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第7話 最低勇者と女神フルミ

「ふぐうっ……! ぐっ……! うぐっ……! 」


 赤毛の、勇者の巨体が崩れ落ちる。

 フルミの華奢な体から繰り出された一撃に、オーロックは悶絶した。


 股間を押さえ、滝のような脂汗を流しながらうずくまる。

 解放された嬢が、げほげほとせきをしながら泣き出した。


「あ、お、オーロック様……? い、いや、ミーシャちゃん……? 」

 店員の男は、どっちを介抱すれば良いか、オロオロと迷っているようだった。


「はあ……。情けないねえ……。男ってやつは、弱点を晒しながら生きてるんだから、いついかなる時も、そこを守らなきゃならないもんだよ」

「フルミ様、ここは風俗店ですから、弱点を晒しているのは当然かと……」


 と、ミドゥリが囁く。

 フルミは、その言葉に返事をする間もなく、オーロックの巨体の後ろ襟をつかんで、ずるずると引きずった。


「あ、金は前金かい? 後払いかい? 」

「あ、ええ。前金です。もう支払い済みです」

「そりゃ良かった。この男は連れて行くよ。さあ、お客様のお帰りだ!! 」


 華奢で、一見すると子供のようなフルミが、オーロックの巨体を引きずるその様は、騒ぎを聞きつけた他の客の目に留まることとなった。

 しかし、オーロックがなんとか回復し、「見世物じゃないぞ!! 」と怒鳴ると、男たちはさっと目をそらす。


「よっと! 」

 オーロックを裏路地に投げ出し、フルミは腰に手を当てた。

 ミドゥリが、その後ろから、ハラハラと二人を眺める。


「本番NGの店で、本番強要……これが『勇者オーロック』かい……情けないねえ……おばあちゃんは、本当に情けないよ……」

 フルミは、そう言って、頭を片手で抑える。

 オーロックが、殺気をまといながら、ゆらりと起き上がった。


「誰かと思えば、『女神フルミ』様か……」

「そうだよ。あたしだよ」

「いくら、フルミ様といえど、俺を侮辱した罪は重い……! 」

「そうかい。それじゃ、どうするんだい? 」

「斬る」


 そう言い放ったかと思うと、オーロックは疾風のようにフルミに向かって投げナイフを投擲した。


「……はあ」


 フルミはため息をつき、ぴくりとも動かない。

 ナイフは、まるで手品のように、フルミの目前で止まる。

 そして、ばらりと落ちた。


「ウィンド・シールドだよ」

「はっ! 初級中の初級魔法とは、俺も舐められたものだな……! 」


 オーロックが、背中から大剣を抜いた。

 そして、「はあっ!! 」と声を上げて、フルミに斬りかかる。


「フルミ様……!アーク・シールド……!」

「いや。必要ない。ミドリちゃんは、付き添いだよ。そこで見てな」

「しかし! 」

「女神の命令が聞こえないかい? 」


 そこまで言われて、ミドゥリは編み出した魔術の構成を解く。

 というのも、斬りかかるオーロックの刃は、その間にも、フルミの肌一つ傷付けていないからだ。


 オーロックが、はあはあと息を荒げて、大剣を持ち替える。

 左手に替えられたそれを、フルミの体に叩きつけた。


「……まだわからないのかい。あんたは今、『この程度』なんだよ」

「……っ! 」


 オーロックは、しゃにむに刃を繰り出すが、フルミは呑気に小指で耳を掻きつつ、片手で「ウィンド・シールド」をかけ直す程度である。


 そのうち、オーロックの体力が尽きた。


「はあっ……はあっ……はあっ……! くそ……! 」

「その程度だよ、オーロック。あんたは、女神には傷一つつけられない。あんたは、『その程度の男』だ」


 オーロックも、それをわかっていたのか、悔しげにフルミを睨んだ。


「ならば……! 」

 オーロックが、息を荒げながら、フルミに言葉をぶつける。


「ならば何故、神々は自分で人間を救わない……!? 何故、辺境の出である俺たちを『勇者』に仕立て上げて、魔王を倒そうと……いや、倒させようとした……!? お前たち神々は、高みの見物だったじゃないか……!! 」

「ん? んー……言われてみればそうだね? 」


 フルミのその言葉に、ミドゥリも、オーロックも、軽く目を見開く。

 今までの神々というのは、フルミのような言動をすることなどなかったのだ。


「そう言われればそうかもしれないねえ。つまり、あんたはこう言いたいわけだ。『この私が、直々に最前線に出れば、勇者など必要なかった』と」

「……いや……そこまでは言っていないが……」

「いいよ。じゃあ、おばあちゃんは、次に会うまでに、その答えを考えようじゃないかい。どんな答えが出るか、楽しみだねえ! 」

「だから、そこまでしろとは言っていないが……聞いているのか……? 」


 呆然とするオーロックに、やはり呆然とそのやりとりを見ていたミドゥリが駆け寄り、囁く。


「フルミ様が話が通じる女神だと思わない方が良いですよ。私ですら、この女神様には勝てたためしがない」


 オーロックは、そんなミドゥリに目をやると、再びフルミを、どこか恐怖の混じった目で見た。


「この時代において、勇者不要論かい! そいつは傑作じゃないか! 勇者は不要! そして神々は必要だ! 」


 フルミはそう高々に宣言すると、オーロックの取り落とした大剣を取り、天に掲げる。


「女神フルミこそ、次世代の勇者だよお!! 」

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