第17話 悪党を倒して小銭集め
フルミの代わりに金を払ったオーロックは、さっさと歩き出した。
その後ろを、5人分のステーキ肉と魔法の氷の入った袋を持った華奢な少女のフルミが、ついていく。
「待っとくれよ、オーロック! あんた、10デニリオンも払っちまって、自分の分の買い物はいいのかい!? 」
「ああ……別に良いんだよ、大したことには使わねえ」
オーロックはそう言うが、フルミは、ポケットから1デニリオンを取り出す。
「せめて、1デニリオン、あんたが使っておくれよ! ばあちゃんはもういいから! 」
「ふざけんな。1デニリオンでどんな装備が買えるってんだ。剣を打ち直すのも10デニリオンかかるんだぜ? 」
「……オーロック。あんた、剣がぼろぼろなのかい? 」
「…………」
しまった、とばかりに、オーロックが口を片手で塞ぐ。
フルミは、小走りでオーロックの横に並んだ。
「それならそうと言えば良かったじゃないか! 皆、あんたが勝手なわがままで一人だけ10デニリオンを使っているって思ってるんだよ? こういう誤解は解いておくべきだとばあちゃんは思うよ! 」
「別に良いって言ってるだろ。婆様だって、なんで5人分も肉を買ってんだ。あの店なら、1人分を安い肉でも十分に美味いと思うぞ。それなら、1デニリオン払っても釣りが来る」
「だって……」
フルミが、足を止めた。
オーロックも、足を止めて、フルミの方を振り向く。
「だって……良いお肉を、皆で食べれば、より美味しいじゃないか。あたし一人で美味いの食べたって、そんなの美味いって思えないよ。普段、あれだけ貧しい食事をしてるんだ。皆に美味しいお肉を食べさせてあげたいって……」
「……ふん」
オーロックは、鼻を鳴らすと、再び路地裏を歩き始める。
そこは職人街らしく、あちこちで金属を打つ甲高い音が聞こえていた。
「しかし、婆様が俺に10デニリオン返したいと思うのなら、いい手がある」
「な、なんだい!? ばあちゃんは今なら何でもするよ!? 」
「なに、こういう路地裏を歩くだけで良い」
「歩くだけで良いのかい!? なんでそれでお金が貰えるんだい? 」
「それはな――」
そこで、後方から、ガチャリという金属音がした。
フルミは振り返り、オーロックは自分の大剣を肩に担ぎ上げる。
「――こういう奴らが、婆様にくっついてくるからだ」
そこには、3人のガラの悪い男たちが剣や鉈などで武装して、オーロックとフルミに視線を合わせていた。
「高級肉の『銀獅子』で買い物するガキが、こんなところにいて良いのかな? お父さんと歩いてるから良いのかな? 」
男の一人が、そう言って、片手剣を構えた。
オーロックが、ため息をつく。
「やめろ。俺はこんなでかいガキを持つ年じゃねえよ」
「じゃあ、恋人? うひょー! ずいぶん若い恋人を連れてるんだねえ! 」
「それも違う。俺を勝手にロリコンにするな」
「……なんだか、前に聞いたことのあるやりとりだねえ」
フルミはそう言って、じろりとオーロックを見やる。
「オーロック、あんたあたしを餌にしたね? 」
「こういう奴らは、割と金を持っているからな。倒して金を奪う」
すると、男の一人がゲラゲラと笑い始めた。
「おいおいおい! お兄ちゃん、まさか三対一で勝てると思ってる!? ずいぶん腕に自信があるようだなあ! お兄ちゃんが殺されちゃったら、そこのガキ持っていって風俗に売るからな? あれあれ、負けられないなあ、お兄ちゃん! 」
「……はあ。こんな奴らが『炎の神』のお膝元にいるってことが、間違いだよな、婆様? 」
「っていうか、三対一って、最初からあたしは数に入れられてないんだね」
フルミも、オーロックも、迎撃態勢に入った。
フルミは、横のオーロックに腕を突き出す
「ヘイスト! 」
「ウィンドシールド! 」
その2つの魔法を発動させると、オーロックの体が透明な膜で覆われる形になった。
剣がなまくらだったということはさておき、2mの熊を一撃で倒すオーロックが、少しも破れなかったシールドだ。
それに、体の動きを速くするヘイストをかけられたオーロックは、稲妻のように男たちへと駆けだした。
「やべえ! 本当に来やがった! 」
「しょうがねえ、倒すしかねーだろ! 」
男たちも剣や鉈を構えて……それから、一瞬だった。
ある男の視線からすると、まさに稲妻。
一瞬の光のように、赤毛のオーロックが迫り、そして遠ざかった。
「……は? あ……? 」
男が、腹から息を吐き出すと同時に、どさっとその場に倒れ伏した。
「ごえっ……ごほっ……」
「なん……だ? げほっ……」
しかも、二人の男が同時に、倒れる。
そう、オーロックは、剣で攻撃をしていない。
素手で、男たちの腹を殴り、そして突いたのだった。
「あ……! お、お前……! 『赤い髪の勇者・オーロック』!? 」
最後の、フードを被った男が、じりじりと後ろに下がる。
そして、逃げようとした男を、オーロックはやはりゴムで繋がれたかのようなスピードと正確さで、殴り、気絶させた。
「オーロック。最後のあいつは別に逃がしても……」
「婆様は甘いな。逃がしたら金が手に入らねえ。金を持っているのはあいつだ」
「……なんでそんなことがわかるんだい? 」
「金の匂いだ」
フルミは、呆れたように腕を組み、息をついた。