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邪気眼魔王候補(少女)の領地経営譚 ~前世の中二病に目覚めた転生者で貧乏男爵家の魔王候補ですが、頑張って作り上げた人脈と強力な能力を生かして領地を発展させます。私こそが最高最善の魔王だ~  作者: 蒼魚二三
第二部・破章:ユリスタシア領奪還編 -無限湧きゾンビィ軍団と熟成チーズ、戦時パン・軍用ビスケットをお供に生存権を勝ち取ろう-
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phase1-2 命短し抗え乙女、強く輝け我が魂 【前編】

 ドドドゥッ、と弾丸並の速度で飛びゆく火球。

 ナターシャはさらにバックステップで距離を保つ。

 体が接近戦を拒んでいるからだ。


「だからどうしたッ」


 私を追うアンネリーゼは、火球に構わず猛進してきた。

 当たるも鎧に防がれて止まらない。

 ダメージも見受けられない。




「火種程度が効くとでも!?」

(――それくらい分かってんだよ!)





 つい眉間にシワが寄る。

 背後に生成・射出する火球の数が多くなる。

 ステップを駆使して、相手との距離を一定に保ちながら返答した。




「だったらこれでも喰らえ! ――【弾道爆炎弾(ファイアフライ)】!」

「チッ」




 ならばとミサイル状に生成されたファイアーボール――【弾道爆炎弾(ファイアフライ)】を追加でぶち込む。

 杖に目標を定められた炎のミサイルは、後部から白い煙を噴射しながら爆進していく。

 下手に受けてれば小規模な爆風に巻き込まれるのが必然。

 流石に多少のダメージはあるはずだ。




「邪魔だッ」




 相手も理解したのか、剣で弾いて軌道を真上に反らし、





「ハハ、君、今のは良い魔法だ! ギアを一つ上げるぞ!」

「――ッ!?」




 特殊な体捌きを利用して距離を詰めてきた。

 瞬きの隙を狙った瞬歩だ。

 どうやらまだ本気じゃなかったらしい。

 上空でドーンと、弾道爆炎弾(ファイアフライ)が爆発した音が聞こえた。




「くっそ……!」




 少しの動揺が生まれて、バックステップのキレが鈍くなってしまう。

 相手はその隙を逃さずに追いつき、問答無用で切り込んできた。





「さぁもっと見せてみろ!」

「このッ、欲張りさんめッ!」





 上段からの一撃。

 ナターシャは直撃を避けるために切り返した。

 金色の火花が散り、剣と光剣の鍔迫り合いが始まる。





「このまま力比べでもするか!?」

「身長差を考えろよ!」




 上から押しつぶされそうになるのを必死に耐える。

 ここから逃げる術を考えるためだ。





「いい返しだ! だが非力ッ!」

「ぐっ……!」




 しかしパワーで押し負ける。

 何もかも相手の方が上だからだ。

 足が僅かに地面にめり込む。

 考えろ、考えろ――!





「この、状況でのッ、最善手、はッ――――!」

「逃げなくて良いのか!? 潰れてしまうぞッ!?」

「分かった上でッ、やってんだよォッ! 【詳細鑑定】――『比較解析』ッ!」

「なんだと――」





 まずは鑑定スキル。

 力量差を数値で推し量る。

 そして何より、襲撃される理由を知りたい。





「まずは力量を見せてもらうよッ!」

「厄介な技を……!」




 アンネリーゼは大きく後ろに後退し、鍔迫り合いを回避した。

 剣先のゆらぎから、僅かに動揺が見れる。

 結果的に仕切り直しだ。



「ハァ、ふぅ――ふーん?」



 ついでにやられっぱなしは癪なので、言葉で斬り返しておく。




「強さを知られるのがそんなに怖いんだ?」

「お前には分かるまいッ」




 アンネリーゼは剣を構え直した。

 再び攻撃を仕掛けてくる。

 その瞬間、解析結果が出た。


―――――――――――――――――――――――


 ステータス比較結果


 こちらのパワーの数値は2000、相手は3000。

 それ以上の開示は相手側が拒否しました。


―――――――――――――――――――――――



「なっ!? 拒否――」




 詳細鑑定の解析をガードした!?

 万物を記した書が起源のスキルだぞ!?




「――どうやって防いだッ!」

「教えて欲しければ押し勝て! 更にギアを上げるぞッ!」

「無茶言うなああああ――――ッ!」





 アンネリーゼは速度をさらに上げ、ナターシャとの接近戦が可能な距離を保ち始めた。





「さぁ! この領域からどう逃げる!?」

「ぐっ……!?」




 相手からの猛攻が始まる。

 とにかく基本に忠実な切り下ろし、横薙ぎ、袈裟・逆袈裟。

 斬撃自体は見える。速度も早くない。

 まだ達人の域では無い。





「ハァッ!」

「うひっ!?」




 しかし、一撃が捌ききれないほどに重い。

 顔を掠めた斬撃が地面に落ち、ドゴォォンッ!という音と共に土砂が散る。

 相手の腕力なのか、体格差による力の集中か。

 何にせよパリィで受け流しすることも出来ないので、直撃を避ける道しかない。





「どう逃げ延びるかと聞いているッ!」

「――――~~~~~~……ッッッ!!!!!」





 相手の攻撃をひたすら避ける。

 圧倒的な暴力が顔を掠め、掠めた暴風が頬を揺らす。

 避けきれなかった魔導服が、魔女帽が、端から斬り落とされていく。

 悔しいが主導権が取れない。

 このまま耐えるしか――――






「怖じけたか『次期魔王』ッ! お前の実力はその程度かッ!?」

「――ッ!?」




 アンネリーゼの言動で。

 抵抗する力を奪ったあとの、息もつかせぬ暴力が『過去』と重なる。

 前世の記憶が走馬灯のように流れる。


 思い出すのも嫌なモノ。

 無抵抗で受けることになった体の痛み。

 社会に出たあとの理不尽な嫌がらせ、精神支配。

 あれは――今この時と、同じ状況なんじゃないのか。

 それをまた耐える?



「いや、だ……!」



 ギリリ、と歯噛みする。

 悔しくて悔しくて、ぽろぽろと涙が溢れ出す。


 実力が及ばないと認める?

 このまま我慢を続ける?





「嫌だ、嫌だ嫌だ! 違うッ……違うッ!」

「何が違うか答えろッ!」


 

 攻撃が迫る。

 再び避けて、魔法を放ちながら距離を取る。


 耐えるのだけはダメだ。

 ただ耐えるのは敗者の思考だ。

 ダメダメだった『昔の俺』そのものだ。

 思い出せ、思い出せ。

 私はなぜ異世界(ここ)に居ることを選んだ?





「それはぁっ――――」

「力で示せェッ!」




 再び接近した相手の斬撃を、間一髪で回避する。


 あの再覚醒の日、現世に戻ろうと思えば戻れた。

 戻らなかったのは、挫折の多い人生を悔やんだからじゃないのか?

 何もなせないまま元の世界に戻っても、意味がないと思ったからじゃないのか!




「私は……!」




 だから前世に別れを告げ、ここで一からやり直すと決めたんじゃないのか!?




「負けない……ッ!」




 そうだ、ここで敗れるわけにはいかない!

 絶対に折れるな心だけは!

 二度と思うな耐えきるなんて!


 



「私がッ、勝つんだァァァ――――――ッッ!!!!!!」





 私の可能性は無限大!

 相手に飲まれるな!

 なりふり構うな!

 勝機をその手で奪い取れ!




「貰った!」

「【正面射撃実体弾(フロントバレット)】ッ! ――」

「何――」




 かつて創った弾幕魔法の一つの改造版が発動する。

 ナターシャとアンネリーゼの間に割り込むように、三つの魔導球が出現。

 純魔力物質由来の圧倒的な硬度が、相手の斬撃を容易く受け止める。



「面妖な……」

「に が さ な い」

「――ッ!?」



 アンネリーゼは剣を引き抜こうとするも、剣は魔導球から離れなかった。

 主の少女が、相手の剣ごと空間に固定したのだ。

 ナターシャは憤怒の形相で相手を睨みつける。

 黒い何かが瞳に宿る。



「これは……ッ」

「――フルッ、バーストォォォォォォォォッ!!!!!!!」

「な、ぐはっ――――」




 更にその状態で、無属性弾の一斉掃射を敢行した。

 アンネリーゼの腹部に当たり、鎧がへこむ場面が一瞬だけ見えたものの、数多の無属性弾が起こす爆煙によってすぐに見えなくなった。

 ナターシャは一切の躊躇なく、魔力が完全に底をつくまで打ち尽くす。



「死ねぇぇぇぇ――――――ッッ!!!!!!」



 激しい戦闘と葛藤の証――土と泥で汚れた少女の顔と、涙が溢れて止まらない瞳は。

 この世界で生まれて初めて、相手に対して強い殺意を向けていた。

後編は書き切れたら出ます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついつい続編のこちらばかり読んでいますが……面白いですっ! [一言] 無事復活されて良かったです。
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