5 ペアマグカップ
家に帰ってきて、俺とみくるはすぐにカレー作りに着手した。
もう二人で料理することは慣れているため、連携はばっちり。まさに阿吽の呼吸。
テキパキと夕飯の準備はされ、リビングのダイニングテーブルでそれを食べる。
その間に特にこれと言って話すことはなく、いつも通りの日常を過ごした。
洗い物を済ませたのはおよそ21時。そこからはみくるお待ちかねのドラマタイムである。
「俺の部屋で見なくてもよかったのか? 今日は妹軍団いないけど」
「大丈夫。それに、たまには大きなテレビでドラマ見たいしね」
確かに俺の部屋にあるテレビは、リビングにあるテレビよりも一回り小さい。
しかしその小ささがいいんだと言っていたのはみくるだった気がするんだけど……まぁいいか。
乙女心は秋の空、と言うしな。うん、違うか。
「なんか飲み物でも出すか?」
「うーん……じゃあ私コーヒー飲もうかな」
「おっけい」
ソファに沈んでいた体を起こして、キッチンに向かう。
俺もコーヒーにしようと思って、二つのマグカップを探すのだが……なぜか見つからない。
「……マグカップどこだ?」
「ちょっとえいちゃん、自分の家でしょ? しっかりしてよねー」
「す、すみません」
はぁ、とため息をついて、みくるが棚からマグカップを二つ取り出す。
このマグカップは一年前、なぜか急に水族館に行きたいとみくるがごねた時に、水族館で買ったマグカップだった。
白と黒の色違いで、キュートなペンギンがプリントされているやつ。
「はいこれこれ」
「ありがと。ほんじゃあソファに座って待っててくれ」
「もう立っちゃったから手伝うよ」
「ほんと、すみません」
「謝んなくていいってー」
いや、ほんといつもすみません。
俺の抜けてるとこ、修正してくれてどうもありがとう。
そう心の中では何度も呟く俺だった。
***
現在私、芹沢加奈は友達の海の家で女子会中であります!
海の部屋は、海の見た目通りにボーイッシュな感じかなと思ったら全然そんなことはなく、ほんとピンク。ベッドも枕も布団も机も……全部ピンク。
いや女子かっ! いや、ほんとに女子なんだけどね。
「それにしても、お兄さんとみくる先輩はほんと仲いいよね。スーパーで買い物してるとか、夫婦だって疑っちゃうくらいだし」
「ほんとそれなー」
話は体育祭の話からお兄ちゃんとみくちゃんの話へ。
我ながら女子高校生らしく、ピンク色の話をしているなと思って、テンション上がってきちゃった。
「まぁお兄ちゃんとみくちゃんは幼馴染だからねぇ。多分お互い好意はあると思うんだけど……」
「「「あると思うんだけど?」」」
「幼馴染ゆえに拗らせてるカンジ?」
「「「あぁー」」」
仲いいな私たち。
我ながらにそう思ってしまう。
「幼馴染でそんなに仲良くなるかなあ。私異性の幼馴染いるけど、全然仲良くないよお~」
「そういえば花、私たちのクラスに幼馴染いるって言ってたね。いつも教室の端で本読んでる、えーっと……」
海が頑張って名前を思い出そうとするも、出てこない様子。
それに私たちのクラスの学級委員である舞がフォロー。
「弁天瑞希君でしょ?」
「あーそれそれ。その人だった」
「あぁー思い出した! 私のハンカチ拾ってくれた人じゃん!」
つい最近、私が落としたハンカチを弁天君が拾ってくれたのを思い出す。
特徴は……眼鏡かけてて、前髪長い……かな。あれ、私クラスメイトのこと意外に知らないのかも。
これはよくない。
「それが私の幼馴染だよ~。見るからに根暗でしょ? ずっと家でアニメ見たり漫画読んだりしてるの。私が話しかけても「おう」か「へぇー」しか言わないし……むか。なんだか腹が立ってきたぞ!」
「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて。ひとまず飲みましょ飲みましょ!」
「……お、おうよ! ぐびぐび……かはぁーうまい!」
「じじくさいよ、花……」
花は雰囲気に酔っているのか、若干頬が紅潮している。
ちなみに私も、体ポカポカでございます。
女子会最高に楽しいなあ。
「だからこそ、あの二人が特殊だと思うんだよねぇ~。それで付き合ってないとか、ほんと拗らせてるなあ」
「たぶんお兄さんがそういうのに疎いと思うんだよね。みくる先輩はたぶん自分の気持ちに気づいているけど、その気持ちを伝えてない……みたいな?」
「あぁー確かに。お兄ちゃん好きな人いたことないらしいしー」
「もはや一緒にいるのが普通だから、恋人になることを考えてないんじゃない? 普通に平然とお揃いのマグカップとかを使ってそうだし……」
「「「た、確かに……」」」
海の意見に満場一致。
そういえばたまに、ペンギンのマグカップを使ってる二人を見ている気がするし。
そうなると、あの二人の恋が始まるのはまだ先な気がしてきた……
「ほんと、見てる側の気持ちも考えてほしいよねぇ」
「まぁこれはこれで、珍しくて私は見てて楽しっ!」
「「「わかる」」」
ってなわけで、今日も今日とて女子会は、息ぴったりでつつがなく行われるのでした。
——その頃、英二みくるペアは
「うぐっ、うぐっ」
「お前泣きすぎだって」
「だってぇ……だってぇ……やっと主人公とヒロインが結ばれたんだもん」
「感情移入しすぎだろ……」
「うぅー……えいちゃーん!」
「ちょ、バカおいみくる抱き着くなって! 服が涙で——」
「うわぁぁぁ‼」
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今日19時か21時にもう一話投稿しますので、ぜひ見てくださいね!