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第4話 フェミニストおばあちゃん

 神殿で暮らし始めてから、一週間が経過した。


 キヌことフルミは、その間、この世界のことを徹底的にミドゥリによって叩き込まれていた。


「ミドゥリ様! フルミ様! 」


 ある日、シスターが慌てた様子で、扉を開ける。

 そして、2人に気付くと、すっと体をスクワットするように下げる。これが、神殿での正式な挨拶の方法だった。


「……どうしたの、急に。今、フルミ様のお勉強を見てあげているんだけど……」

「いえ、勇者様一行が、お二人にお目通りしたいと願っております! 」

「……あのいけすかない男ねえ……でも、勇者を手ぶらで帰すわけにはいかないし。はあ。フルミ様、参りましょう」


 ミドゥリがそう言って、フルミの机の上の書物を軽くそろえる。

 フルミは、その幼い顔を上げて、きょとんとミドゥリを見る。


「勇者様ってなんだい? ドラクエかなんかかなあ? ばあちゃんはピコピコを孫と一緒にやってたんだよお。ち、知能検査なんかもやったんだよお」

「フルミ様、全く何のことかわからないのですが、参りますよ。あと」


 と、ミドゥリは言葉を句切る。


「勇者には、あまり深入りなされないよう。あの男が勇者でなかったら、私も積極的に関わりたくない男ですので」


 そう言われ、フルミは軽く目を剥き、「恐ろしいねえ……」と呟いたのだった。




――

『謁見の間』にて、ミドゥリがフルミの左側に立ち、フルミは、王族の座る玉座のような椅子に座った。


「扉を開けなさい! フルミ様に、勇者様が謁見なされます!! 」

 ミドゥリがそう叫ぶと、神殿の真っ正面の扉がギギギと音を立てて開いた。


 フルミの前には、兜を抱えた赤い髪の青年が、進み出てくる。

 その後ろから、2人の若い女性と、1人の壮年の男性が続く。


「フルミ様、ごきげんよろしく」

 そう、赤い髪の青年が、頭を下げる。

 しかし、フルミはまたもや素っ頓狂な受け答えをしてしまう。

「ああ、ごきげんようだねえ。ばあちゃんは、尋常小学校しか通ってなかったんだけどねえ、周りのお嬢様方は、皆、『ごきげんよう』って挨拶してたんだよお! 羨ましかったねえ! お、おばあちゃんは、尋常小学校に通ってて……」

「フルミ様、おっしゃっていることがループしています」

「そうかい!? おばあちゃんはもうおばあちゃんだからねえ、同じ話を何度もしちゃうんだよお! 」


 フルミとミドゥリのそのやりとりを聞いて、勇者一行はぽかんと皆、口を開けた。

 それはそうだろう。

 以前のフルミは、決してこのような人物ではなかったのだから。

 

 見た目こそ10代前半の、銀髪と青い瞳を持った少女なのだから、そこから自分のことを「おばあちゃん」と言うこと自体が、おかしいのだ。


「……フルミ様よ。あんた、どうしたんだ? 」

「勇者様……いえ、オーロック、あまりフルミ様に無礼な口調は……」

「お前は黙っていろ」


 2人の女のうち、一人が、そう勇者をたしなめるものの、その一言で、勇者は女を退けてしまう。

 オーロック、と呼ばれた勇者は、再びフルミに向かって口を開いた。


「銀の麦畑のようにしなやかな銀髪に、『ヘヴンリーブルー』と呼ばれた天の青い瞳。確かにあんたは『風の女神・フルミ』だ。間違いはないだろうが……少し、性格が変わっているように思うのだが? 」

「オーロック、だからフルミ様にその口調は……」

「黙っていろと言っただろう! 」


 オーロックは、そう言って、パーティの女を突き飛ばした。

 女は、その衝撃で尻餅をつく。


 その瞬間、オーロックに向かって、フルミの怒声が響いた。


「女の子を粗末にするんじゃないよ!! この大馬鹿もんがっ!!!! 」


 今度は、その剣幕に、オーロックが二、三歩、たたらを踏む。

 フルミは、玉座から立ち上がって、オーロックの目の前まで歩みを進めた。


 10代前半のフルミと、20代後半であろうオーロックとでは、全く身長や体格からして違う……はずだったが、オーロックは、本能的な危機感を感じていた。

(風の女神フルミ――こんなに感情的な女神だったか? いや、しかし……)


 オーロックがそう感じているうちに、フルミは、オーロックに詰め寄る。


「女の子はねえ! 皆、一人一人がお姫様なんだよ!! だから、お姫様みたいに丁寧に、敬意を持って扱わないとバチが当たるぞ、このでれすけ(馬鹿者)が!! なんだい、女の子を突き飛ばすなんてザマは!! まああ、この男は何だろうねえ!? 謝りな!! この子にちゃんと謝るんだよ!! 」


 フルミは、腰に手を当てて、オーロックにそう、説教してみせる。

 オーロックがミドゥリに視線を移すと、ミドゥリも目を丸くしてこのやりとりを見ている。


「……あ、あの。フルミ様。私、平気ですから……」

「平気かどうかって話じゃないんだよ!! 体に傷さえつけなきゃ女の子を粗末に扱って良いって話じゃないんだ!! 聞いてんのかいこの男は!! 謝りなさい!! 謝らないと、あたしゃあんたを今後助けたりなんかしないよ!! 」


 フルミにそう怒鳴られ、オーロックは、不承不承という感じで、突き飛ばした女性に対して「悪かった……」と小さな声で言った。


 そう、おばあちゃんという生き物は、意外とフェミニストなのだ。

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