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第6話 歓楽街にて

 夜のアルデナ。

 酒場に、ストリップ小屋に、風俗店の、どぎついピンクや水色のネオンが光る。

 いわゆる、ここは歓楽街であった。


「……フルミ様。本当にここにいるのですか?」

 顔の輪郭をすっぽりと覆う、長いローブ姿の女性が2人、その道を歩いていた。

 

 大声を上げてさまよう酔っ払いや、風俗嬢を見繕うニヤニヤとしたいやらしい目。

 その、人間の欲の洪水を尻目に、「フルミ」と呼ばれた、背の低い、痩せた女がうなずく。

 よく見れば上等な黒の布を使ったローブに身を包んでいるとはいえ、明らかにその姿は少女だ。


「ああいう男の考えることは現実と一緒だよ。いや、男って奴は、とにかく『種をまきたがる』からねえ。うちのじいさんも一回……いや、今考えればこそこそ隠れてこういう店に通ってたのかもねえ。あたしゃまだ若かったから、そういうのが許せない時期もあったんだよお」

「女性は皆、そんなものでしょう。しかし……仮にも、一度は『勇者』と呼ばれ、世界を救ったはずの男性が……こんな……」

「勇者、だからさ。『英雄色を好む』ってことだよ」

「はあ……そうですか……」


 女神フルミと、その巫女ミドゥリは、喧噪に消えないくらいの声で会話する。


「しかし、何故、その……『本番行為』をする高級店ではないのですか? ここは、場末の性的サービス……たとえば、オーラルや素手、または擬似本番行為をする店ばかりが並んでいて、料金は確かに安価ですが、とてもあの勇者が満足できるような店ではないはずです」

「そういう男なのさ、あの勇者は。さて、あたしが見た限りでは……あの店だね! 」


 フルミは、一軒の店の扉を開け、ずんずんと中に入っていく。


「フルミ様……! ああもう……! 」

 フルミのその怖じ気づくことのない行動に、ミドゥリは一瞬ためらったが、すぐにフルミの後を追った。




――

 店の中には、数人の男が思い思いに過ごしている。

 低俗なゴシップ誌を読む男、ただ虚空を見つめる男、貧乏揺すりをしながら腕を組む男……。


 店に入ったフルミたちを見て、慌てて店員らしき男が駆け寄ってくる。

 若いが、まるでホスト崩れのような男である。


「お嬢さんたち、ごめんね! この店は、女性にサービスはしないんだ! 」

「勇者・オーロックと話がしたいんだよ。奥にでもいるだろう? 」

「ゆ、勇者様と……!? 」


 店員は、さっと顔色を変えた。

 フルミは、軽くうなずいて、布製の仕切り一枚の奥をふいっと覗く。

 その奥には、3つほどの部屋があり、そこでサービスがされているようであった。


「教えてくれないのなら、全部の部屋をあらためるだけだよ。そういうことをしたら、クレームが来るだろう? もちろん、『人の口に戸は立てられず』、悪い噂だって流れるさ」

「あ、あの……あなた様は……? 」


 そこで、フルミが、店員にだけ見えるように、さっとローブのフードを軽くめくる。

 薄暗い照明でも、フルミの輝くような青い瞳と銀色の髪が見えた。


「あ! え! め、女神、フルミ様……!? うっそ、なんでこんなところに……!? 」

「フルミ様! 素顔は晒さないとおっしゃったではないですか……! 」


 店員の小さな叫びと同時に、ミドゥリがやはり小さく声を上げる。

 じろり、と、待合室の男たちが、フルミたちと店員を見やった。


 その視線に気付き、店員は慌ててミドゥリに「しー! 」と人差し指を立てる。

 男たちはまた、興味をなくしたようであったが、耳はおそらくフルミたちとの会話に注意している。


「あ、ああ……フルミ様……。そういうことですか……。なら、仕方ないですよね。俺の判断は間違ってない! 店長に怒られた際には、口添えをお願いしますよ……! 」

「あい、わかった。今、オーロックが何をしているのかだけ、確かめればそれで良いんだよ。まあ、どうせ、あたしが考えてることが正解だろうがね」


 そのまま、フルミたちは、店員の案内で、一番奥の扉の前に立った。


 しかし、その扉から、女性の悲鳴が聞こえる。


「……!! やっぱりだ!! 早くドアを開けな!! 」


 店員が、慌ててロックを解除すると同時に、その扉が開け放たれた。




 六畳ほどの狭さのしつないには、簡易的なベッドが置かれている。

 が、オーロックは、そこに寝てはいなかった。

 若い、肉感的な女性が一人、オーロックに、壁に張り付けられている。服はまだ脱いでおらず、襟を掴まれて、オーロックに壁沿いにつり上げられている状態である。

 その足下には、破かれたらしいショーツが落ちていた。


「!! お客様! うちは本番行為はNGでして……! 」

 店員はそう言って、オーロックと女の間に割り入ろうとするが、オーロックは手を緩めない。


「金は余分に払う。この女と寝させろ」

「そういう問題では……! 」

「助けて……!! 本番ありなんて聞いてないわよお……! 」

 

 女が、恐怖で、ついに涙を流す。

 オーロックは、やっと、扉の前のフルミたちを見た。


「おや。金は払っていないが、そういう趣向か。2人も女が来るとは」


 そう言うオーロックの元に、ツカツカとフルミが進み出た。

 


 ドゴオ!!



 そんな擬音が聞こえるほどに強く、フルミは女を押さえつけるオーロックの背後に立って、股下を蹴り上げたのだった。

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