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第5話 勇者と謁見

「あんたは『あの程度で』って思ってるかもしれないけどねえ! 女の子はずっと忘れられないんだよ! 気をつけな! 」


 そう言って、ぷいっと体を反転させると、フルミはツカツカと玉座に戻り、そこに腰掛けた。

 赤い髪の勇者は、そんなフルミを、半ば呆然と見やったが、すぐに我を取り戻す。


「ご無礼をお許しください、風の女神フルミ様。俺……私は、勇者オーロックと申します」


 勇者はそう言って、頭を下げた。

 つられて、3人の仲間もフルミに頭を下げる。


「謝るのはあたしじゃなくて突き飛ばした女の子にだけどねえ。……まあいいや。で、用件はなんだい? 」

 フルミは玉座の肘掛けに片肘を突いて、そこに頬を乗せる。

 足はぶらぶらとさせているし、とてもではないが『女神』といえる格好ではない。


 すると、勇者が下がり、背後にいた壮年の戦士が前に進み出た。

 どうやら、勇者はその性格から、交渉役ではないらしい。


「リカルドと申します。フルミ様、ごきげんうるわしく……」

「そりゃあもう聞いたよお」

 隣についているミドゥリは、「普段あれだけ同じことを言っているフルミ様が……」と内心思っていた。


「はい。我々は、一度魔王を倒した者ですが……どうやら最近、また封印された魔王の魂が活発になってきています」

「ほおお。『鉄は熱いうちに打て』ってやつだねえ」


 フルミは、行儀の悪い姿勢のまま、とん、とんと自分の頭を人差し指で軽く叩く。


「同時に、魔物たちもまた、活発化しており、近隣の町や村を襲う、という惨劇も再び起ころうとしています」

「なんだいなんだい、アールページーっぽくなってきたねえ! 」

「それは、RPGでは……? 」


 隣にいるミドゥリが、ぼそりと呟いた。

 ミドゥリも、風の神殿の巫女である。密かにフルミが梅沢キヌだったときの記憶にアクセスし、なんとか現在日本の知識を得たのである。要するにハッキングだが、ミドゥリは自分のしたことに後悔はなかった。


「つきましては、また、魔王退治にご助力を拝借したいのですが……。ただ……」

 そう言って、リカルドは、口ごもる。

 そして、呼吸をおいて、言った。


「他の属性の神殿の神々には、正式に協力を断られる結果となりました」


 勇者を除く、他の面々は、深くため息をついた。

 おそらくは、この勇者こそ、それの元凶である。


「……だろうねえ。だろうと思うよお」


 フルミでさえ、ため息をつくと、今度は玉座に座り直す。

 それを見て、リカルドが再び口を開いた。


「……つきましては、『風の女神』フルミ様におかれまして、どうかこの哀れな元勇者一行にお慈悲をかけていただけないでしょうか……? 」

「元勇者じゃなくて、現勇者だ。俺は勇者を辞めたつもりはない」


 オーロックがリカルドに向かってそう告げる。

 フルミは、面倒そうにその長い銀色の髪をもてあそび始めた。


「……そうかい。あんたらは、また戦いに行くわけだね? 」

「もちろん、そのつもりです。この世界と、この国を守るため……」

「謝礼金と、あとは戦いという甘美なる楽しみのためだ。それ以外に何の価値もない」


 オーロックが、口を挟む。

 リカルドは、オーロックの方を振り向いた。


「オーロック、いい加減にしないか! そんな態度だから、他の神々に見放されることになったんだぞ!? 」

「だが、俺がこういう性格だと、始めから見抜けなかった、間抜けな神々にも問題はあるのでは? なあ、フルミ様? 」


 オーロックはそう言って、フルミに視線を投じる。

 フルミは、指に髪をくるくるとまとわせて、あさっての方向を向いていた。


「……フルミ様! 」

 ミドゥリがフルミに声をかけると、フルミは、ようやく勇者を見る。


「オーロックといったかえ」

「はい。おしかりはちゃんと受けますとも」

「あんた、他の神様方に謝ってきな」


 フルミの言葉に、オーロックが片眉を上げる。


「嫌だと言ったら? 」

「じゃあ、あたしも協力しないよ。さっきから聞いてりゃ、なんだいその態度は。あんたの性格は、協力するに値しない。だけど……」

 と、フルミは、言葉を切った。


「ちゃんと迷惑かけた神様たちに謝って、ちゃんとできる子に、あたしが育て直すことはできる。ばあちゃんが育て直してやるよ、オーロック」


 ……その、瞬間だった。

 おもしろくなさそうな顔をしていたオーロックが、目を見開く。


 そんなオーロックの表情の変化を見ていた、3人の仲間たちも、そのオーロックの顔を、不思議そうに見つめた。


「……なるほどな。わかった、わかった。この話は、少し考えさせてくれ。数日、アルデナに滞在して、考えをまとめてから、また来よう」


 オーロックが、はっと表情を取り戻して、そう告げる。

 フルミは、驚くほど静かな目をしていた。


 ミドゥリが、その、いつもと違うフルミの表情を見て、微かに驚愕する。

 フルミは、どこか母性を感じさせる瞳で、オーロックを見つめていた。


「話は以上かね。あー、尻が痛い。この椅子、座り心地がちいっとも良くないよお! あたしの今の尻は薄っぺらいんだから、ふかふかの座布団をくれないとねえ! 」


 そして、いつもの調子に戻ったフルミに、ミドゥリは「考えておきます」と返事をした。

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