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ep15-間話:話はぶっ飛んで小麦収穫の日と、ようやく出てきたファリア監督たち

 ユリスタシア領にニャンズホールが開いてから二週間が経った。

 その間の私は、リズールと共に索敵魔法を使用してのユリスタシア領全域の生態調査、さらには詳細地形図の作成なども行い、近辺へのダンジョン生成・赤レンガ通りの開発、南部の鉄道網開発に向けての下準備を終えた。

 後は実行に移すのみだ。


 しかし、それだけ頑張ったにも関わらず見つからない人物たちが居た。


「……ここ最近さ、フォリア監督と深雪さんたちとずっと出会えてないんだよね」

「私は毎日会ってましたよ?」

「ほんと?」

「わ、私も会ったよ……? 『体の線が細いからいっぱい食べなさい』ってパンとチーズ貰った……」

「会えてないの私だけ?」


 今日は待ちに待った小麦の収穫日。

 ナターシャ、クレフォリア、エリオリーナの三名は。

 街道に置いた長椅子に座って収穫の様子を眺めている。

 ザクザクと手際良く刈り取られていく様は、見ていて気持ちがいい。


「かもしれませんねー」

「なんでかな?」

「会いたいんですか?」

「まぁ、会えないと心配にはなるよね」

「むー」


 ちなみにだけど、今日は配信出来ていない。

 天使ちゃんが収穫日前日になって『ごめん機材メンテさせてー』と持って行ってしまったのだ。

 この風情ある光景を、視聴者さんに見せられないのが残念だ。


「ナターシャさまー?」

「んぇ!?」


 するとクレフォリアちゃんが私に抱きついてきて、膝に頭を乗せた。

 彼女は少し嫉妬するように目を細めて、こう聞く。


「私だけじゃ不満ですか?」

「そ、そういう話じゃなくてね」


 膝に乗せられた頭を撫でながら、笑顔で答えた。


「たださ、毎日待ち伏せされてただけに、領主の娘として心配をね」

「ふーん……やっぱり私だけじゃ足りないんですね?」

「い、いや」


 つい返答に困ってしまう。

 どう答えるのが正解なんだ。


「もちろんだけど、クレフォリアちゃんの愛はたくさん感じてるし――」

「あ、あの……」

「――え、エリーナちゃん?」


 今度はエリオリーナが参戦してきた。

 不安げで、懇願するような瞳をしながら、私に一言。


「私も見て……?」

「ひゅっ」


 変な声が漏れる。

 クレフォリアがこう返した。


「ナターシャ様は私の勇者様ですよ?」

「違うよ、私の救世主だもん……」

「ひぃ」


 対立を生む二人。

 場の空気が静かに冷えていく。

 やべーぞ修羅場ってきた。

 な、何とか解決せねば……!


「……く、クレフォリアちゃん」

「何ですか?」


 ナターシャはまずクレフォリアのおでこに優しくキスをした。

 金髪のお姫様の顔がみるみる真っ赤に染まる。


「――」

「ナターシャちゃ……?」


 次は何も言わずにエリオリーナを抱き寄せて、こうささやく。


「大丈夫、私は君を見捨てない。ずっと守り続けるよ」

「ふぇっ……!?」


 エリオリーナもぼふんと赤くなる。

 そうしておしとやかになった二人のお姫様は。

 ナターシャのそばに寄り添って、ちんまりと縮んでいた。

 よし、無事に場を収められた。


「ふぅ……」


 即興演劇で鍛えられたおかげなのだろうか。

 フォリアちゃんに感謝かも。


『腕を上げたわね、ナターシャ!』

『だね。私直々に鍛えた甲斐があった』

「この声は!?」


 安心する間もなく、周囲の麦畑の間からザッザッザッ、と姿を表すのは。

 フォリア監督・深雪さん率いる幼女軍団と。


「なっちゃん! 天使ちゃんにも甘い言葉を囁いて!」

「天使ちゃん!?」


[wwwwwwww]

[いや草wwwwwww]

[魔王候補は人たらしじゃないとなwww]


 使い魔型カメラとマイクを浮かべた天使ちゃんだった。

 全員、にっこにこの笑顔だ。


「な、何? え?」

「「「ふふふ……」」」


 状況を掴めずにいると、天使ちゃん&幼女軍団がこう叫ぶ。


「「「ドッキリでした-!」」」

「え、嘘、まじかああああああああああああ……ッ!」


 ナターシャは今までの言動がネットに公開されたのを知り。

 あまりの恥ずかしさに両手で顔を抑えた。

 耳まで真っ赤になっている。

 フォリア監督はそれはもうご満悦だった。


「ふふ、襲撃を止めたからって油断していたわね」

「私たちはいつだって、ナターシャちゃんを影から見ていたよ」


 深雪さんもノリノリで答えた。

 何とか言葉を返す。


「で、でも、私の索敵魔法にも反応しなかったよね!?」

「甘いねなっちゃん。この天使ちゃんにかかれば神隠し程度は余裕なのだよ」

「どうしてそこまでしてみんなを隠してたの!?」

「それは……」


 天使ちゃんが沈黙し、何やら雰囲気が重くなる。

 少しの間が空いたのち。

 ファリア監督がようやく答えた。


「……全部私のせいよ」

「え?」

「全部、全部私が悪いのよ! 今、スランプなの! いい話が全然思いつかないのよ! だから貴女を騙して利用した!」

「なん、だと……?」


 あのファリア監督が……?

 やりきれないのか、悔しそうに顔を背ける監督。

 そこからは深雪さんが話を受け持った。


「実は一ヶ月前、『劇の展開が毎回同じ』って男子に言われた事があってね。そのせいでフォリアの筆が止まっちゃって。私は何とか復活させようと思ってアーミラルさんに掛け合ったの」

「……」


 な、なるほど。

 深雪さんは辛そうな顔で話を続ける。


「アーミラルさんからは『苦しくて書けないのは分かるけど、書くのをやめたら腕が鈍って不味い』と言われたから、二人で共謀して『ナターシャちゃんに即興劇を仕掛け、その後フォリアに台本を修正をさせる』という方法で、騙し騙し、ずっと頑張ってたんだ」

「う、うん……」

「でも、ついに限界が来た。修正すら出来なくなったの」

「なるほど……」


 苦しい状況なんだろうけど、それとこれとは話が別だ。

 ちゃんと怒らなくてはいけない。


「だからって私を騙して、私の友達二人を巻き込むなんて」

「それは違うよ」

「違う……?」

「二人は自ら志願してくれたの」

「そ、そうなの?」


 隣のクレフォリアとエリオリーナは、無言でコクリと頷いた。

 顔は相変わらず真っ赤なままだ。

 これは演技ではなくガチで照れている。

 深雪さんはそれを看破しつつも、こう答えた。


「でも誤算があった」

「誤算……?」

「それは――」

「ちょっと待って」

「フォリア……?」


 深雪さんはさらに続けようとしたが、ファリア監督が止めた。


「ここからは私が言うわ」

「でも」

「良いの。私には説明する責任がある」

「なら分かった。任せる」

「ありがとう」


 ここからはファリア監督が受け持つようだ。

 私はあえて、もう一度尋ねる。


「それで、誤算って何?」

「貴女のアドリブ力が私の想像を超えてしまったことよ。私はドロドロした三角関係が見れると思っていたけれど、たった二つの動作で、ヒロイン二人を容易く懐柔してしまった。これは予想外だわ」


 口惜しそうに下唇を噛む監督。

 濃厚な恋愛劇が見たかったようだ。

 そうは言われても、こちらは毅然とした対応をするしかない。


「フォリアちゃん」

「なによ」

「私は二人が争う姿なんて見たくない。ファリアちゃんが今、どんな状況であろうと。これだけは譲れないことだよ」

「ふぅん。譲れない物がある、ね……」


 フォリア監督の目つきが変わった。

 目から光が消え、何かを覚悟した顔になる。


「それは私も同じなのよナターシャちゃん」

「フォリアちゃん……?」

「私のスランプを解消するためには、貴女が苦しまないとダメなのよ……!」

「まさか……!」


 あ、これいつもの流れだ。


「さぁナターシャ! 私たちとバトルしなさい! いかにして私たちを怪我させずに圧倒するか考え抜くと良いわ!」

「くっそぉぉぉぉ――――!」


 私は慌てて立ち上がって、迫りくるフォリア軍団から逃げ出した。

 とりあえず人気のない場所に移動して、こけても怪我人が出ないような草原での戦闘に持ち込んで――――


『待てー!』

『逃げるなー!』


 後ろからはフォリア軍団が走ってついてくる。

 この展開、意味がわからないと思うが、私にも分からない。

 だって、監督たちとエンカウントする前から即興劇は開始されてるんだもの。

 ようは、ここまで全部仕込みだ。



 少しして劇が終わり、ファリア監督と二人きりで話せる機会が出来た。

 彼女にこう問いかける。


「スランプ治った?」

「全然治んない! もうバトルに持ち込んでうやむやにするしか思いつかないよー!」


 一応、彼女がスランプなのはマジなのだ。

 その後は劇団幼女も交えて、本格的な解決法を模索することになる。

ちょっとメンタルが下降状態なので、次話の投稿は明日にずれ込みます。

続報は明日のあとがきにて。

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