第2話 見た目はロリ!中身はババア!
異世界の王国・アルデナでは、一騒動が起きていた。
長らく姿を現さなかった風の女神『フルミ』が復帰したのである。
特に、神殿には多くの人が、女神の姿を見ようとつめかけていた。
「あれえー!! すっごいねえ!! 天皇陛下の一般参賀みたいだねえ!! 」
そう言って、今日も現れたのが……中身はキヌである、女神『フルミ』であった。
「あれが、女神様か!? 」
「思ったより幼いぞ……だが、何か、年の功のようなものを感じる……」
民衆がざわめく。
女神の外見年齢は、およそ10代前半頃であった。
背中まである長い髪は白く、銀髪のそれであった。
目は青い。少女そのものの大きな瞳は、輝くような光を放っている。
その神々しい外見に、目通りをした者はほうっと感嘆のため息をついた。
「え、え、みなさーん!ようこそ我が神殿にお集まりになられましたあー! ……で、いいのかい? カンペ、お姉ちゃん、カンペ出してくれないと、おばあちゃんわかんないよお! 」
「ミドゥリです。巫女の名前くらい覚えてください、フルミ様」
「ミドリちゃんかい!? 懐かしいねえ! 孫の友達で、そういえばミドリちゃんって子がいて、これまた素直で良い子でねえ……」
「ミドゥリです。フルミ様。雑談はそのあたりで……」
巫女であるミドゥリとの掛け合いを聞いた、最前列の者が、再びざわつく。
「フルミ様はどうしちゃったの? 」
「1年くらい神殿を空けたと思ったら、外見以外はまるで別人じゃないか」
……それもそのはず。
『梅沢キヌ(99)』が『風の女神・フルミ』になってから、大した日数が経っていないのだから。
「え、マアソノ-、これからも治安維持を頑張って……機動隊かい!? マアソノー、頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたしますねえー!! 」
「以上、フルミ様のお言葉でした。参列くださった方々は、こちらからお帰りください。足下お気を付けて」
ミドゥリが、率先して、出口の扉を開ける。
アルデナの民たちは、首をかしげながらぞろぞろとそこから立ち去っていった。
「フルミ様」
「なんだい?ミドリちゃん」
「あなたはアホですか。何ですか、『マアソノー』って」
「あたしは、女神様だろ!? 偉い人っていったら、角栄先生みたいにしなくちゃならないんだよ!! 」
「はあ……? 誰ですか、角栄先生って」
「田中角栄先生を知らないなんて、日本国民なのかい!? あ、ミドリちゃんは外人さんみたいだから、ここは日本じゃないのかい? 」
ミドゥリは、ため息をついた。
女神・フルミは帰ってきて、巫女のミドゥリの召喚に応じたのは良かったものの、その中身はすっかり変わってしまっていたのだった。
「なんでこうなったんですかね? 」
「それは、あの白髪頭のお姉さんのせいだよお! あのお姉さんが、ばあちゃんに女神になれって……そういえば、肩掛けを返して貰ってないねえ! あれは孫から貰った大事なものなんだよ! 」
「白髪頭、じゃなくて銀髪、といってくださいね。話は何回も何十回も同じ話をループして聞かされましたが、要するにあなたは、元フルミ様の代理として来ているということになりますが」
「代理? そう言ってあたしからお金巻き上げるつもりだろ!? おばあちゃんはテレビを観てるから、もう詐欺には引っかからないんだよ!? きゃ、キャッシュカードは絶対に渡しちゃいけませんって、林先生が言ってたんだよ! ……あの人は本当に頭が良いねえ~。東大だろ? あたしは尋常小学校にしか通ってなかったからねえ! 」
ミドゥリは、寝ているような半目で、その話を一通り聞き終えた。
そして、うーん、とうなるような声を上げる。
「まあ、ともかく、お勉強の時間です。この世界のことをよくわかってらっしゃらないようですから、沢山書物を読んで、知識を付けてくださいね」
「勉強! すごいねえ~、タダで勉強させてくれるんだから、ミドリちゃんは親切だねえ~。あたしは尋常小学校で読み書きソロバンを習って……」
「はいはい」
ミドゥリは、生返事をしつつ、外見だけは神秘的なロリの薄い尻を押して、図書室へと向かわせた。
――
「……ということで、このアルデナは、魔王軍の四天王の一人である、モギュートという魔人と長らく対戦を繰り返しました。魔人と戦った勇者軍は、無事に勝利を収め、もしまたアルデナに危機が迫った時のために、この風の神殿を建てたのです」
以外にも、フルミはその歴史を大人しく聞いている。
勉強熱心なのはいいけれど……いつもこんな感じでいてくれたら、と思うと、ミドゥリは考える。
風の女神の巫女になった際には、ミドゥリはわずか9歳だった。それから、17の今になるまで、神殿に仕え続け、『フルミ』と上手くやっていた……はずだった。
まさか、先代のフルミがいなくなって、異世界からババア……いや、おばあちゃんがフルミの中身になるとは。
「あたしゃ、歴史は得意なんだよ。じいさんがやってた、わ、わ、和算っていうのはさっぱりだったけどねえ」
そう胸を張るフルミに、ミドゥリは「良いからペンを動かしてください」と返答した。