ep14:忘れられがちだった生配信の状況とSNS大炎上
緊急会議が終わって、書斎から出たあとに気付いた。
使い魔カメラとマイクが出たままだったのだ。
「あ、生放送したままだった」
「わお、全部見られちゃったねー。こんちはー天使ちゃんだよー?」
[まって]
[>こんにちは そんなこと言ってる場合じゃないよ!]
[やべえよやべえよ……]
[とんでもない厄ネタきちゃあ……]
コメント欄を見たところ、何やらとても怯えていた。
慌ててSNSを確認すると。
「うっわ私また燃えてる……」
「なになにー? えっと『【悲報】ユリスタシア男爵領、多種族からの侵略の危機』……あー、だろうね」
天使ちゃんはまとめ記事を見て炎上内容を理解した。
大まかに言えば『ニャンズホールがあるユリスタシア領の支配を狙って、亜人や精霊、さらには他の貴族達が攻め込んでくるのでは』と不安がっているらしい。
後ろからママンも参入してくる。
「ナターシャちゃんどうしたの?」
「ああいや、お母さん。どうも『ニャンズホールの影響でウチの領地がヤバい』って視聴者さんが怯えてる感じ」
「あらあらまぁまぁ」
母はいつもどおりの反応を示した。
領主の妻らしく落ち着いている。
コメントは当然のように[あらあらじゃないって!]と突っ込んだり[ここまで綺麗なあらあらムーブ初めて見た]などと言っていた。
最後に、全ての事情を聞いたリズールが参加した。
『視聴者様に説明が必要ですか?』
「んー、まぁやっておこうか。とりあえずリビングに行こう」
『承知しました』
全員でリビングに移動する。
◇
そこからリズールによる説明がなされた。
彼女からは『ユリスタシア領に侵攻や侵犯が起きる可能性があるのは分かっている』こと、その上で『退去勧告後も返答もせずに無断占拠する場合は強制排除し、対話に応じる種族にのみ居住権を与えるつもりだ』ということが伝えられた。
コメントは[居住権を与えるのは良いけど、のちのち土地の所有権で揉めるのでは?]と言われたが、『土地の所有権は全てユリスタシア家にあり、文句があるならば奪い取ってみせろと宣言する』と返答したことで。
「また私のアカウント燃えてる……」
『どうしてでしょうか?』
本日二度目となる炎上を起こした。
ナターシャのアカウントに[#戦争反対]というタグをつけたコメントが多数寄せられる。
リズールはふたたび配信上で弁明した。
『平和を愛する皆様のお気持ちは分かりますが、この異世界では、まだ武力こそが正義なのです。力なき者はただ奪われるだけなのです。ご理解とご協力をお願いします』
[ひぃ!?]
[また戦争が起こるの!?]
[戦争の時間だああああ!!!!!!]
「あっ……」
「りずっち天才では?」
そしてその発言は三度目の炎上を引き起こした。
ナターシャはSNSで謝罪コメントを出し、別枠での謝罪会見を放送する羽目になった。
生放送の題名は[我が家の魔導書が未来を見通しすぎてしまってごめんなさい]だった。
◇
会見終了後のリズールは物凄く落ち込んでいた。
かなりショックを受けたのか、リビングのモニター横に体育座りしている。
目も若干潤んでいる。
『私はただユリスタシア家の未来を思って言っただけです……間違ったことは……』
「うんうん、間違ってないよ。みんなとはちょっと感性が合わなかっただけだから。異世界の事情を受け入れてもらうには時間がかかるから、今回の反応はしょうがないよ。元気だして?」
『はい……大衆の理解を得るには、相応の時間がかかりますよね……』
「それに大元の原因は私が配信を切り忘れたせいだから、リズールのせいじゃないよ。ごめんねリズール」
『はい……』
ナターシャに慰められて、多少は自己肯定感が戻ったようだ。
しかしやはり、『大多数が同時に非難することで、当事者の反論が意見少数となり、受け入れられなくなるSNSの大炎上』からの『強制謝罪会見』で受けた精神ダメージは深いようで。
完全復帰には時間がかかりそうだ。
恐るべし大衆パワー。
「『インターネットとは人類が生み出した最初で最後の魔法技術であり、無垢なる大衆が使用した場合は核よりも恐ろしい武器となる』……いやぁ、現代とは恐ろしい世だねなっちゃん」
「たしかにそうかもね」
天使ちゃんの言葉を、リズールのそばに座ったまま返答した。
「ちなみにそれって誰の名言?」
「天使ちゃんの名言!」
「へぇー」
『記録しておきます……』
「いやしなくていいよ!?」
ナターシャが突っ込んだところで夕食の時間になる。
ママンがキッチンから食事を運んできたのだ。
「ただいま帰りました~!」
「ただいまー」
「あ、二人ともおかえりー!」
クレフォリアとエリーナも丁度いいタイミングで帰還してきた。
後ろには斬鬼丸とシュトルムが続く。
「ふふっ、帰還したぞ!」
「同じく」
何やらシュトルムの機嫌がよくなっている。
「シュトルムどうしたの?」
「何がだ?」
「機嫌いいじゃん」
「フッ――聞いたぞジークリンデ。深淵の門を開いたらしいな!」
彼女はゆっくりと腕を組み、満面の笑みを浮かべて答えた。
昼過ぎとは打って変わって神対応だ。
まぁ、開いたのは私じゃないってのは置いといて。
神対応には神対応で返すのが礼儀だ。
「確かに開いちゃったね」
「しかし、良いのか? このまま残しておけば戦争の火種になるぞ?」
「ノーコメント。ま、領地のために必要だし、時にはやるしかないってことだよ」
「クク、やはり性根は変わらないということか。それでこそ――いや、これは最重要機密事項だったな。忘れてくれ」
「……」
少し意味ありげに目線を反らして、無言で返答した。
これは私が、現在進行系で抱えている中二病――完全なる黒歴史である秘密結社【暗黒の月曜日】の組織の長としての強者ムーブだ。
こうして本気で構成員を演じてる人材は、今のところ私とシュトルムだけだけどね。
他の人材は単なる『社会奉仕団体』的な感覚でやっている。
「「――全ては、運命に抗う人々のために。ル・メンダス・リスティータ」」
会話終わりに、特に意味のない言葉も呟きつつ。
「さ、みんなで席に座って夕食を食べましょう!」
「「「はーい」」」
母に促されて席に座った。
今日はこのまま風呂に入って寝るだけだ。
フォリア監督たちは明日から探そう。
次話は6月5日、午後11時~0時です。




