謎の認証を行い、地上――現代日本へと繋がる階段を降りていく。

 向かうは2018年、12月29日。

 午前6時、東京都内の救急病棟。


「あ!」


 道中、少女は思い出したように振り向いて。


「神様ー! 説明手伝って!」

「仕方があるまい」


 笑顔で神様を呼びつけ、魔法に関しての説明を任せることにした。



 場面は巡り、半年前の私が、最後のお別れを言った直後の出来事だ。

 私と神様は扉越しにその光景を見ていた。


『ありがとう父さん、母さん。――バイバイ、皆』


 半年前の私――魔女っ娘ナターシャは手を振りながら、皆の前から姿を消した。

 それと同時に前世――赤城恵の心臓が止まり、長い電子音が病室内に鳴り響いた。

 両親、友人たちが泣き崩れる。


「お悔やみ申し上げますが失礼します!」

「「「!?」」」


 そこで空気も読まずに乱入するのが今時間の私。

 服装はちょびっと死装束っぽいけど、まだ死んでないので安心して欲しい。

 いやまぁ、向こうで死にかけてるからこうして過去に移動できてるんですけどね。

 マジでギリギリを生きてます。


「け、ケイくん!? どうして――」

「ごめん後藤、あとで話す! とりま退いて! 俺を生き返らせるから!」

「――! わ、分かった!」


 周囲の理解を得て道を開けてもらった。

 ナターシャはまず、心肺停止状態となっている前世――赤城恵の手に虹珠を乗せる。

 虹珠――赤城恵の分霊魂は手から染み込むと、彼の心臓は再び動き出した。

 具体的に言うと長い電子音が断続的な音に変わった。

 前の両親や友人達に僅かな安堵の色が浮かぶ。


 しかし未だに危険な状態なので、この時のために創った最上級回復魔法を掛けて、事故って壊れた体を治す。

 簡単に言うと『超強い回復魔法で死者蘇生』だ。


「天に召します我らが主よ。我、輪廻の奇跡を詩に宿し、彼の者を癒す力を求む……」


 最初に何をするかと言うと、信仰してる神様への祈り――というか許可の申し出。

 これをしないと『死者蘇生出来ない』って天使ちゃんが言ってた。

 神の法で定められた制約らしい。

 最後は詠唱魔法だ。


「【天命の定めは万物に帰り、運命の女神は汝が為に新たなる糸を紡ぐ。呪われし生に祝祭を。蝕まれし命に喝采を。全ての傷は露と消え、万里を超えて完治する。これは――汝が為の極唱魔法(エクスペル)】」


 こうすることで新たな魂が体に馴染むのだ。

 ちゃんと記憶も受け継いでくれる。事故前までのね。

 私は笑顔を浮かべて、二つ名を詠唱した。


「――【天衣・恢復魔縫(フローレス・ベール)】」


 魔法が発動し、赤城恵に巻かれた包帯が祈りの力で、白い回復オーラを帯びたマジックアイテム『治癒の包帯』へと変化。

 僅か十数秒で全身の怪我――前世はLv1なので治癒が早い――を治すと、一部がシュルシュルッと解け、ナターシャの右腕に巻き付いた。

 次の怪我人は私だからだ。


「さて、これで生き返ったはずだけど」


 ナターシャは看護師のエリカに生死確認を任せた。

 すると何故か、エリカと共に後藤・遠藤・ジュンも急いで救急医に連絡を取りに行った。

 どうやらかなり気が動転してしまっているらしい。

 部屋の外で出番を待っていた神様、スルーされて軽くご立腹。


 しかし、前世の両親だけはこの場に残っていた。

 二人は息子を治してくれた少女を抱きしめてただ一言、『ありがとう』と漏らし、安堵で泣き崩れた。


「どういたしまして。最後のわがままに付き合ってくれたお礼だよ」


 ナターシャも少年っぽい声音でそう漏らすと、とても萎びてしまった両親の手や体の感覚、二人の体温を直に感じてしまい、『ああ、もっと親孝行者にならないとなぁ』と改めて思った。

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