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名前のない神様  作者: 春クジラ
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もう一人の付喪神

小さな部屋に私はいた。実家の自分の部屋だと瞬時に分かった。私は机に向かって一生懸命何かを書いている。壁にあるカレンダーには、学期末試験までの勉強スケジュールが書き込まれている。


部屋の扉から母が顔を出したので、私は冷静を装い手元を隠した。


母が外出すると言うので、私は返事を返す。

母の足音が遠ざかる。階段を降りていく気配を感じ取ってから、私は息を吐いた。手元には、参考書と広げたノート。その下には、原稿用紙がある。


安堵した私は、原稿用紙にペンを走らせた。


「何やってるのユズハ」


耳元で母の声が聞こえた。


「またこんな下らないもの書いて! 試験勉強に集中しなさいって言ってるでしょ! 」


いつの間にか母が背後にいた。原稿用紙は取り上げられ、母の手に握られた。


「やめて! 返してよ! 」


取り返そうと必死に手を伸ばすも、一歩及ばなかった。原稿用紙を持った母は、そのまま部屋から出ていってしまった。


母を追いかけようと扉を開けて飛び込む。私は立ち止まった。そこは家の廊下ではない見慣れた場所だったからだ。


「ねぇ寺崎ぃ」


バイト先の同期が笑いながら、こちらに歩み寄ってきた。


「延岡がまたミスしてんの、やることも遅ぇし本当いい加減にしろよって思うよね」


そこは、バイト先の休憩室だった。


「でも、延岡君だって努力してるし頑張ってるんだから。そうやって頭ごなしに否定するのよくないと思うよ」


そう言うと、同期が舌打ちする。ぼそっと何か言ったが聞き取れなかった。







水面に浮き上がる様に意識を浮上させる。

見慣れた天井。誰かに頭を撫でられている。


「ユズハ、ユズハ大丈夫? 」


ルイ君が、心配そうな顔をしながらこちらを覗き込んでいた。ルイ君に頭を撫でられている。


「昔の夢見てた……」


「昔の夢……? 」


「うん……いやな夢……」


不意に目元を触る。そこで、泣いていた事に初めて気づいた。










「エミ。お母さん仕事行ってくるから、お留守番よろしくね」


お母さんは仕事のバックを持って、わたしに言った。


わたしは口を結んだまま、鏡台の前で髪をとかす。


「何があったか分からないけど、お母さん無理して学校行けなんて言わないから。良い子でお留守番してるんだよ」


お母さんの言葉がじんわりと胸の中に溶けていったのと同時に、たくや君達の笑った顔が頭に浮かんで、目から涙が溢れた。


お母さんが歩いてくる音がする。お母さんの手が、わたしの頭を撫でた。


「言いたくなったら、お母さんいつでも聞くからね」





階段を降りていく足音を聞いてから、わたしは椅子から降りて窓から外を覗いた。



お母さんが車に乗って出ていくのを、わたしはずっと見ていた。


休むって言うの緊張したけど、お母さん怒らなかったな。でも、いつかは学校に行かなくちゃいけない。


「学校行くのやだなぁ……」


わたしは大きなため息をついて、家の前の道路を眺めていた。宿題は昨日の内に終わらせちゃったから、今日は特にすることもなくて暇なんだよね。


車、人、自転車、人、車━━



自分の部屋の窓から前の道は良く見えるので、この場所はお気に入りなんだ。わたしは、両手を組んでそこに顎を乗せる。家の前を通り過ぎていくものを心の中で唱えていた。


車、車、バイク、人、ペンギン、車━━


ん?





「ペンギン!? 」





わたしは驚いて椅子から立ち上がっちゃった。











「全然見つからない……」


ルイ君がぽつりと呟く。月曜日の昼間。私とルイ君とクロウさんは、駅前広場にあるベンチに座っていた。


「もう粗方探したよなぁ。これ以上目ぼしい場所ってあるか? 」


クロウさんも不貞腐れるようにぼやく。


私達はルイ君の主を探すため街中を歩き回っていた。


現時点での手掛かりは、いつかのビルでルイ君が言っていた四角い形をした「何か」のみ。


付喪神は長い年月をかけた物に宿る。と言う事なので、私達は午前中から骨董品店やフリーマーケット、リサイクルショップなどを回っていた。


「こうも手掛かり無いと、ルイ君の主見つけるの一体何年後になっちゃうのって感じよね……」


私は肩を落とす。


「そう言えば、モモは見つかったのかなぁ? 」


「桃? 」


私はルイ君の言葉に首を傾げた。


「あいつと別れてからどんくらい経ったか分からねぇから何とも言えねぇが、会えてたら良いな」


クロウさんとルイ君が話しているのを見て私は少し頬を膨らませる。


「ちょっと、何の話してるの? 私にも教えてよ」


「僕たちが下界に降りて来た時に、初めて会った付喪神だよ。モモって言うんだ」


「そいつも俺達みたいに主を探してるって言ってた」


二人は顔を見合わせて懐かしいね、と話していた。


「そう言えば、僕らのことをずっと見ることができる人間を探せば、その人は力強い味方になってくれるってモモから教えてもらったよね」


「それって私のこと? 」


私はいたずらっぽい笑みを浮かべて二人を見た。力強い味方だなんて嬉しいことを言ってくれるなぁ。


「現時点では、あまり感じねぇがな」


「何ですって!? 」


クロウさんの呆れるような口ぶりに、私は思わず椅子から立ち上がる。


「二人ともケンカしないで! クロウもユズハにそんなこと言わないの」


小学校中学年くらいの姿のルイ君に宥められる烏と女子大生。


私は少し恥ずかしくなり、すとんと椅子に座り直した。


私は駅前にある時計台をちらりと見る。


「わっもうお昼!? 」


私は再び立ち上がる。時刻は13時になろうとしているところだった。


「みんなお腹空いたでしょ。一旦帰ろうか 」


私は二人に向き直る。二人も頷いたので主、器探しは一旦休憩。




その帰り道での事だった。



家に帰る途中、街路樹が立ち並ぶ住宅街を通る。そこに一人の女の子が座り込んでいたのだ。


こちらを向いていて何か黒いものを抱き抱えている。遠目からでは、何をしているのか分からなかった。


少しずつ近付いて行くと、突然ルイ君が駆け出した。気付くとクロウさんも羽ばたいて女の子に向かっていっていた。


「ちょっと何!? 」


私は、訳が分からないまま二人の後に続く。


「「モモ!」」



「大丈夫!? 」

「お前ここで何やってんだよ? 」


二人の声が響く。


「うわっ!? あなた達誰? 」


女の子が驚いた顔でこちらを見ていた。



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