ep12:ナターシャ領主代行、当然の如く緊急招集される
どうせ空を見ることしか出来ないなら、ということで。
みんなであぐらを組み。
「目が閉じちゃう……」
「否、閉じても良し。大事なのは精神のしがらみを取り払うこと故」
「分かった」
「そう、そのまま深く長い呼吸を続けるであります」
「うん」
「ん、ねむい……」
「クレフォリア殿、寝てはならぬ」
斬鬼丸に瞑想の方法を教わりながら。
神聖なるネコの霊気、いわゆるフォース的な物を感じてみようと試していた。
「さぁナターシャ殿。この膨大な霊気を感じるでありますか?」
「全然分かんない」
ただ残念なことに。
スピリチュアル的なサムシングにはぜんぜん強くない。
普通にあぐらを組んで向かい合ってるだけだった。
ちなみにイルミニャティ愛好家の方々は、
「仲間にこの事を伝えなければ!」
「ああ、急ぎ帰ろう!」
と言って姿を消した。
元の場所に帰ったようだ。
「ニャハハー……ま、どうとでもなれニャ……」
始祖となったニャトさんは半分やけくそで瞑想していた。
もう半分では、いかにして儲けようか考えている。
そこにお迎えがやってきた。
『なっちゃーん! 会議ですよ会議ー!』
天使ちゃんだった。
彼女はメチャクチャ綺麗なスプリントフォームでここまで来ると。
「さぁ行きますよ、なっちゃん領主代行!」
「うん知ってた」
ガバッ、と私を持ち上げた。
そのまま脇に抱えられる。
自宅まで連行されるようだ。
しかし座ったままの斬鬼丸が手で静止した。
「待たれよアーミラル殿」
「何ですかい、ざんきっち!」
「今回の主犯はニャト殿故、彼も連れていくであります」
「ニャ!?」
「了解連行します!」
「ギニャ――!」
ニャトさんも脇に抱えられて。
自宅まで連行される運びになった。
道中。不服なのか、彼はとても暴れる。
「やめるニャー! ニャトはペットや荷物じゃ無いニャー!」
「あはは、変に暴れると体を痛めるよニャトさん」
「ナターシャさんは何で平然としてるニャ!?」
「慣れてますから」
「慣れてる!?」
驚いて毛が逆立つニャト。
ま、伊達に連行され慣れてませんので。
トラブルメーカーズと関わるということはそういうことです。
すると実家が見えてきた。
天使ちゃんが叫ぶ。
「開けゴマ――ッ!」
昔なつかしの扉を開ける呪文によって。
バァン、ダァン!と庭の出入り柵と玄関が開き。
天使ちゃんは誰にも邪魔をされずに自宅内に入った。
「ただいまー!」
『おかえりなさーい!』
どこかからママンの声がした。
多分だけど書斎だ。
しかし天使ちゃんは一旦リビング前で急停止。
くるっと横を向いて二人を開放した。
「お届け物でーす!」
「フギャッ……」
「ぐふっ……」
だが勢いは消えてなかった。
リビングの床をゴロゴロと転がされる。
これには流石のニャトさんもキレた。
「ピンク髪の人! ニャトに酷いことしないでニャ!」
「あ、ごめんね? お詫びに綺麗にしてあげる。【詠唱破棄】――【神癒息吹】、【全身洗浄】」
「ニャ!?」
天使ちゃんは謝罪として、高位回復魔法と洗浄魔法を使用した。
まずは高位回復魔法の効果か。
全身の筋肉痛や肌荒れの修復、換毛が促進され。
最後は洗浄魔法でニャトの全身から。
汚れや残っていた煤、抜け毛が全て消え去り。
「フニャア~」
理由は不明だが疲労や倦怠感がポンと抜けた顔をした。
いやあかんてその顔は。
肩を持って揺さぶる。
「ニャトさん、ニャトさん!」
「――ハニャッ」
よし、何とか呼び戻せた。
「な、なんだか物凄い多幸感に包まれていたニャ……」
「え、あっ、ニャトさんごめん! 今のは天使ちゃんの魔力が神聖すぎたせいかも!」
「いやそれについては許すから良いニャ。まずは待ち人さんに事情を説明するのが先だニャ」
ニャトが見た先には。
眉間を摘まんでいるリズールがいた。
彼女は考え込んでいるのか。
とても難しい顔をしている。
少しして、ようやく重い口を開いた。
『ええと、何が起こったのか説明して下さい』
「分かったニャ。ナターシャさん、証人を頼むニャ」
「うん」
ニャトさんと共に、見たままのことを話す。
◇
『――ええと、つまり。
何か強大な力が働いたのか。
猫脈が本当に発現して、このユリスタシア領と接続。
神龍クラスの膨大な霊気を発生させる、
いわゆる神龍穴と似たような気場が開いた……
という認識で良いのですね?』
「そうニャ」
「そうそう」
『私のデータにもない事象です……』
リズールは肩を落とし、大きなため息をついた。
ショックなのか、はたまた考えすぎてオーバーヒートしたのか。
心配になったので調子を尋ねる。
「リズール、大丈夫?」
『いえ、世界の広さを再び思い知らされただけですのでご安心を』
「そ、そうなんだ」
リズールにも知らないことがあるんだなぁ。
『ですが、大体の事情は分かりました。我が盟主は書斎へ』
「はーい」
私はいさぎよく書斎へと向かった。
緊急会議を開かざるを得ない状況だからね。
次はニャトに声がかかる。
『ニャト様はご自由にどうぞ……と言いたい所ですが』
「何かニャ?」
リズールは軽く思案したあと。
こう聞いた。
『単刀直入に聞きます。あの霊気を操れますか?』
「無理だニャ。ニャトの器じゃ耐え切れなくて爆発したばかりニャ」
『なるほど……分かりました。ご自由にどうぞ』
「感謝するニャ。ふぅ……」
ニャトは安堵のため息をついた。
また爆発するなんて、どう考えても願い下げだからだ。
なので、最後に目が向けられたのは。
『ではアーミラル様、書斎へ』
「え!?」
天使ちゃんだった。
霊気の操作係に選ばれたのだ。
彼女はとても嬉しそうな顔で聞き返す。
「天使ちゃんも参加して良いの!?」
『他に適任者が居ませんから』
「やったー!」
天使ちゃんは喜んで書斎へと向かった。
リズールとニャトだけがリビングに残る。
先に口を開いたのはニャトだった。
「リズールさん」
『なんでしょうか?』
「謝罪と盟約の印としてこれを渡しておくニャ」
ニャトは胸元に手を突っ込むと。
猫の瞳のように輝く黄金色の宝石――クリソベリルキャッツアイが付いた聖銀の指輪を取り出した。
リズールには見覚えがあった。
『それはまさか……』
「うニャン。ケットシー王国への永久招待権――通称は『ファザー・ガッドの指環』ニャ。有事になったら使って欲しいニャ」
『分かりました。ありがたく受け取ります』
彼女は受け取ると、ニャトと同じように胸元――を通り越して体内に取り込んだ。
ゴーレムだからこそ出来る芸当である。
指輪を渡したニャトは家の外に向かった。
「じゃ、今日はもう帰るニャ。また来るニャー」
『またお越しください』
深く頭を下げて見送るリズール。
玄関が閉まる音がした。
『さて、ここからですね』
気持ちを切り替えた彼女は、早足で書斎へと移動する。
次話は6月3日、午後11時~0時です。




