第8話 竹槍を手に立ち上がれ農民
フルミとオーロックはにらみ合っていた。
数日経った、謁見の間のことである。
謁見の間に現れたオーロックは、フルミをぎろりとにらむ。フルミもそれを受けていた。
「……ええと。フルミ様。本日は、先日の返答をしに参りました」
リカルドが頭を下げる。
オーロックと、脳内でやり合っていたフルミは、それに気がついて、顎を引いた。
「聞こうじゃないかえ」
「我々としても、風の女神フルミ様が同行してくれるというのは心強く、また、勇者オーロックの暴走を止めてくださるのも、フルミ様におかれましてはありがたいことで……」
「つまり? 」
「一緒に来てください、本当に。ありがとうございます」
リカルドも、勇者オーロックにはほとほと手を焼いているらしい。
フルミとオーロックとの一戦を見たのか聞いたのか定かではないが、とりあえずはフルミをオーロックの抑止力として採用することにしたようだ。
「ふん。だろうね。出発は? いつここを発つんだい? 」
「3日後です。旅をするには、準備もありますので。ここ、アルデナから馬車で炎の街デニールを目指すこととなります。……しかし、フルミ様には、少々辛い旅となるかもしれませんが……」
「ふん、あたしの今の姿をごらんよ。10代前半のぴっちぴちのロリっ子だよお!? 旅に耐えられる体は持ってるさ! 」
「……ははっ……」
リカルドは、軽く頭を下げて、フルミの言葉を肯定した。
いや、肯定せざるを得なかったのかもしれないが。
「……私からもよろしいでしょうか? 」
フルミの巫女、ミドゥリが挙手する。
リカルドは、再び肯定した。
「フルミ様。旅の間は、この私のサポートを受けることができます。ただし、この情報端末から発せられるだけなので、声が聞こえる範囲内で、ですが」
そう言って、ミドゥリは、毛玉のまんじゅうのに羽根が生えたような生き物を取り出してみせる。
フルミは、がたんと玉座を立った。
「明智十兵衛光秀ええええ!! 」
「……ええ。同じ端末ですが」
「明智十兵衛光秀は、こんなところにいたのかい! 最近見ないから、おばあちゃん心配してたんだよお! 元気かい? よかったねえ! 」
「……フルミ様。これは情報端末ですので。もちろん、他の国や街でも、買って付ければ、同じように使うことができます」
「あ、明智十兵衛光秀の代わりがいるのかい!? おばあちゃん、『私の代わりはいるもの』的な使い方は反対だよ!? あ、綾波は綾波一人なんだよ!? 」
「すみません、全く何のことかわかりませんが」
そして、ミドゥリは、少しためらってから、「しかし」と言葉を続ける。
「フルミ様の武器ですが……本当にこんなものでよろしいのですか? 」
「ほう、フルミ様の武器? 」
リカルドが、興味を持ったように続ける。ミドゥリは、首肯して、がちゃりとその「武器」を出して見せた。
「……何ですかな? 私の目がおかしいのですかな? 」
リカルドが、目をしばたかせて言う。
それもそのはず。
フルミの「武器」は、竹で作られた、ただの筒であったのだ。
「……あ、ロッド(杖)ですかな!? なるほど、フルミ様は魔法攻撃がお得意で!? いや、回復・バフ系かもしれませんな!? ははは、頼もしい!! 」
「……リカルド。あれは本当に、フルミ婆様の竹筒だ」
オーロックが、ようやく声を発したと思ったら、そんな物騒な話を始める。
「そうだよお。皆は、『竹槍』って知ってるかね?」
フルミの言葉に、一同はその竹筒に注目する。
確かに、先が槍のように尖ってはいたが、これでモンスターを倒すというのは、かなり無理があるだろう。
「あ、あたしは、刀とか、斧とか弓とかは、持ったことがないからねえ! この、竹槍しか持ったことがないんだよ!! 鬼畜米英!! 欲しがりません勝つまでは!! 竹槍で飛行機も落としてみせるんだよお!! 」
「……なんだかわからないが、かなり酷い武器だけはわかった」
オーロックがそう言って、ため息をつく。
リカルドは、おろおろと目玉を白黒させていたが、「……フルミ様の武器は、こちらでできる限りはご用意させていただきます」としか言えなかった。
「はあ。しかし、この竹槍は、ただの竹槍ではありません」
ミドゥリが、発言する。
一同の視線が、ミドゥリへと移った。
「この竹は、風の神殿の裏側に生えているもので、『風の女神フルミ』の加護を一身に浴びた竹で作られています。また、この竹の中から赤子が出現したという逸話も残されており、その赤子がこの風の女神フルミ様であるという話もあるのです」
「つまり、マジック・アイテムの類いだと? 」
リカルドが、そうミドゥリに聞く。
ミドゥリは、こくりとうなずいた。
「どっちにせよ、ただの竹ではありません。その竹で作られた竹槍、ということでご納得いただける武器かと存じます」
「ほお。俺にはただの竹にしか思えんがな」
オーロックが、後ろ手に手を組んで、面倒そうに肩を回しながら言う。
そんなオーロックを、「オーロック! 」と、リカルドがたしなめた。
「そういうことだねえ! おばあちゃんも、伊達に昭和を生きていたわけじゃないんだよ!! 」
しかし、フルミとミドゥリを除く全員が、『昭和って何だ? 』と疑問符を浮かべていた。