表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/18

第14話 勇者様をイジってみよう

「はあ……最初の依頼をこなしたと思ったら、たった5デニリオンか。魔獣も、熊一匹だと? 全く心躍らない依頼で何よりだ」


 馬車の中、オーロックが銀貨を指で空中に弾いては、それを手のひらでつかむ。

 仮にも、オーロックは勇者であるし、その退屈さ加減は仲間たちもわかっていた。


「しかし、一銭にもならないよりはマシでしょうな」

「それもそうだが。リカルド、金勘定はお前に任せる」

「はいはい。私は戦うよりも、商人として金を数えていた方がマシですがな」


 ヒーラーであり、恵まれた体型をしているリカルドだが、そう言ってため息をついた。


「5デニリオン? 要するに5万円だろ? ちゃんとした依頼じゃないか」

「ごまんえん……? よくわからんが、俺たちが直々に売れば、10デニリオンだったんだぜ? それに、俺たちは仮にも勇者ご一行だ。5デニリオンくらいでどうのこうの言っていたら、装備も何も買えやしない」


 フルミは、ふうっと息をついて、馬車の側面に体を預けた。


「それにしても、次の炎の街は、大きい所なんだろうね? 」

「はい。炎の街デニールは、とても大きなところです」

「そこには、炎の神が祀られていますのです。露店市も沢山出ていて、かなり活気がある街なのです! お買い物ができますのです! 」


 女性は買い物でストレスを発散するというが、モリジニアとリリーシャもその性質を持っているらしい。

 二人で、「お買い物! いえーい! 」とハイタッチをしてみせる。


「おい、リカルド、デニールでは一人当たりいくら支給される? 」

「うーむ……5デニール……いや、奮発すれば1デニリオンは配れますな! 」

「……だとよ、女共」


「「うえーい……」」


 1デニリオンは、現代日本の価値で言うと、1万円である。

 1デニールが1000円なので、5デニールは5000円、かなり奮発をしたようだが。


「1デニリオンごときで我々の欲望は満たされないですよ……」


 モリジニアが、がっくりと肩を落とす。

 オーロックは、そんな女性たちを見て、ふん、と鼻を鳴らして横になった。

 自分から気勢を削いでおいて、この態度である。


「……あんた、本当にどうしようもない男だね」


 フルミがそう言うと、オーロックは、フルミと反対方向に寝返りをうつ。


「そんなに女共を哀れと思うなら、婆様自身が活気づけてやればいいじゃないか。お節介焼きの婆様が」

「こういうのはリーダーであるあんたが言うからこそ、だろ。あんたはいつもの態度が態度なんだから、あんたが気を使って喋ってやれば、あの子たちだってわかってくれるさ」

「……めんどくせえ婆様だな。俺はあいつらにも、あんたにも、好かれようとは思わないね」

「……あんたも相当めんどくさいと思うよ」


 オーロックは、もはや何も言うつもりはないらしく、そこで黙った。

 フルミは、仕方なく、女性たちの所に戻って、気落ちしている女性たちの側に座った。


「あんたたち、オーロックが半分の5デニールしか要らないから、女の子で分けろって言ってたよ! 」

「ばっ……! 言ってねーよ!! 」

「ほら、聞いてる。本当はこの子たちが気になるって、普通に言えば良いじゃないか。素直じゃないねえ。そういうのは尋常小学校で卒業しないと」

「……? 何小学校だって? ともかく、俺は勇者特権で10デニリオン貰うつもりだからな、リカルド! 」

「えっ……ああ……はい……」


 急に話を振られたリカルドが、仕方なさそうに返事をする。

 

「勇者特権とか、ずるいのです」

「オーロック、横暴すぎるぞ! 」

「うるせえうるせえ、婆様、こういうのが女共の厄介なところだ。ちょっと甘い顔をすると、これだ。こんな奴らにかしづくような真似をするなんて、世のフェミニストとやらもお里が知れるところだな」


「オーロック、女の子は大事にしないといけないよ」


 フルミが、静かに言う。

 その声のトーンの真面目さに、一瞬馬車内がしんと静まった。


「……婆様はフェミニストで結構なことだな。俺が熊を仕留めなければ、こいつらは5デニリオンですら稼げなかったんだぜ? 」

 吐き捨てるように、オーロックが言った。

 フルミは、フードの下の、青い瞳で寝転がったままのオーロックを見つめる。


「…………わかったよ。今のは俺も言い過ぎた。謝る」


 向こうを向いたままのオーロックが、ぼそりとそう告げた。


「オーロックが……! 」

「謝ったのです……! 」


「うるせーな女共! 一言謝ったくらいでいちいち騒ぐんじゃねえようっとうしい! 第一、人が寝ようと思ってる時に騒ぐんじゃねえ! 」


「……全く、素直じゃないんだから。でも、謝ったのは偉い。どれ、ばあちゃんが、子守歌を歌いながら膝枕でもしてやろうか? 」

「婆様の外見だと、俺がロリコンに思われるじゃねえか! やめろ! 馬車だって通るし、歩いてる奴らだっているんだぞ!? 」


「……なんだかんだでオーロックも、フルミ様には敵わないようですな……」


 御者台で手綱を操りながら、リカルドが小さな声で呟いた。

 それに応えるように、馬車を引く馬たちが、ブルル、と鼻を鳴らしてみせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ