表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/18

第17話 悪党を倒して小銭集め

 フルミの代わりに金を払ったオーロックは、さっさと歩き出した。

 その後ろを、5人分のステーキ肉と魔法の氷の入った袋を持った華奢な少女のフルミが、ついていく。


「待っとくれよ、オーロック! あんた、10デニリオンも払っちまって、自分の分の買い物はいいのかい!? 」

「ああ……別に良いんだよ、大したことには使わねえ」


 オーロックはそう言うが、フルミは、ポケットから1デニリオンを取り出す。


「せめて、1デニリオン、あんたが使っておくれよ! ばあちゃんはもういいから! 」

「ふざけんな。1デニリオンでどんな装備が買えるってんだ。剣を打ち直すのも10デニリオンかかるんだぜ? 」

「……オーロック。あんた、剣がぼろぼろなのかい? 」

「…………」


 しまった、とばかりに、オーロックが口を片手で塞ぐ。

 フルミは、小走りでオーロックの横に並んだ。


「それならそうと言えば良かったじゃないか! 皆、あんたが勝手なわがままで一人だけ10デニリオンを使っているって思ってるんだよ? こういう誤解は解いておくべきだとばあちゃんは思うよ! 」

「別に良いって言ってるだろ。婆様だって、なんで5人分も肉を買ってんだ。あの店なら、1人分を安い肉でも十分に美味いと思うぞ。それなら、1デニリオン払っても釣りが来る」

「だって……」


 フルミが、足を止めた。

 オーロックも、足を止めて、フルミの方を振り向く。


「だって……良いお肉を、皆で食べれば、より美味しいじゃないか。あたし一人で美味いの食べたって、そんなの美味いって思えないよ。普段、あれだけ貧しい食事をしてるんだ。皆に美味しいお肉を食べさせてあげたいって……」


「……ふん」


 オーロックは、鼻を鳴らすと、再び路地裏を歩き始める。

 そこは職人街らしく、あちこちで金属を打つ甲高い音が聞こえていた。


「しかし、婆様が俺に10デニリオン返したいと思うのなら、いい手がある」

「な、なんだい!? ばあちゃんは今なら何でもするよ!? 」

「なに、こういう路地裏を歩くだけで良い」

「歩くだけで良いのかい!? なんでそれでお金が貰えるんだい? 」

「それはな――」


 そこで、後方から、ガチャリという金属音がした。


 フルミは振り返り、オーロックは自分の大剣を肩に担ぎ上げる。


「――こういう奴らが、婆様にくっついてくるからだ」


 そこには、3人のガラの悪い男たちが剣や鉈などで武装して、オーロックとフルミに視線を合わせていた。



「高級肉の『銀獅子』で買い物するガキが、こんなところにいて良いのかな? お父さんと歩いてるから良いのかな? 」


 男の一人が、そう言って、片手剣を構えた。

 オーロックが、ため息をつく。


「やめろ。俺はこんなでかいガキを持つ年じゃねえよ」

「じゃあ、恋人? うひょー! ずいぶん若い恋人を連れてるんだねえ! 」

「それも違う。俺を勝手にロリコンにするな」


「……なんだか、前に聞いたことのあるやりとりだねえ」


 フルミはそう言って、じろりとオーロックを見やる。


「オーロック、あんたあたしを餌にしたね? 」

「こういう奴らは、割と金を持っているからな。倒して金を奪う」


 すると、男の一人がゲラゲラと笑い始めた。


「おいおいおい! お兄ちゃん、まさか三対一で勝てると思ってる!? ずいぶん腕に自信があるようだなあ! お兄ちゃんが殺されちゃったら、そこのガキ持っていって風俗に売るからな? あれあれ、負けられないなあ、お兄ちゃん! 」

「……はあ。こんな奴らが『炎の神』のお膝元にいるってことが、間違いだよな、婆様? 」

「っていうか、三対一って、最初からあたしは数に入れられてないんだね」


 フルミも、オーロックも、迎撃態勢に入った。

 フルミは、横のオーロックに腕を突き出す


「ヘイスト! 」

「ウィンドシールド! 」


 その2つの魔法を発動させると、オーロックの体が透明な膜で覆われる形になった。

 剣がなまくらだったということはさておき、2mの熊を一撃で倒すオーロックが、少しも破れなかったシールドだ。

 それに、体の動きを速くするヘイストをかけられたオーロックは、稲妻のように男たちへと駆けだした。


「やべえ! 本当に来やがった! 」

「しょうがねえ、倒すしかねーだろ! 」


 男たちも剣や鉈を構えて……それから、一瞬だった。


 ある男の視線からすると、まさに稲妻。

 一瞬の光のように、赤毛のオーロックが迫り、そして遠ざかった。


「……は? あ……? 」


 男が、腹から息を吐き出すと同時に、どさっとその場に倒れ伏した。


「ごえっ……ごほっ……」

「なん……だ? げほっ……」


 しかも、二人の男が同時に、倒れる。

 そう、オーロックは、剣で攻撃をしていない。

 素手で、男たちの腹を殴り、そして突いたのだった。


「あ……! お、お前……! 『赤い髪の勇者・オーロック』!? 」


 最後の、フードを被った男が、じりじりと後ろに下がる。


 そして、逃げようとした男を、オーロックはやはりゴムで繋がれたかのようなスピードと正確さで、殴り、気絶させた。


「オーロック。最後のあいつは別に逃がしても……」

「婆様は甘いな。逃がしたら金が手に入らねえ。金を持っているのはあいつだ」

「……なんでそんなことがわかるんだい? 」

「金の匂いだ」


 フルミは、呆れたように腕を組み、息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ