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phase1-4 おとぎ話『怒ると怖い魔王候補の少女』

 ここからは、誰も知らないおとぎ話。

 ……いや、たぶん、最高神だけは知っている実話だ。



 白い箱型の空間、その角で。

 体育座りをした銀髪の少女の、すんすん、ぐすっという鳴き声が寂しく響いていた。

 少女の名はナターシャ。

 アンネリーゼとの戦闘後なので、ボロボロの白い魔導服を着ていた。

 顔は膝と腕に埋もれていて見えない。


「――ああ、やっと手に入れたぞ」


 そこに一人の老人――白い布を腰に巻き、枯れ木のような肢体の男性神が虚空から現れる。

 彫りの深い目元は闇に覆われていて、ギラギラとした黒い二つの眼だけが光を帯びている、明らかに怪しい存在だった。


「最初からこうしておけばよかった。神の法や流儀など、どうでも良いではないか。余は【邪神】なのだから」


 この老人こそレノス。

 最高神『無名の女神』との賭け事(ゲーム)に負け、『邪神』の称号すら失った愚か者。

 信仰の柱が消え、消滅する直前だった彼は、悪魔憑き(アンネリーゼ)に扮してナターシャを襲撃し。

 ディビスが聖剣で断ち切った見えない鎖を通じて、自身の精神体を少女に流し込んだのだ。


 代償として【邪神】に旧神である自身の【死】を捧げたが、今はまだ空の玉座。

 後からどうとでも誤魔化せる。

 万事抜かりなかった。


「さぁか弱き少女よ、余と共に邪魔な神と世界を滅ぼそう――」


 ただ、一つだけ問題があるとすれば。


「――怖くはないぞ。ただ余と一つになるだけ……」

「お断りします」

「は……?」


 自身の【死】を確定させた少女を乗っ取ろうなどという、愚かな結論に至ったことだった。

 嘘泣きをやめて前を見たナターシャは、老人に向かってスキル名を呟く。


「カタストロフ・ピリオド」

「ぐふっ――」


 レノスは謎の力によって吹き飛ばされ、バァン、と壁にめり込む。

 やれやれと立ち上がった少女の両眼は、金色の魔眼になっていた。


「言ったろ? 『に が さ な い』って」


 ポトリと地面に落ちた老人は、弱々しい声でこう漏らす。


「き、貴様……何故、力を……」

「気合で突破した」

「バカな……! 人如きが……神の法を超えるなど……!」

「知るかばーか。【魔眼開放(ブート・マギア)】――【第二法則(マクスウェル)】』」


 ナターシャは魔眼【因果観測眼(ラプラス・アイ)】の能力、その二番目を使用。

 まずは敵――レノスが望むべき未来を『因果』を無視して手繰り寄せ、実現させる。

 すると、力のほとんどを失って萎びていたレノスの体が膨らみ、若返り、青年の姿になった。

 レノスは突然の出来事に驚き、体を見渡した。


「こ、この力は……しかもこれは、余が月に隠していた予備の肉体……!」

「へいバカ。都合よく生まれ変わった気分はどう?」


 ナターシャは小馬鹿にした表情と口調で煽る。

 第二段階『結果の取り出し』を終えたのだ。

 対してレノスは、


「――ハハッ、ハハハハ、愚か者め!」

「うんうん、なるほどー」


 少女をあざ笑うかの如く高笑いし、両手に神撃――雷の槍を召喚した。


「この力さえあれば全知全能、何もかもが思うがまま! 愚かなり『ナターシャ』! 貴様は打つ手を間違え――」

「あ、ごめん。()()()

「はえ?」


 しかしナターシャが第三段階――『忘却』に入ったことで、レノスは全盛期の力を失い、元の老人の姿に戻ってしまった。

 持ち出した神撃も消え、その場にへたり込んでしまう。


「な、なにが……」

「えーとレノスさん、だっけ? ごめんねー、間違えて貴方の歴史を『全部忘れて』消しちゃった。未来も過去も現在も。多元宇宙の神様、『世界神』だった事でさえ」

「なっ、ば、えっ、ど、どうやって……」


 狼狽えて、縮こまる老人。

 ナターシャははぁ、とため息をつくと、ダルそうにこう答えた。


「だって貴方さ、どう殺しても世界に歪みを残すんだもん。だから私の中に取り込んで『貴方の全能』を魔眼で『観た』上で、全ての世界から『存在』を消させてもらった」

「ど、どうしてワシが消されねばならぬのだ!?」

「私がそう望んだからだよ」

「……っ」


 冷めた目と声音で言われ、言葉に詰まるも、レノスは聞き返した。


「な、なぜ望んだ!?」

「お前が起こす事件のせいで、ナターシャちゃんである私の身長が伸びなくなるからだよ。分かった?」


 少女は至極当然のように未来のことを口にする。

 彼女の持つ【因果観測眼(ラプラス・アイ)】とは、最上級の千里眼で、因果律眼。

 本気を出せば、天地開闢から世界の終焉、更には多元宇宙や別世界線にまたがる神の存在定義の観測・変更・削除などお手の物なのだ。

 レノスにも先程、全能だった一瞬の記憶があるので否定できず、戸惑いを隠せなかった。


「そ、そんなちっぽけな理由で」


 だが、その一言がナターシャの逆鱗に触れた。


「は!? 誰がチビでロリで達成した偉業を他人に取られるクソザコだって!?」

「そ、そこまで言ってな――」

「レノスゥ……テメェ……ロリとして生きるのが如何に大変で、他人に舐められるか分かってねぇな? よぅーし分かった、せめて現代の人間に転生させて反省を促そうと思ってたが、もう一生許さん……何やっても上手く行かない永遠にクソザコな邪神幼女枠にブチ込んでロリの辛さを『分からせて』やる……!」

「ひぃ、や、やめ……!」


 怯えて後ずさる老人レノス。

 しかし魔王候補(ナターシャ)は許さない。

 手をぽきぽきと鳴ら――ないので形だけ真似しながら、いまいち威厳のない鬼のような形相で近寄ると、最終段階――『観測結果の再出力』に入った。


「ではレノス……いや、『邪神幼女レノスちゃん』か」

「ひぃっ」


 ポウン、と白煙が上がり、老人レノスが黒髪褐色の美幼女になる。

 ナターシャと同じ八歳くらいで、相手の尊厳を徹底的に折るべく、神衣は『園児服』に固定した。

 声も、神としての力も、死にかけの老人だった時より遥かに弱々しい。


「よ、余の体が女子(おなご)に……!?」

「喜べ……『幸運の女神』と対を成す『不幸の女神』枠だぞ……」

「う、嬉しくない! 元に戻せ!」

「断る……お前も私と同じ苦しみを味わえ……そして人の温かみを知るが良い……! 成敗ッ!」


 ナターシャがパチンッと指を鳴らすと『レノスちゃん』と化した邪神の足元に円形の穴が空く。

 そこに広がるは現代日本、東京の上空。

 抵抗する間もなく、邪神レノスちゃんは天界からドロップアウトしていった。


『貴様ぁぁぁぁぁぁぁ~~~~! 覚えていろぉぉおおおおお~~~~――――!』

「邪神レノスよ、二度とこの名を忘れるなかれ! 我が名はフェレルナーデ! 貴様を地に落とした『魔王』の名だ!」

『おのれ魔王フェレルナーデぇぇぇぇ~~~~――……!』


 邪神レノスちゃんの認識修正が完了したので、現代に繋がる穴を消して一息つく。


「ふぅ……よし、これで現代に転移する因果が出来たな!」


 ナターシャは、これから現代で巻き起せるローファンタジーな出来事に胸を弾ませた後。


「……な、ナターシャ?」

「何? 神様」


 ようやく救援に駆けつけたものの、レノスTS追放までの掛け合いを聞いてしまい。


「お主、女として生まれたことを根に持ってるのか? レノスを私の対の存在にするほど?」

「いやそうじゃなくてね」


 若干怖がる神様に対して、詳しい事情を説明する羽目になった。

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