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邪気眼魔王候補(少女)の領地経営譚 ~前世の中二病に目覚めた転生者で貧乏男爵家の魔王候補ですが、頑張って作り上げた人脈と強力な能力を生かして領地を発展させます。私こそが最高最善の魔王だ~  作者: 蒼魚二三
第二部・破章:ユリスタシア領奪還編 -無限湧きゾンビィ軍団と熟成チーズ、戦時パン・軍用ビスケットをお供に生存権を勝ち取ろう-
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phase1-1:制御術式は乗っ取られるもの

 女旅人さんはもう一度尋ねてくる。


「知らないか?」

「どう、でしょうねー……?」


 少し様子を伺うような動きを見せると、女旅人さんは慌てて取り繕った。


「ああいや、ただ挨拶も兼ねて、これを贈呈しようと思っていてな」


 旅人さんがポケットから取り出したのは黒い宝玉だった。

 綺麗に磨かれていて、吸い込まれるような黒い色味。

 多分だけどオニキスだ。


「それは?」

「ん? はは、気になるか? 触ってもいいぞ」


 旅人さんはス、と差し出してくる。


「ほら手を出してみろ」

「あ、はい」


 私もつい流されて受け取ってしまった。

 押しの強い人だ。

 ちなみに触ったところ、宝玉らしくつるつるしていて、きれいに磨かれていることが分かった。

 我ながらすごい雑感だと思う。

 声としても出る。


「つるつるしてるー」

「はは、そうだろう? 『ナターシャ』」

「――!?」


 本名を言われ、咄嗟に宝玉を捨てて距離を取る。

 警告ウィンドウが出たのも同じタイミングだった。



―――――――――――――――――――――――


 ※WARING※


 終式封印の術式改ざんが発生しました!

 特級制御者が『アンネリーゼ』に変更されます!


 ステータス・スキルLvが大幅に低下!

 Legend級スキルが封印!

 無限魔力消滅!

 MPが基準値『1000』に変更されます!


―――――――――――――――――――――――



「何が――」

「……『ゴッズ・オニキス』」

「え!?」

「この世で唯一、神の呪いを蓄積出来る魔石だ」



 戸惑う間もなく女旅人――アンネリーゼは語りだす。

 ゆっくりと立ち上がり、剣の柄に手を掛けながら。




「神の呪い……!?」

「いやなに、君には感謝している。『レノス』を滅ぼしてくれたからな」




 冷淡な笑みを浮かべながら、ようやく抜き身にする。

 ギラリと光る凶刃を正中に構え、




「だからここで死んでもらう」

「ひっ!?」




 躊躇なく攻撃を仕掛けてきた。

 駆け寄りざまに上段からの一振りが襲いかかる。



 ブオンッ!

「――ッぶなぁっ!?」



 だが、咄嗟に横に転がり込んで回避出来た。

 魔物狩りRTAで鍛えた判断力のおかげだ。

 相手の剣――ショートソードが地面に突き刺さる。




「ほう、回避出来たか」




 アンネリーゼは驚いた様子だった。

 剣を抜き、刃先を撫でて少しだけ尊敬の目を向ける。




祝福(チート)は全て封印したはずだが。修行の成果か?」

「ま、まぁね、ありがと。でもまずは話し合わない?」

「断る。死ね」




 再び攻撃が始まった。

 アンネリーゼは剣を構えて走り寄ってくる。

 対話の余地はないようだ。

 今度は先程よりも的確に急所を狙った、鋭い突きが放たれた。



「フッ」

「くっ!」




 胸を狙う一撃。

 さらに横に飛んで回避する。

 追撃の袈裟斬りもバク転することで逃げ切れた。




「なかなか上手いな」

「そりゃどうもッ!」




 相手の攻勢は止まらない。

 着地の隙を狙って横薙ぎを仕掛けてくる。

 避けられない。

 分かった、もう考えるのは止めだ。




「【防御結界シールド】!」

「ほう?」




 魔法が発動し、ナターシャの周囲を透明な結界が覆う。

 結界に相手の剣が当たって拮抗した。

 数拍の間、にらみ合う。



「……わたしを襲う意味は?」

「意味は無い。理由はある」

「り、理由は?」

「君が『次期魔王』だからだ。……(もろ)いッ!」

「――ッ!」



 相手は会話を打ち切るように結界を破ってきた。

 割れたガラスのように砕け散っていく結界。

 冷たく告げられる死の宣告。




「終わりだ」

「ひぃっ――」




 首元へと迫りくる敵の刃。

 反射的に手を前に出し、制止するように相手に向ける。

 恐怖で目を瞑る。

 僅かばかりの時間稼ぎにしかならなかった。






「……なーんてねッ!」

「何――」




 だからこそ、この一瞬を逃さない。

 待っていましたとばかりに片目を開けて。

 一言、魔法を呟いた。




「【暴風衝撃弾(インパクト)】ォッ!」

「ぐはッ――!?」




 瞬く間に生成した風の砲弾を相手の腹にぶち当てて怯ませ、大きく後退させ、




「【火球】、【水球】!」

「視界が……!?」




 水蒸気爆発による霧で視界も奪った。

 霧の向こう側で、アンネリーゼが悔しそうな声音で呟くのが聞こえる。




『……よくもやってくれたな』




 人を騙しておいてよく言う。

 さ、ここからも時間との勝負だ。




「【詠唱破棄スペルブレイク】――【疑似英霊化ヒーローズレプリカ全身全霊フルアームズ】!――」




 とにかく全力で、最速で戦闘体勢を整える。

 今はそれしか思いつかん。

 最上級の身体強化魔法が起動し、ナターシャの蒼い瞳が虹色に変わる。

 さらに思考が戦闘に特化されたことにより、最善の一手が導きさだれた。




「――【収納空間(アイテム・ボックス)】――『黒・猫・魔・導ブラック・キャット・マジック』!」




 腰の横辺りに出来た異空間から黒いオーラを放つ黒杖の上部が出現。

 ナターシャはその杖をつかむと、最後の詠唱を行った。



「――【我が意志よ。杖へと宿り、光り輝く剣となれ! 剣光付与術(エンハンス・ソード)】!」



 杖が勢いよく抜刀され、金色(こんじき)の火花が散る。

 もうもうと立ち込めていた霧が打ち払われる。

 銀髪の魔女っ娘が振り抜いた黒杖には、金色の魔法刃が付いていた。

 武器種で言うと大剣に近い。



「ふぅ……」



 ただ、魔力をゴリッと半分ほど持っていかれた。

 今のは精神疲労からくるため息だ。

 こんなの初めて。


「よし」


 魔法大剣を正眼に構えた時には、目先の敵の変化にも気づけた。



「それが正体ってワケだ」

「見せるつもりはなかったがな」



 目の前には、先程までの女旅人はおらず。

 白銀の鎧と赤黒いマントを付け、肩に剣をかけた首無し女騎士(デュラハン)がいた。

 初夏の気配に混じる、むせ返るような血の匂いと仄かに感じる冷気。

 斬鬼丸と同程度か、それ以上の体格。

 まさしく異質。

 どうして気づけなかったのか不思議で仕方がない。

 まぁこっちが封印で弱体化してたってのもあるだろうけど。



「改めて聞くけど、話し合うつもりは?」

「無い」

「ああそうですか」

「君、その返しは失礼だ」

「は?」



 塩対応で返すと、少し冷気が増した。

 いわゆるバッドコミュニケーションって奴だ。ふざけんな。

 アンネリーゼは正眼の構えを取り、こちらは背後に複数個の火球を浮かべる。



「だが、そうだな」

「なに?」



 その上でなお、相手はこう答えた。




「君が死んだのなら話に応じようッ」

「嫌に決まってんだろうがあああああ――ッ!」




 アンネリーゼは否応なしに突撃を仕掛けてきた。

 こちらも容赦なく火球を発射し、迎え撃つ。

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