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第15話 癒やし系おばあちゃん

「さあ、着きましたぞ!いよいよ、『炎の神殿の街』デニールです! 」

「はええ、ずいぶんと門の前に馬車や人がいるもんだねえ? リカルド、あたしたちが並んでいるのはなんでだい? 」

「検問と通行税ですな。まあ、私の杖とリリーシャの錫杖はまだしも、モリジニアの片手剣や、オーロックの大剣などは大抵没収されてしまいます」

「ええ!? 」


 馬車の外に顔を出していたフルミが、声を上げて振り向く。


「……それは、返して貰うことはできるのかい? 」

「というか、没収されませんよ。モリジニアもそうですが、オーロックの剣は宝珠付きの魔剣ですからな。『これは、実際に使うわけではなく、財産として持っているのです』と誤魔化せばどうにかなるのです」

「はあ~~~」


 フルミが、感心して、もう一度馬車の幌から顔を出した。


「現在、我々が日常的に使っている『デニール』という通貨の単位を決めたのも、このデニールの街ですからな。『炎の街デニール』とは呼ばれているものの、実際の所は『商売の街』でもあるわけです」


 筋肉の発達した姿からは想像できないほど、リカルドはよどみなくすらすらと答えてみせる。

 戦いより頭を使う方が得意だというリカルドは、なるほど、街のことをよく知っているようだ。


「じゃあ、あたしの竹槍と明智十兵衛光秀はどうなんだい!? 没収されちまうのかい!? 」

「されるわけねーだろ」


 オーロックが、そう言って上半身を起こす。

 頭まですっぽりと毛布を被って眠っていたところだったが、起きたようだ。


「だって、マジックアイテムだって、ミドリちゃんが……」

「ミドリ……? ああ、愛想のない巫女か。そんな名前だったか……まあいい。婆様のそれは、マジックアイテムだと一見すると気付かない程度だろ。その情報端末の方は、どこにでも売ってる程度のもんだ。安くはないが、手に入らないわけでもない」


 ガリガリと、頭を掻きながらオーロックが続ける。

 フルミは、ぱあっと顔を輝かせた。


「そうかい!? じゃあ、取り上げられないんだね!? 竹槍も、明智十兵衛光秀も、あたしにとっちゃ必要なんだよ!! 」

「……まあ、不必要なもんを旅に持ってこられるよりはマシだがな」


 オーロックは、じろりとフルミを見やると、くあっとあくびをしてから、御者台に顔を向ける。


「リカルド、お前は荷物と一緒に検問を頼む。俺は税を払ってくる」

「おお、頼みましたぞ、オーロック。5人で5デニール。はい、確かに預けました。買い物用の1デニリオンは別途でお渡しします」

「おう。女共も来い。後でリカルドと合流したら、自由時間だ」


「自由時間! 」

「お買い物の時間なのです! 」


 女性二人は、わくわくとした顔で、目を輝かせた。

 確かに、この大きな門の限りでは、かなりの規模の市が並んでいるだろう。


「婆様も、適当に市を見てくると良い。だが、スリや強盗には気をつけろ。特に、デニールでは強盗が多いからな。婆様みたいな、一見ちっこくて細い女だと、狙われることもある」

「え、ええ~!? おばあちゃんは、振り込め詐欺にも狙われるけど、若くなった後も強盗に狙われるのかい!? 」

「それだけじゃない。まあ、婆様は普通の女じゃないからな……大丈夫だとは思うが、婆様みたいな幼い女を好きな変態もいる。気をつけることだ」


「……な~んか怪しいなあ……」

「勇者殿は、フルミ様にだけ態度が違うのです……」


 女性二人が、好奇の視線を送る。

 オーロックは、声を張り上げた。


「んなわけねーだろ! 婆様は神殿から出るのも初めてだから、注意してやっただけだ! お前らの恋愛脳はどうにかならねえのか! 」

「怪しいのです~」


 クスクスと笑いながら、女性二人は、小声で囁く。


「……なんだか、フルミ様と一緒にいると、オーロックが昔のオーロックに戻っている気がするんだけど」

「フルミ様効果なのですかね。今のフルミ様は、前のフルミ様より、ずーっと一緒にいて居心地が良いのです……」


 デニール硬貨の、穴の空いたところに紐を通し、腰から提げると、女性たちの前を行くオーロックは振り向いた。


「はぐれたらめんどくせえ。お前ら、ちゃんと付いてこいよ」

「はいはい」

「わかっているのです」


「オーロック! 見たことない赤い鳥がいるよ! 綺麗だねえ! 」

「婆様! はぐれるって言ってんだろ! 人の話聞け! 本当にめんどくせえ女だな、あんた! 」


 オーロックは、門の向こうを見ているフルミにツカツカと歩み寄り、ぎゅっと手を握る。


「あれえ、介護かい? 老人介護の精神に目覚めたのかい? オーロック」

「うるせえ。ちゃんと固まって列に並べ、婆様。あと、ちゃんとフードも被っておけよ。……風の女神だってばれて良いのは、他の神の前でだけだ」


 オーロックがフルミの手をぐいぐいと引っ張り、列に並ばせると、先に並んでいた女性二人が吹きだした。


「介護っていうか、娘を連れてきたお父さんみたいだね、オーロック! 」

「やばいのです、連れ去り案件なのです! 」


「こんなでかい娘がいてたまるかよ! あと、俺はロリコンじゃねえ! 」

「あれえ、そういえば、水商売のお姉さんもムチムチボインの子がタイプだっけえ? 」

「俺の性癖はどうでもいいだろ婆様! 黙ってろ! 」


「……あっちは賑やかですなあ? 本当に、昔に戻ったようだ……」

 リカルドは、オーロックたちと離れた御者台の上で、しみじみと呟いた。

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